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あなたが誰でもきっと
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――月曜日。
カエデくんの家から出勤するのはこれで何度目だろう。
これからは毎日彼の家から通うことになるんだろうか。
車で送ると言うカエデくんの申し出を断って、でもまだ彼の家から最寄り駅までの道のりが怪しいので、駅まで歩いて送ってもらった。目印になるものをいくつか教えてもらったから明日からは一人で行けそうな気がする。
方向音痴を克服することはなかなか出来そうにないけど、こうやって少しずつ努力するしかない。
「若月ちゃん、おはよう」
「おはようございます。体調はどうですか?」
「うん、もう大丈夫だよ、元気元気!」
「それなら良かったです」
「若月ちゃんにも迷惑かけちゃって、ごめんねー」
「いえ、ぜんぜん大丈夫です」
私の後輩は、相変わらず可愛い。
そう言えば彼女も五つ年下だっけ。という事は、カエデくんと同い年か。
なんて、仕事中なのにカエデくんのことを思い出したりして、気が緩みすぎだな私。ダメダメ、切り替えなければ。
午後一番の会議に備えて、資料や段取りを確認する。
本社の役員が子会社の役員を兼ねていることもあって、本社で子会社関連の会議をすることが時々ある。今日の会議もそう。確か食品関連を扱う子会社だったはずだ。
子会社から送られてきた資料をプリントアウトして必要部数揃えていく。プロジェクターなども使うだろうから、その機材の確認も必要だ。私はいつも通りの業務もこなしつつ、それらの準備もどんどん進めていく。
通勤時間が大幅に短縮されたことと食生活が万全だからか体調がすこぶる良くて、仕事がとてもはかどるのは喜ばしいことだ。
会議以外の他の仕事も同時進行でバタバタと仕事を片付けているうちにいつの間にかお昼休憩の時間を迎えていて、私はバッグからカエデくんが作って持たせてくれたお弁当を取り出した。
いつもは交代で休憩を取るけれど、今日は午後の仕事の関係で一緒に取ることになっていて、ふたり並んでお弁当を広げる。
「わ、野村さん、美味しそうなお弁当ですね!」
「あー、うん。一緒に住んでる子が作ってくれて……」
「同居人の方はお料理上手ですね」
「そうなんだよー。私は料理音痴だから、すごく助かってる」
「……あれ? 野村さんって、たしか一人暮らしって言ってませんでした?」
「んー、それが、最近同居し始めてねー、あはは」
同居と言うより同棲の方が正解なんだけど、ここは詳しいことを言わないでおく。
お昼休憩の時間が終わり、午後からの仕事を開始する。
会議は一時半から。準備はすでに午前中に終えていて、あとは会議開始を待つだけだ。
段取りを確認し終えるのと同時に、エレベーターが到着音を鳴らす。
子会社の役員が早めに来て本社役員に挨拶することは珍しくないから、きっと今日の会議の参加者のひとりが来たのだろう。私と若月ちゃんはすぐに立ち上がって、来訪者を迎える。
「……え?」
思いもかけない人物の登場に思わず間抜けな声を出してしまったのは、もちろん私だ。
「カエデ、くん……?」
エレベーターから降りてきたのは、今朝私を駅まで送ってくれたカエデくんだ。いつものラフな格好ではなくビシッとスーツを着て、普段はふわふわの髪も今日はきちんとセットしている。
顔立ちが綺麗すぎるのも相まってあまりにも素敵で、私は思わず見惚れてしまった。
「楓さん、いらっしゃいませ。お早いですね」
「結麻ちゃん、久しぶりー。先に伊吹に会っておきたくて、ちょっと早めに来たんだ」
「そうでしたか」
え? 待って待って? 何、どう言うこと?
若月ちゃんとカエデくんは、知り合いなの……?
カエデくんの家から出勤するのはこれで何度目だろう。
これからは毎日彼の家から通うことになるんだろうか。
車で送ると言うカエデくんの申し出を断って、でもまだ彼の家から最寄り駅までの道のりが怪しいので、駅まで歩いて送ってもらった。目印になるものをいくつか教えてもらったから明日からは一人で行けそうな気がする。
方向音痴を克服することはなかなか出来そうにないけど、こうやって少しずつ努力するしかない。
「若月ちゃん、おはよう」
「おはようございます。体調はどうですか?」
「うん、もう大丈夫だよ、元気元気!」
「それなら良かったです」
「若月ちゃんにも迷惑かけちゃって、ごめんねー」
「いえ、ぜんぜん大丈夫です」
私の後輩は、相変わらず可愛い。
そう言えば彼女も五つ年下だっけ。という事は、カエデくんと同い年か。
なんて、仕事中なのにカエデくんのことを思い出したりして、気が緩みすぎだな私。ダメダメ、切り替えなければ。
午後一番の会議に備えて、資料や段取りを確認する。
本社の役員が子会社の役員を兼ねていることもあって、本社で子会社関連の会議をすることが時々ある。今日の会議もそう。確か食品関連を扱う子会社だったはずだ。
子会社から送られてきた資料をプリントアウトして必要部数揃えていく。プロジェクターなども使うだろうから、その機材の確認も必要だ。私はいつも通りの業務もこなしつつ、それらの準備もどんどん進めていく。
通勤時間が大幅に短縮されたことと食生活が万全だからか体調がすこぶる良くて、仕事がとてもはかどるのは喜ばしいことだ。
会議以外の他の仕事も同時進行でバタバタと仕事を片付けているうちにいつの間にかお昼休憩の時間を迎えていて、私はバッグからカエデくんが作って持たせてくれたお弁当を取り出した。
いつもは交代で休憩を取るけれど、今日は午後の仕事の関係で一緒に取ることになっていて、ふたり並んでお弁当を広げる。
「わ、野村さん、美味しそうなお弁当ですね!」
「あー、うん。一緒に住んでる子が作ってくれて……」
「同居人の方はお料理上手ですね」
「そうなんだよー。私は料理音痴だから、すごく助かってる」
「……あれ? 野村さんって、たしか一人暮らしって言ってませんでした?」
「んー、それが、最近同居し始めてねー、あはは」
同居と言うより同棲の方が正解なんだけど、ここは詳しいことを言わないでおく。
お昼休憩の時間が終わり、午後からの仕事を開始する。
会議は一時半から。準備はすでに午前中に終えていて、あとは会議開始を待つだけだ。
段取りを確認し終えるのと同時に、エレベーターが到着音を鳴らす。
子会社の役員が早めに来て本社役員に挨拶することは珍しくないから、きっと今日の会議の参加者のひとりが来たのだろう。私と若月ちゃんはすぐに立ち上がって、来訪者を迎える。
「……え?」
思いもかけない人物の登場に思わず間抜けな声を出してしまったのは、もちろん私だ。
「カエデ、くん……?」
エレベーターから降りてきたのは、今朝私を駅まで送ってくれたカエデくんだ。いつものラフな格好ではなくビシッとスーツを着て、普段はふわふわの髪も今日はきちんとセットしている。
顔立ちが綺麗すぎるのも相まってあまりにも素敵で、私は思わず見惚れてしまった。
「楓さん、いらっしゃいませ。お早いですね」
「結麻ちゃん、久しぶりー。先に伊吹に会っておきたくて、ちょっと早めに来たんだ」
「そうでしたか」
え? 待って待って? 何、どう言うこと?
若月ちゃんとカエデくんは、知り合いなの……?
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