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あなたのお仕事
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――外が明るさを取り戻し始めている。
もう朝か……。
起きてしまうのが惜しいほどの心地良い気だるさに包まれての目覚めだ。その気だるさの元を私と共に作り出した相手は、隣ですやすやと眠っている。
可愛い寝顔しちゃって……。昨夜のあの妖艶な姿とはあまりにも違いすぎでしょ。
隣で眠るカエデくんの寝顔をまじまじと見つめる。びっくりするほど整った顔だな、と改めて思う。
緩くウェーブしている彼の髪にそっと指を通すと、指からふわりとすり抜けた。その次の瞬間、寝ていたはず彼が、ふふ、と笑う。
「……ごめん、起こした?」
「ん、亜矢さんに髪触られるの、好きかも……」
「ええ?」
「ふふ、もう一回やって……?」
「……もう」
さっきと同じように彼の髪に指を通して梳くと、柔らかい髪が私の指からこぼれ落ちる。カエデくんは嬉しそうに笑っていて、ああなんだかしあわせな朝だな、としみじみと思う。
ずっとこうしていられたら、とも……。
「ふふっ、しあわせな朝だね~」
「……ええ?」
いま私が思っていたことと同じ事を彼が口にしたことに驚く。
「ずっとこうやってたいなぁ」
「……そうだね」
「あー、仕事、今日も休もうかなぁ」
「え? ダメだよ! 今日って仕事なの? ちゃんと行って! ほら、起きて起きて!」
「ええ~、やだ~」
子供みたいな事を言いながらも、カエデくんはゆっくりと上体を起こす。
先日私のせいで休ませてしまったし、これ以上彼の職場に迷惑をかけるのは本意じゃない。
一糸まとわぬ姿で抱き合ってそのまま眠っていたから当然彼の上半身は何も身につけていなくて、細身ながらも均整の取れた身体が私の隣で惜しげもなく晒されている。
昨夜のことを思い出したことによってまた私の身体が熱くなりそうになって、私は慌てて彼の身体から目をそらした。それを不自然に思われないようにと私も上体を起こし――かけたところで、トン、と肩を押されて、私の身体が再びベッドへと沈む。
「ちょ……、カエデくんっ」
私をベッドへ押し倒したのは当然カエデくんだ。
横たわっている私の顔の横に両手をついて私を見下ろしている彼は、口元に緩い笑みを浮かべていて……。
「ねえ、ちょっと、」
文句を言ってやろうと開いた口は、あっさりと彼に塞がれてしまった。
言葉を紡ぐはずが、侵入してきた彼の舌に絡め取られて、湿度の高い淫靡な音と、急激に速まった心臓の拍動に対応するために空気を求める荒い呼吸へと取って代わられる。
昨夜たっぷりと愛された私の身体はすぐにその熱を思い出してしまい、ただ荒く呼吸をしていただけだったものが甘い吐息に変わるのにそれほど時間はかからなかった。
彼が私の変化に彼が気づかないわけはなくて、私の唇を解放したかと思うと、すぐに私の耳元へと顔を埋める。
「……ね、え、カエデくん……っ、やめ……っ」
昨晩さんざん彼に全身を可愛がられたおかげで、私の弱い場所はきっと全て知られてしまっただろう。耳もそのひとつで……、彼は焦らすように私の耳介に舌を這わせ、ぴちゃり、と、わざと音を立てて私を煽る。
「……ね、まってっ、ぁ……ん、……っ」
普段は従順な忠犬のようなのに、この手の行為に限っては待てと言って待つような男じゃないと昨晩知った。普段とのギャップに目を回したのはつい数時間前のことだ。
彼を押しのけようとしたけれど全く効果はなくて、それどころかあっさりと手を拘束されてしまう。
「ねえ……、カエデ、くん……っ」
「なに? ふふ、もう、欲しいの……?」
唇を寄せたまま耳元でそう囁かれ、思わず上ずった嬌声を上げてしまった。くすくすといたずらっぽく笑む音や息づかいさえも私を昂ぶらせるには十分で……。
抗議をするはずがすっかりカエデくんに翻弄されて、私の口から漏れるのは甘ったるく恥ずかしい声ばかり。
違う、と口にしたところで彼の手にかかればそんな言葉は何の意味もなさなくて、結局ただただ快楽を求めて彼に縋りつくしかない。
そのままなすすべもなく彼の思うままに何度も何度も上りつめて……、最後は彼と共にベッドへと沈んだ――。
もう朝か……。
起きてしまうのが惜しいほどの心地良い気だるさに包まれての目覚めだ。その気だるさの元を私と共に作り出した相手は、隣ですやすやと眠っている。
可愛い寝顔しちゃって……。昨夜のあの妖艶な姿とはあまりにも違いすぎでしょ。
隣で眠るカエデくんの寝顔をまじまじと見つめる。びっくりするほど整った顔だな、と改めて思う。
緩くウェーブしている彼の髪にそっと指を通すと、指からふわりとすり抜けた。その次の瞬間、寝ていたはず彼が、ふふ、と笑う。
「……ごめん、起こした?」
「ん、亜矢さんに髪触られるの、好きかも……」
「ええ?」
「ふふ、もう一回やって……?」
「……もう」
さっきと同じように彼の髪に指を通して梳くと、柔らかい髪が私の指からこぼれ落ちる。カエデくんは嬉しそうに笑っていて、ああなんだかしあわせな朝だな、としみじみと思う。
ずっとこうしていられたら、とも……。
「ふふっ、しあわせな朝だね~」
「……ええ?」
いま私が思っていたことと同じ事を彼が口にしたことに驚く。
「ずっとこうやってたいなぁ」
「……そうだね」
「あー、仕事、今日も休もうかなぁ」
「え? ダメだよ! 今日って仕事なの? ちゃんと行って! ほら、起きて起きて!」
「ええ~、やだ~」
子供みたいな事を言いながらも、カエデくんはゆっくりと上体を起こす。
先日私のせいで休ませてしまったし、これ以上彼の職場に迷惑をかけるのは本意じゃない。
一糸まとわぬ姿で抱き合ってそのまま眠っていたから当然彼の上半身は何も身につけていなくて、細身ながらも均整の取れた身体が私の隣で惜しげもなく晒されている。
昨夜のことを思い出したことによってまた私の身体が熱くなりそうになって、私は慌てて彼の身体から目をそらした。それを不自然に思われないようにと私も上体を起こし――かけたところで、トン、と肩を押されて、私の身体が再びベッドへと沈む。
「ちょ……、カエデくんっ」
私をベッドへ押し倒したのは当然カエデくんだ。
横たわっている私の顔の横に両手をついて私を見下ろしている彼は、口元に緩い笑みを浮かべていて……。
「ねえ、ちょっと、」
文句を言ってやろうと開いた口は、あっさりと彼に塞がれてしまった。
言葉を紡ぐはずが、侵入してきた彼の舌に絡め取られて、湿度の高い淫靡な音と、急激に速まった心臓の拍動に対応するために空気を求める荒い呼吸へと取って代わられる。
昨夜たっぷりと愛された私の身体はすぐにその熱を思い出してしまい、ただ荒く呼吸をしていただけだったものが甘い吐息に変わるのにそれほど時間はかからなかった。
彼が私の変化に彼が気づかないわけはなくて、私の唇を解放したかと思うと、すぐに私の耳元へと顔を埋める。
「……ね、え、カエデくん……っ、やめ……っ」
昨晩さんざん彼に全身を可愛がられたおかげで、私の弱い場所はきっと全て知られてしまっただろう。耳もそのひとつで……、彼は焦らすように私の耳介に舌を這わせ、ぴちゃり、と、わざと音を立てて私を煽る。
「……ね、まってっ、ぁ……ん、……っ」
普段は従順な忠犬のようなのに、この手の行為に限っては待てと言って待つような男じゃないと昨晩知った。普段とのギャップに目を回したのはつい数時間前のことだ。
彼を押しのけようとしたけれど全く効果はなくて、それどころかあっさりと手を拘束されてしまう。
「ねえ……、カエデ、くん……っ」
「なに? ふふ、もう、欲しいの……?」
唇を寄せたまま耳元でそう囁かれ、思わず上ずった嬌声を上げてしまった。くすくすといたずらっぽく笑む音や息づかいさえも私を昂ぶらせるには十分で……。
抗議をするはずがすっかりカエデくんに翻弄されて、私の口から漏れるのは甘ったるく恥ずかしい声ばかり。
違う、と口にしたところで彼の手にかかればそんな言葉は何の意味もなさなくて、結局ただただ快楽を求めて彼に縋りつくしかない。
そのままなすすべもなく彼の思うままに何度も何度も上りつめて……、最後は彼と共にベッドへと沈んだ――。
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