上 下
64 / 78
あなたのお仕事

しおりを挟む
 ――外が明るさを取り戻し始めている。

 もう朝か……。
 起きてしまうのが惜しいほどの心地良い気だるさに包まれての目覚めだ。その気だるさの元を私と共に作り出した相手は、隣ですやすやと眠っている。

 可愛い寝顔しちゃって……。昨夜のあの妖艶な姿とはあまりにも違いすぎでしょ。

 隣で眠るカエデくんの寝顔をまじまじと見つめる。びっくりするほど整った顔だな、と改めて思う。
 緩くウェーブしている彼の髪にそっと指を通すと、指からふわりとすり抜けた。その次の瞬間、寝ていたはず彼が、ふふ、と笑う。

「……ごめん、起こした?」
「ん、亜矢さんに髪触られるの、好きかも……」
「ええ?」
「ふふ、もう一回やって……?」
「……もう」

 さっきと同じように彼の髪に指を通して梳くと、柔らかい髪が私の指からこぼれ落ちる。カエデくんは嬉しそうに笑っていて、ああなんだかしあわせな朝だな、としみじみと思う。
 ずっとこうしていられたら、とも……。

「ふふっ、しあわせな朝だね~」
「……ええ?」

 いま私が思っていたことと同じ事を彼が口にしたことに驚く。

「ずっとこうやってたいなぁ」
「……そうだね」
「あー、仕事、今日も休もうかなぁ」
「え? ダメだよ! 今日って仕事なの? ちゃんと行って! ほら、起きて起きて!」
「ええ~、やだ~」

 子供みたいな事を言いながらも、カエデくんはゆっくりと上体を起こす。
 先日私のせいで休ませてしまったし、これ以上彼の職場に迷惑をかけるのは本意じゃない。

 一糸まとわぬ姿で抱き合ってそのまま眠っていたから当然彼の上半身は何も身につけていなくて、細身ながらも均整の取れた身体が私の隣で惜しげもなく晒されている。
 昨夜のことを思い出したことによってまた私の身体が熱くなりそうになって、私は慌てて彼の身体から目をそらした。それを不自然に思われないようにと私も上体を起こし――かけたところで、トン、と肩を押されて、私の身体が再びベッドへと沈む。

「ちょ……、カエデくんっ」

 私をベッドへ押し倒したのは当然カエデくんだ。
 横たわっている私の顔の横に両手をついて私を見下ろしている彼は、口元に緩い笑みを浮かべていて……。

「ねえ、ちょっと、」

 文句を言ってやろうと開いた口は、あっさりと彼に塞がれてしまった。
 言葉を紡ぐはずが、侵入してきた彼の舌に絡め取られて、湿度の高い淫靡な音と、急激に速まった心臓の拍動に対応するために空気を求める荒い呼吸へと取って代わられる。
 昨夜たっぷりと愛された私の身体はすぐにその熱を思い出してしまい、ただ荒く呼吸をしていただけだったものが甘い吐息に変わるのにそれほど時間はかからなかった。

 彼が私の変化に彼が気づかないわけはなくて、私の唇を解放したかと思うと、すぐに私の耳元へと顔を埋める。

「……ね、え、カエデくん……っ、やめ……っ」

 昨晩さんざん彼に全身を可愛がられたおかげで、私の弱い場所はきっと全て知られてしまっただろう。耳もそのひとつで……、彼は焦らすように私の耳介に舌を這わせ、ぴちゃり、と、わざと音を立てて私を煽る。


「……ね、まってっ、ぁ……ん、……っ」


 普段は従順な忠犬のようなのに、この手の行為に限っては待てと言って待つような男じゃないと昨晩知った。普段とのギャップに目を回したのはつい数時間前のことだ。
 彼を押しのけようとしたけれど全く効果はなくて、それどころかあっさりと手を拘束されてしまう。

「ねえ……、カエデ、くん……っ」
「なに? ふふ、もう、欲しいの……?」

 唇を寄せたまま耳元でそう囁かれ、思わず上ずった嬌声を上げてしまった。くすくすといたずらっぽく笑む音や息づかいさえも私を昂ぶらせるには十分で……。
 抗議をするはずがすっかりカエデくんに翻弄されて、私の口から漏れるのは甘ったるく恥ずかしい声ばかり。
 違う、と口にしたところで彼の手にかかればそんな言葉は何の意味もなさなくて、結局ただただ快楽を求めて彼に縋りつくしかない。

 そのままなすすべもなく彼の思うままに何度も何度も上りつめて……、最後は彼と共にベッドへと沈んだ――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

推活♡指南〜秘密持ちVtuberはスパダリ社長の溺愛にほだされる〜

湊未来
恋愛
「同じファンとして、推し活に協力してくれ!」 「はっ?」 突然呼び出された社長室。総務課の地味メガネこと『清瀬穂花(きよせほのか)』は、困惑していた。今朝落とした自分のマスコットを握りしめ、頭を下げる美丈夫『一色颯真(いっしきそうま)』からの突然の申し出に。 しかも、彼は穂花の分身『Vチューバー花音』のコアなファンだった。 モデル顔負けのイケメン社長がヲタクで、自分のファン!? 素性がバレる訳にはいかない。絶対に…… 自分の分身であるVチューバーを推すファンに、推し活指南しなければならなくなった地味メガネOLと、並々ならぬ愛を『推し』に注ぐイケメンヲタク社長とのハートフルラブコメディ。 果たして、イケメンヲタク社長は無事に『推し』を手に入れる事が出来るのか。

恋煩いの幸せレシピ ~社長と秘密の恋始めます~

神原オホカミ【書籍発売中】
恋愛
会社に内緒でダブルワークをしている芽生は、アルバイト先の居酒屋で自身が勤める会社の社長に遭遇。 一般社員の顔なんて覚えていないはずと思っていたのが間違いで、気が付けば、クビの代わりに週末に家政婦の仕事をすることに!? 美味しいご飯と家族と仕事と夢。 能天気色気無し女子が、横暴な俺様社長と繰り広げる、お料理恋愛ラブコメ。 ※注意※ 2020年執筆作品 ◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。 ◆無断転写や内容の模倣はご遠慮ください。 ◆大変申し訳ありませんが不定期更新です。また、予告なく非公開にすることがあります。 ◆文章をAI学習に使うことは絶対にしないでください。 ◆カクヨムさん/エブリスタさん/なろうさんでも掲載してます。

クリスマスに咲くバラ

篠原怜
恋愛
亜美は29歳。クリスマスを目前にしてファッションモデルの仕事を引退した。亜美には貴大という婚約者がいるのだが今のところ結婚はの予定はない。彼は実業家の御曹司で、年下だけど頼りになる人。だけど亜美には結婚に踏み切れない複雑な事情があって……。■2012年に著者のサイトで公開したものの再掲です。

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる

春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。 幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……? 幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。 2024.03.06 イラスト:雪緒さま

私の婚活事情〜副社長の策に嵌まるまで〜

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
身長172センチ。 高身長であること以外はいたって平凡なアラサーOLの佐伯花音。 婚活アプリに登録し、積極的に動いているのに中々上手く行かない。 名前からしてもっと可愛らしい人かと…ってどういうこと? そんな人こっちから願い下げ。 −−−でもだからってこんなハイスペ男子も求めてないっ!! イケメン副社長に振り回される毎日…気が付いたときには既に副社長の手の内にいた。

出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜

泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。 ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。 モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた ひよりの上司だった。 彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。 彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

処理中です...