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ずっと一緒にいたいから

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「カエデくん、ごめん……、ごめんね……っ」
「亜矢さん、大丈夫だよ。だから、落ち着いて?」

 落ち着けるはずがない。
 孝治の振り下ろした拳はカエデくんの腕にかなりの強さで当たったはずだ。

「それよりも、亜矢さんの方が心配。大丈夫? 掴まれてたところ、痛くない?」

 孝治に腕を強く掴まれていたことを言っているのだろう。
 スーツの上にコートを着ていたこともあって、いまはもうあまり痛さもない。もしこれが夏場だったら握られた痕がくっきりと残っていたに違いない。

「私は大丈夫。それより、カエデくんの方が……っ」
「大丈夫だよ、なんともない。とりあえず、帰ろう?」

 本来カエデくんと待ち合わせるはずだった場所に止めてあった車に乗り込み、カエデくんの家へと車を走らせる。
 その途中で、カエデくんはなぜか少し嬉しそうな笑みを漏らした。

「……カエデくん、どうしたの?」
「ええ? ふふ、だって亜矢さんが」
「……え?」
「ふふ。嬉しかったなぁ」
「え、何が……?」
「だって、言ってくれたでしょ? 僕のこと、好き、って」
「えー、あー、言った……、かな……?」

 あれは、孝治があまりにもカエデくんに失礼なことを言うから、つい、本音が……。
 と言うか、聞いてたんだ……。まさか本人に聞かれているとは思いもしなかった。聞かれていると分かっていたなら、もう少し言葉を選んだのに。

「ふふ、言ってたよ? あ、安心して? もてあそんだり使い捨てたりなんか、絶対にしないから」
「ええ……?」
「亜矢さんのこと、ちゃんと大事にする」
「う……」
「だから、一緒に住もう? ね?」
「……え、っと、私、カエデくんに言ってないことが……」
「うん?」

 そう、私は、カエデくんに言っていないことがある。私の汚点とも言えること。私の、最低な部分。
 ひとつはもうバレてるけど、もうひとつのことも含めて、これはちゃんと自分の口から伝えておかなきゃいけない。

「あのね……、私、料理が、全然ダメで……」
「……うん」
「だからね……」
「……ふふ。それ、気にしてたんだ?」
「……うん」
「そっか。うん、大丈夫だよ。そんなの、全部僕がやるから」
「……でも」
「言ったでしょ? 三食プラスおやつとデザート付きだ、って」
「う、ん、まぁ……」
「それだけじゃ、ダメ?」
「そ、そうじゃなくて……」
「うん?」

 私の汚点は、料理が出来ないって言うだけじゃない。それだけじゃ、なくて……。

「その……、さっきの孝治との話をどこまで聞いてたか分からないんだけど……」
「うん」
「私、カエデくんのこと……カエデくんの仕事のこと、ひどい誤解をしてて……。それで、私も孝治のこと言えないかも、って……」
「うん」

 孝治に偉そうに反論したけど、私だってカエデくんのことを〝ホスト〟だとか〝チャラい〟とかって思っていた。完全に見た目だけで判断をして、本当の彼を見ようともしなかった。
 それをカエデくん本人に黙ったまま孝治だけを悪者にするのは、絶対に間違ってると思う。

「あのね……、実は、私も……最初はカエデくんのこと、ホストかも、って、思ってて……。ごめんなさい」
「あはは、そんなの、気にしなくていいのに」
「ううん。私は本当に最低なの。カエデくんに、こんな風に優しくしてもらえる資格なんかない……」
「……亜矢さん」

 車はいつの間にか彼の住むビルの前まで来ていて、スロープを下って地下駐車場へと到着する。
 まだ話さなければいけないことがいっぱいあって、私はそのまま話を続ける。

「本当に……、本当に、最低だよね。ごめんなさいっ」
「いいよ、大丈夫、そんなこと気にしてないよ?」
「そ、それに私……、カエデくんの名前だって、最初、覚えてなくて……っ」
「ふふ、そっか」
「ほんとに色々、ごめんなさい……」

 私は助手席に座ったまま頭を下げた。本当なら土下座でもしたい気分だ。
 そんな私を見たカエデくんは、「なぁんだ、そんなことかぁ、ふふっ」と、いつも通りの感じで笑っている。
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