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ずっと一緒にいたいから

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「……孝治っ、腕、放してっ。痛い……っ」
「放したらお前、逃げるだろ!?」
「に、逃げないよっ。あと、場所を移そう?」
「人に聞かれたら困ることでもあんのか!?」
「そう言うことじゃなくて……っ」

 きっともう私の言葉は、彼には届かない……。
 彼の言葉が、もう私には届かないのと同様に――。

「亜矢は、あんなのが好みなのか!?」
「何のこと?」
「あんな、チャラいホストみたいな年下のガキが好みなのか、って聞いてんだよ!!」
「ちょっとっ! それは言い過ぎでしょ!? それに、それこそ孝治には関係ないっ」
「あのガキに、身体と金でも差し出したのか? それぐらいしか能がないもんな……?」
「な……っ!!」

 ……許せない。
 私のことは百歩譲って何を言われても良いとして。カエデくんの事を、そんな風にこの人に言われる筋合いはない。

 そりゃ私だって最初はカエデくんのことを誤解していた。チャラいって思ってたし、ホストかもって思ってたし、年下は恋愛対象外だった。
 でも……。
 一緒に過ごしてカエデくんのことを知るにつれて、それは全て私の勘違いだって、分かった。

 カエデくんは決してチャラくなんかない。ただ見た目が激しく良すぎるだけだ。
 飲食店勤務だって言ってたけど、きっとホストなんかでもない。どんなお店で働いてるのかは分からないけど、彼は接客よりも、きっと料理を作る方の人間だと思う。それは彼が私に振る舞ってくれた丁寧な手料理が全てを物語っていた。
 私自身は年下は恋愛対象外だと思ってたけど、それも私の勝手な思い込み。過去の私はたまたま惹かれた相手が同学年か年上ばっかりだっただけで、年下には目を向けていなかっただけ。

 だから……、
 だから…………。

「ガキに良いように遊ばれて捨てられるのがオチだぞ!?」
「……カエデくんの事を悪く言わないでよ!! 彼はそんな人じゃない!! それに、もしそんな風に捨てられたとしたって、私はっ、カエデくんの事が好きなのっ!!」
「……っ、クソ……っっ!!」

 孝治が、私を掴んでいるのとは逆の手を拳に握った状態で振り上げているのが見える。
 ……殴られる!?
 そう思って身体を引こうとしたけど、孝治に腕を強く掴まれたままなので、それは不可能だった。
 孝治の拳が振り下ろされるのが見え、私は殴られる覚悟をしてギュッと目を瞑る。このまま私が殴られて孝治の気が済むのなら……、そう思って……。

 けれど、孝治が振り下ろした腕は私には当たることなくて、私を掴んでいた孝治の手が解かれる。驚いて目を開けると――そこには孝治の振り下ろした手を左腕で受けて私を庇うカエデくんの姿があって……。

「カエデくん……っ!!」
「……っ、亜矢さん、大丈夫……?」
「私は、大丈夫……、それより、カエデくんの方が……っ」
「大丈夫。亜矢さんがなかなか来ないから、心配しちゃった」

 そう言っていつものふんわりとした笑顔を私に向ける。
 孝治の手が振り下ろされたと思われる瞬間、鈍い音がした。孝治の拳がカエデくんの腕に思いっきり当たった音だったのだろう。カエデくんは笑っているけど、きっととても痛いはずだ。

「ねえ、カエデくん、腕……っ」
「大丈夫だよ」
「……くそっ、邪魔しやがって……っ」

 カエデくんに邪魔をされた格好になった孝治はますます興奮して、その顔はまるで鬼の形相だ。
 そんな孝治から私を隠すように、カエデくんが私の前に一歩出る。

「女の子に暴力とか、最低な人ですね?」
「……う、るさいっ!! ホストみたいなガキに、亜矢は渡さないっ!!」
「まだ暴力を振るう気ですか? だったら警察を呼ばざるを得ませんが……?」

 もう一度拳を振り上げた孝治に向かってそう言って、カエデくんはスマホを孝治の目の前にかざした。さすがにそれは孝治も具合が悪いと思ったらしく、振り上げた拳をブルブルと震わせたまま悔しそうにカエデくんを睨んでいる。
 孝治は「……クソッ!!」と言いながら拳を下ろした。

「そっ、そんなメシマズ女、欲しけりゃくれてやるよ……!!」

 そんな最低な捨て台詞を吐いて、孝治は私たちの前から立ち去って行った――。
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