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「わわっ、亜矢さんっ、大丈夫!?」
とっさに私を支えてくれたのは、メープルくん――じゃなかった、カエデくん、だ。
心配そうに私を覗き込む彼の瞳に私が映っているのが見えて、ああ、やっぱり彼は距離が近いな、なんて考えている間に、さっきとは違う浮遊感に襲われた。横抱きにされたのだと気づいて慌てたけれど、身体がだるくて重くて……。
「あの……っ」
「今日は車で来てるから」
どうやら会社のビルのど真ん前に車を止めているらしい。助手席へと運ばれ、私はぐったりとシートに身を預け、ただただ浅い呼吸を繰り返す。
あまり見覚えのない車内に、いつもの車じゃないことにうっすらと気づいたけど考えるのも億劫で、思考がまとまらない。視界が相変わらずグレーがかっていて、ぐるぐると目が回る。
とうとう指一本動かせなくなって、私はそのまま意識を手放した――。
――どれぐらい眠っていたのだろう?
だるい身体をなんとか起こして、私はゆっくりと辺りを見回した。
薄暗い室内、快適な寝心地の大きなベッド、彼の香り――。
ああそうか、ここは、彼の家、か。頭が重い、ぐらぐらする。この状態では仕事は無理だろう。
朝なのかどうかも分からない。もし朝なら、とにかく会社に連絡して、それから……。
回らない頭で今からすべきことを必死に考えながら、ベッドから降りようと片足を床についたところで、寝室の扉が開く音がした。
「あ、目が覚めた? 大丈夫?」
「……ああ、……うん、大丈夫……」
「亜矢さん、ベッドに戻って」
「あの私……仕事、行かなきゃ」
「会社にはお休みの連絡入れておいたから、大丈夫だよ」
「……え?」
「大丈夫、ほんとにちゃんと伝えたから。体調不良なのでお休みします、って。心配しないでゆっくり休んで?」
「え、でも……」
私が働いている部署を、彼は知ってたっけ……。
言ったような気もするし、言ってない気もする。初めて会ったあの日はかなり酔ってたし、本当に色々覚えてないことばかりだ。
彼にベッドへと押し戻されて、仕方なく横になる。
「何か食べられそう?」
「……何もいらない」
「ひとくちだけでも」
「……ごめん」
食欲は全然ない。
身体がだるくて、頭がぼんやりする……。
「熱はなさそうだね……」
彼はベッドの端に腰掛けて私の額にそっと手の平をあてる。
あぁ、カエデくんの手、ほんのりと暖かくて気持ちが良い……。
「亜矢さん、なにか欲しい物ある?」
私に問いかける優しい表情に、ふと、誰かに似てるな、と思う。頭が重くて、脳裏によぎった人物の顔はすぐに消えてしまった。
仕方なく問いかけの返答に対してゆるりと首を振る。
「眠い……?」
「ううん、眠くない……」
「何か飲む?」
「……じゃあ、お水」
「うん、分かった、取ってくる」
すぐに水を持って戻ってきてくれて、渡された水を少し口に含む。
本当は喉なんて渇いてなかった。食欲も全然ない。何も口にしないと彼が必要以上に心配しそうだから水を飲みたいと言っただけだ。
「……カエデくん」
「……え?」
私が彼の名を呼ぶと、彼は驚いたように目を丸くして私を見つめた。
今まで一度も彼の名前を呼んだことがなかったのだから、彼が驚くのも無理はない。
「あのね……、」
とっさに私を支えてくれたのは、メープルくん――じゃなかった、カエデくん、だ。
心配そうに私を覗き込む彼の瞳に私が映っているのが見えて、ああ、やっぱり彼は距離が近いな、なんて考えている間に、さっきとは違う浮遊感に襲われた。横抱きにされたのだと気づいて慌てたけれど、身体がだるくて重くて……。
「あの……っ」
「今日は車で来てるから」
どうやら会社のビルのど真ん前に車を止めているらしい。助手席へと運ばれ、私はぐったりとシートに身を預け、ただただ浅い呼吸を繰り返す。
あまり見覚えのない車内に、いつもの車じゃないことにうっすらと気づいたけど考えるのも億劫で、思考がまとまらない。視界が相変わらずグレーがかっていて、ぐるぐると目が回る。
とうとう指一本動かせなくなって、私はそのまま意識を手放した――。
――どれぐらい眠っていたのだろう?
だるい身体をなんとか起こして、私はゆっくりと辺りを見回した。
薄暗い室内、快適な寝心地の大きなベッド、彼の香り――。
ああそうか、ここは、彼の家、か。頭が重い、ぐらぐらする。この状態では仕事は無理だろう。
朝なのかどうかも分からない。もし朝なら、とにかく会社に連絡して、それから……。
回らない頭で今からすべきことを必死に考えながら、ベッドから降りようと片足を床についたところで、寝室の扉が開く音がした。
「あ、目が覚めた? 大丈夫?」
「……ああ、……うん、大丈夫……」
「亜矢さん、ベッドに戻って」
「あの私……仕事、行かなきゃ」
「会社にはお休みの連絡入れておいたから、大丈夫だよ」
「……え?」
「大丈夫、ほんとにちゃんと伝えたから。体調不良なのでお休みします、って。心配しないでゆっくり休んで?」
「え、でも……」
私が働いている部署を、彼は知ってたっけ……。
言ったような気もするし、言ってない気もする。初めて会ったあの日はかなり酔ってたし、本当に色々覚えてないことばかりだ。
彼にベッドへと押し戻されて、仕方なく横になる。
「何か食べられそう?」
「……何もいらない」
「ひとくちだけでも」
「……ごめん」
食欲は全然ない。
身体がだるくて、頭がぼんやりする……。
「熱はなさそうだね……」
彼はベッドの端に腰掛けて私の額にそっと手の平をあてる。
あぁ、カエデくんの手、ほんのりと暖かくて気持ちが良い……。
「亜矢さん、なにか欲しい物ある?」
私に問いかける優しい表情に、ふと、誰かに似てるな、と思う。頭が重くて、脳裏によぎった人物の顔はすぐに消えてしまった。
仕方なく問いかけの返答に対してゆるりと首を振る。
「眠い……?」
「ううん、眠くない……」
「何か飲む?」
「……じゃあ、お水」
「うん、分かった、取ってくる」
すぐに水を持って戻ってきてくれて、渡された水を少し口に含む。
本当は喉なんて渇いてなかった。食欲も全然ない。何も口にしないと彼が必要以上に心配しそうだから水を飲みたいと言っただけだ。
「……カエデくん」
「……え?」
私が彼の名を呼ぶと、彼は驚いたように目を丸くして私を見つめた。
今まで一度も彼の名前を呼んだことがなかったのだから、彼が驚くのも無理はない。
「あのね……、」
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