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「亜矢さんさぁ、ひとりにするとちゃんとご飯食べてなさそうなんだもん……」
「……」
「僕と一緒に住んだら本当に三食デザート付きだよ?」
「……」

 三食デザート付きで、確かおやつも付くって言ってたな……。
 本当は超絶魅力的なお誘いだけど、でも、それに乗るわけにはいかない。

「だめ」
「なんで? 理由は?」
「……だめなものは、だめなのっ」

 だってそんなの、まるで私、食事目当ての女みたいじゃん……。そんなの嫌だし、ダメでしょ。
 いくら私がメシマズ女で料理が全く出来なくても、そのためだけに一緒に住むとか、人としてさすがにダメだ。そこまで人間を捨てていないつもり。

「分かった。じゃあ約束して、亜矢さん」
「……なにを?」
「ちゃんと食事するって、約束して。買ったものでもいいし、外食でもいいから」

 これは……私が自炊しないってバレてる感じだよね? まあバレるか、あの冷蔵庫の中身、あの何もないキッチンの状態を見られてるからね。
 私は「分かった」と仕方なしに首を縦に振った。

 その後彼は、しぶしぶ車で家まで送ってくれた。何度も何度も「絶対にちゃんと食べてね?」と念を押しながら。
 部屋の前まで行くと言うのを丁重にお断りして、マンションの前で手を振って別れる。
 別れ際に、もう何度目か分からない「ほんとにちゃんと食事してね!」と言葉を残す彼に私は苦笑いしながら「はいはい」と答えてエントランスをくぐった。

 私なんかと一緒に住んで、一体彼に何のメリットがあるというのだろう?
 私は仕事ぐらいしか能がない。それなりにお給料はもらっている方だと思うけど、誰かを養えるほどの収入があるかと言われれば微妙だ。
 料理以外の家事は一応出来るけど、それもあまり得意じゃないし。
 つまりやっぱり同棲や結婚に向いている女じゃない。

 メープルくんの家の豪華なお風呂とは真逆の小さくて薄暗いユニットバスで身体を洗い、寝る身支度を終えて、スマホを確認する。
 相変わらず孝治からの連絡は途絶えることがなくて、仕事の後にチェックして削除したはずなのに、また同じぐらいの量のメッセージが送りつけられていた。ここまで来るとそろそろ本気で怖い。

 孝治以外の人からのメッセージがないかどうかを確認して、全部削除。スマホの通知画面はスッキリしたけれど、どうにもモヤモヤして気分が悪い。
 それに、全部消した直後にまたメッセージがきて……。
 結局朝までに100件近くの未読メッセージが送られてきていた――。


 ――昨晩、孝治からのメッセージを消去して完全マナーモードにして就寝した。それでゆっくりと寝られるはずだった。でもやっぱり夢の中までアイツのしつこいメッセージが追いかけてきて……結果、うなされた。
 未明に汗びっしょりで目が覚めて、そこから一睡も出来なくて……。

「野村さん、大丈夫ですか? 顔色悪いですよ」
「あー、若月ちゃんおはようー。大丈夫、ちょっと寝不足ー。夜更かししちゃってさ」
「……ほんとに顔色良くないですよ? 今日はそんなに忙しくない予定ですし、帰った方が……」
「ううん、大丈夫大丈夫。ありがとねー」

 後輩に心配かけてしまった、大反省だ。
 私は、よし、と気合い入れ直し、デスクへ向かう――。


 なんとか午前中を乗り切って、お昼休憩の時間になった。
 お弁当なんてものを作る高等技術は持ち合わせていないから、いつもお昼はもっぱらコンビニ弁当か社食かケータリングのローテーション。
 食欲はあまりないけどメープルくんにちゃんと食事をするようにと言われたのを思い出し、今日は会社の食堂に行くことにした。

 注文した品を乗せたトレーを手にどこへ座ろうかと思案していたら、同期の美紀が手を振っているのが見えた。
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