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 ――翌日の日曜日。
 朝からメッセージの着信音でたたき起こされた。
 誰からのものか分かりすぎるほど分かっているから、私は不機嫌MAX状態……。

 うるさい、うるさすぎる。

 音を切って、バイブだけにする。ブルブルとバイブするのも鬱陶しいけれど、音が鳴り続けるよりもずっとマシ。
 内容は絶対に既読にしない。何度か電話もかかってきたけど、絶対に出ない。

 結局この日はメッセージと通話の着信履歴が合計で数十件あった。他の人からの連絡が混ざっていないかどうかを慎重に確認して、寝る前にばっさりと全消去。
 はあ、と大きなため息を吐き出して、就寝した――。


 ――月曜日。
 当然のように朝からメッセージ攻撃。
 あーうるさい、着信拒否にしたい気持ちが込み上げるけれど、とりあえず今は完全無視を決め込む。そのうち諦めるだろう。……と言うか、今すぐ諦めて欲しい。

 仕事中は音もバイブも切っていて完全な消音モードだけど、昼休みは昼食を後輩の若月ちゃんと交代にとることになっていて、何か急用がある時のためにバイブのみのマナーモードにしている。そのせいで、昼休み中ずっと私のポケットの中でブルブルしっぱなしだった。
 肩に当てたら肩こりがラクになるかな、なんて思ってしまうぐらい、ずっと振動しっぱなしで……。おかげで電池の減りが早くて、キレそう――電池も、私も。

 仕事が終わり帰る頃には電池の残量がすっかり減っていて、家に帰り着くまでに電源が落ちていまいそうだ。電池の消耗もイライラするけど、なによりも、結構な頻度でメッセージや通話の着信があるのが精神的に疲れる。
 もう連絡してこないで欲しい。
 そろそろスマホ恐怖症になりそうな勢いで来るメッセージに、私は本当にうんざりとしていた。

 一日の仕事を終えて会社を出る直前にまたスマホがブルブルし出して、イラッとして画面を睨みつける。
 今のこれはメッセージじゃなくて、通話の着信のようだ。うんざりしながらも画面に表示されている発信主の名前を見て、私は即座に通話ボタンを選択した。

「……はいっ」
『こんばんはー』
「こ、んばんは……」
『ふふ。いま電話してても大丈夫?』
「あ、うん、大丈夫」
『まだ仕事中?』
「ううん、さっき終わって……これから会社出るところ」
『良かった、タイミングばっちり。ねえ、今から会えない?』
「え、っと……」
『あ、先約あった?』
「いや、そうじゃないけど……」
『……ダメ?』

 電話を掛けてきたのはメープルくんだった。
 相変わらずふわふわ笑ってそうだな、とか簡単に彼の表情が想像できてしまう。

「だめじゃないけど……」
『ふふ、やったー』
「……」
『じゃあ、迎えに行くね?』
「え、ええ……?」
『亜矢さんが迷子になっちゃって会えないのも困るし』

 言い返せないのが悔しい。
 結局うまく彼の言葉にのせられて、会うことになってしまった。

 退社する人たちが通る中、そわそわしながら待ち合わせ場所である一筋隣の道へと向かう。もうそこには、にこにこ笑顔の彼が待っていた。
 私を見つけるなり、相変わらずの人懐っこい笑顔で私に向かって小さく手を振ってる。

「亜矢さん、お仕事お疲れ様~」
「……う、うん」
「何か食べに行こう~」
「う、ん……」
「あ、もしかして、僕の料理の方が良い?」
「……」

 問われて、思わず無言になってしまった。無言になってしまったのは、食欲が全くないからで……。

「え……? もしかして、ほんとに僕の料理が良かった?」
「いや、あの、えっと……」
「僕はどっちでも良いよ? 僕の手料理が良いならこれから作るし」
「ごめん、そうじゃなくて……、実はあまりお腹空いてなくて」
「……亜矢さん。何かあった?」
「……え?」
「顔色があまり良くない」

 鋭いな、と思いながら「そう?」ととぼけてみる。彼の表情からふわふわの笑顔がスッと消えて、真剣な顔で私を覗き込んだ。

「ちゃんと食べてる?」
「……まあ、ほどほどに」
「ちゃんと寝てる?」
「……まあ、そこそこ」

 適当な返事を繰り返す私に、彼は小さくため息をついた。そして、私の手を握って、歩き始める。
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