42 / 78
「ごちそうさま」
11
しおりを挟む
――そのあと結局ふたりでボトルをもう一本開けて、深夜を迎えた。
メープルくんはやっぱり普段から飲み慣れてるからか、顔色も態度も、ほぼいつもと変わらない。
「もうすぐ日付、変わっちゃうね」
「う、ん、そうだね……」
「僕はそろそろ帰らなきゃ、ね……?」
「……帰るの?」
「ふふ、帰るよ。亜矢さんが『帰れ』って言ったら、ね?」
「……」
帰って、って、言わなきゃいけないよね。だってこのままだときっと……私の狭いベッドで一緒に朝を迎えることになる。
本当にそれでいいの……? 一夜を共にする心の準備、出来てるの……? 今度こそ本当に身体を重ねることになるかもしれない、それでもいいの……?
自問自答していると、彼の手が伸びてきて……私の頬に触れる。
「ふふっ、亜矢さん、頬が赤い」
「……」
「もしかして、結構酔ってる……?」
「そんなことない……」
……嘘。実は結構酔ってる、多分。
だってなんだかふわふわするし、暑いし、熱い。
「ふふ。亜矢さんって、酔うと可愛くなるよねぇ」
「か、可愛くなんか……」
同期の美紀とよく一緒に飲むけど、美紀からはいつも「亜矢は酔うと笑い上戸になるね」と言われてる。ケラケラ笑ってると言うよりは、ふにゃふにゃ笑いながら人の話をじっと聞いてる変則的なタイプだって言われた。
変則的ってなんだ。
それに、ふにゃふにゃって……。
酔った自分を客観的に見ることは難しいから美紀の言葉を信じるしかないけど、さすがに酔った私が可愛いと言われたことはないし、自分自身ではそう思えない。
ふわふわする頭でそんなことを考えてる間も彼の右手は私の頬に触れたままだ。
手、あったかいね。メープルくんは、酔ってないの? その手の温かさで?
「……亜矢さん、ダメだよ、そんな可愛く笑ってたら。キスしたくなっちゃうでしょ……?」
「……え?」
「もう……」
いやいや、もうって言いたいのは私の方なんだけど……?
とか思っている間に、頬にあったはずの手がスルリと私の横髪を梳いて、いつの間にか後頭部へと添えられている。
「え、」
私が言葉の先を続ける前に彼の顔が近づいてきて……。優しく唇が合わせられ、すぐに離れていく。驚いて身体が固まってしまっている間に、もう一度唇が重ねられた。
私の反応を探るような、優しく重ね合わせるだけのキス。
されるがままに彼の唇を受け止めてしまっていることに、自分でも驚く。けれど、嫌じゃない……。だけど、だからこそ、困る……。
触れるだけのキスが少し心地良いと思ってしまう……。そう思いながらも、触れるだけなのがもどかしい、とも思ってしまう……。
「亜矢さん……」
唇が軽く触れ合ったままで名前を甘く囁かれ、くすぐったい、もどかしい、じれったい……。触れるだけのキスでは物足りない……。
どうしてそんな風に思ってしまうんだろう。
メープルくんはやっぱり普段から飲み慣れてるからか、顔色も態度も、ほぼいつもと変わらない。
「もうすぐ日付、変わっちゃうね」
「う、ん、そうだね……」
「僕はそろそろ帰らなきゃ、ね……?」
「……帰るの?」
「ふふ、帰るよ。亜矢さんが『帰れ』って言ったら、ね?」
「……」
帰って、って、言わなきゃいけないよね。だってこのままだときっと……私の狭いベッドで一緒に朝を迎えることになる。
本当にそれでいいの……? 一夜を共にする心の準備、出来てるの……? 今度こそ本当に身体を重ねることになるかもしれない、それでもいいの……?
自問自答していると、彼の手が伸びてきて……私の頬に触れる。
「ふふっ、亜矢さん、頬が赤い」
「……」
「もしかして、結構酔ってる……?」
「そんなことない……」
……嘘。実は結構酔ってる、多分。
だってなんだかふわふわするし、暑いし、熱い。
「ふふ。亜矢さんって、酔うと可愛くなるよねぇ」
「か、可愛くなんか……」
同期の美紀とよく一緒に飲むけど、美紀からはいつも「亜矢は酔うと笑い上戸になるね」と言われてる。ケラケラ笑ってると言うよりは、ふにゃふにゃ笑いながら人の話をじっと聞いてる変則的なタイプだって言われた。
変則的ってなんだ。
それに、ふにゃふにゃって……。
酔った自分を客観的に見ることは難しいから美紀の言葉を信じるしかないけど、さすがに酔った私が可愛いと言われたことはないし、自分自身ではそう思えない。
ふわふわする頭でそんなことを考えてる間も彼の右手は私の頬に触れたままだ。
手、あったかいね。メープルくんは、酔ってないの? その手の温かさで?
「……亜矢さん、ダメだよ、そんな可愛く笑ってたら。キスしたくなっちゃうでしょ……?」
「……え?」
「もう……」
いやいや、もうって言いたいのは私の方なんだけど……?
とか思っている間に、頬にあったはずの手がスルリと私の横髪を梳いて、いつの間にか後頭部へと添えられている。
「え、」
私が言葉の先を続ける前に彼の顔が近づいてきて……。優しく唇が合わせられ、すぐに離れていく。驚いて身体が固まってしまっている間に、もう一度唇が重ねられた。
私の反応を探るような、優しく重ね合わせるだけのキス。
されるがままに彼の唇を受け止めてしまっていることに、自分でも驚く。けれど、嫌じゃない……。だけど、だからこそ、困る……。
触れるだけのキスが少し心地良いと思ってしまう……。そう思いながらも、触れるだけなのがもどかしい、とも思ってしまう……。
「亜矢さん……」
唇が軽く触れ合ったままで名前を甘く囁かれ、くすぐったい、もどかしい、じれったい……。触れるだけのキスでは物足りない……。
どうしてそんな風に思ってしまうんだろう。
1
お気に入りに追加
134
あなたにおすすめの小説
お前を誰にも渡さない〜俺様御曹司の独占欲
ラヴ KAZU
恋愛
「ごめんねチビちゃん、ママを許してあなたにパパはいないの」
現在妊娠三ヶ月、一夜の過ちで妊娠してしまった
雨宮 雫(あめみや しずく)四十二歳 独身
「俺の婚約者になってくれ今日からその子は俺の子供な」
私の目の前に現れた彼の突然の申し出
冴木 峻(さえき しゅん)三十歳 独身
突然始まった契約生活、愛の無い婚約者のはずが
彼の独占欲はエスカレートしていく
冴木コーポレーション御曹司の彼には秘密があり
そしてどうしても手に入らないものがあった、それは・・・
雨宮雫はある男性と一夜を共にし、その場を逃げ出した、暫くして妊娠に気づく。
そんなある日雫の前に冴木コーポレーション御曹司、冴木峻が現れ、「俺の婚約者になってくれ、今日からその子は俺の子供な」突然の申し出に困惑する雫。
だが仕事も無い妊婦の雫にとってありがたい申し出に契約婚約者を引き受ける事になった。
愛の無い生活のはずが峻の独占欲はエスカレートしていく。そんな彼には実は秘密があった。
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
Promise Ring
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
浅井夕海、OL。
下請け会社の社長、多賀谷さんを社長室に案内する際、ふたりっきりのエレベーターで突然、うなじにキスされました。
若くして独立し、業績も上々。
しかも独身でイケメン、そんな多賀谷社長が地味で無表情な私なんか相手にするはずなくて。
なのに次きたとき、やっぱりふたりっきりのエレベーターで……。
冷血弁護士と契約結婚したら、極上の溺愛を注がれています
朱音ゆうひ
恋愛
恋人に浮気された果絵は、弁護士・颯斗に契約結婚を持ちかけられる。
颯斗は美男子で超ハイスペックだが、冷血弁護士と呼ばれている。
結婚してみると超一方的な溺愛が始まり……
「俺は君のことを愛すが、愛されなくても構わない」
冷血サイコパス弁護士x健気ワーキング大人女子が契約結婚を元に両片想いになり、最終的に両想いになるストーリーです。
別サイトにも投稿しています(https://www.berrys-cafe.jp/book/n1726839)
俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる