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「ごちそうさま」
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ワインは確かに作ってくれた料理にとても合っていて、ますますお酒が進みそうだ。控えめに言っても、どっちもものすごく美味しい。
料理は彼も少し食べているとは言え、私だけこんなに美味しいものを飲み食いするのがなんだか申し訳ない気がしてきてしまった。メープルくんは相変わらず私の目の前でニコニコ笑っていて、そんなことは全く気にしていない様子だけど……。
「……あのさ」
「うん?」
「……えっと、その……」
「ふふ。どうしたの?」
「い、一緒に、飲む?」
「……え?」
「車……、また、取りに来れば、いいじゃん……」
「……ふふっ、亜矢さん、どうしたの?」
ふわふわと笑いながら私の誘いをスルーする。こっちは半ば決死の覚悟で口にしたのに、かわされてしまったら恥ずかしさしか残らない。
「……ずるい」
「ええ? ずるいのは亜矢さんでしょ……?」
何言ってんの? ずるいのは絶対にメープルくんの方だ。
「飲んじゃったら、帰らないかもしれないよ?」
「……」
「いいの……?」
「……わ、分かんない」
こんな答え方、卑怯だって分かってる。でも……、だって、本当にそれでいいと思ってるのかどうかが自分でさえも分からないから。
帰って欲しくない気もしてる。
それがどう言うことを意味するのかは、分かってる。
「亜矢さん……?」
「……」
「亜矢さん」
「……あの、ね」
「うん……?」
「か、帰らないのは困る、たぶん……」
「ふふっ、うん、そうだね」
「……でも」
「でも……?」
「一緒に、飲みたい……」
俯いたまま私がそう言うと、彼は黙ってしまった。出来れば早めに返事が欲しい、私だってかなりの覚悟で口にした言葉だったから。
「じゃあ……、うん、タクシーで帰ることにするね?」
「……えっと、グラス、取ってくるっ」
彼の顔を見ないようにしながら慌てて立ち上がろうとした私の手を、彼が優しく掴んだ。
「亜矢さんは座ってて。僕が取ってくる」
「……う、ん」
私の代わりに立ち上がった彼の髪がふわりと揺れて、彼の顔が半分隠れる。
彼の顔は、見えている部分が半分ぐらいでちょうど良いのかもしれない。あまりにも綺麗すぎて、時々直視できなくなるから。
彼がワイングラスを手に、隣へと戻ってくる。やっぱり顔をまともに見ることが出来ない。
やばい、私、酔ってるのかも。
缶ビール一本と、グラス一杯のワインを飲んだだけなのに……。
「かっ、乾杯しようっ」
私がそう言うと、彼はまたふふっと笑って、グラスを私の方へと差し出す。
私が彼のグラスにそっと合わせると、カチン、と小気味良い音がして、グラスの中の赤紫色の液体がゆらゆらと揺れた。
「ありがとう、亜矢さん」
「べ、べつに……」
別にお礼を言われるようなことは何もしていないつもりだ。そう思いながら私はワインを口に含んだ。
酔ってるつもりもない、普段ならワインのボトルを一本開けるぐらいじゃないと酔わないから。それなのに、なぜだか頭がふわふわする気がする。
彼が、グラスに口をつける。
ゆっくりとワインが彼の口に流れ込んで行く。
「……美味しいね」
嬉しそうな顔で、彼が言う。
穏やかに笑う彼は、もしかすると天使なのかもしれない。だったら私の手に負えるはずもない。
天使が相手だなんて、私に勝ち目なんてあるはずがないから――。
料理は彼も少し食べているとは言え、私だけこんなに美味しいものを飲み食いするのがなんだか申し訳ない気がしてきてしまった。メープルくんは相変わらず私の目の前でニコニコ笑っていて、そんなことは全く気にしていない様子だけど……。
「……あのさ」
「うん?」
「……えっと、その……」
「ふふ。どうしたの?」
「い、一緒に、飲む?」
「……え?」
「車……、また、取りに来れば、いいじゃん……」
「……ふふっ、亜矢さん、どうしたの?」
ふわふわと笑いながら私の誘いをスルーする。こっちは半ば決死の覚悟で口にしたのに、かわされてしまったら恥ずかしさしか残らない。
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「……」
「いいの……?」
「……わ、分かんない」
こんな答え方、卑怯だって分かってる。でも……、だって、本当にそれでいいと思ってるのかどうかが自分でさえも分からないから。
帰って欲しくない気もしてる。
それがどう言うことを意味するのかは、分かってる。
「亜矢さん……?」
「……」
「亜矢さん」
「……あの、ね」
「うん……?」
「か、帰らないのは困る、たぶん……」
「ふふっ、うん、そうだね」
「……でも」
「でも……?」
「一緒に、飲みたい……」
俯いたまま私がそう言うと、彼は黙ってしまった。出来れば早めに返事が欲しい、私だってかなりの覚悟で口にした言葉だったから。
「じゃあ……、うん、タクシーで帰ることにするね?」
「……えっと、グラス、取ってくるっ」
彼の顔を見ないようにしながら慌てて立ち上がろうとした私の手を、彼が優しく掴んだ。
「亜矢さんは座ってて。僕が取ってくる」
「……う、ん」
私の代わりに立ち上がった彼の髪がふわりと揺れて、彼の顔が半分隠れる。
彼の顔は、見えている部分が半分ぐらいでちょうど良いのかもしれない。あまりにも綺麗すぎて、時々直視できなくなるから。
彼がワイングラスを手に、隣へと戻ってくる。やっぱり顔をまともに見ることが出来ない。
やばい、私、酔ってるのかも。
缶ビール一本と、グラス一杯のワインを飲んだだけなのに……。
「かっ、乾杯しようっ」
私がそう言うと、彼はまたふふっと笑って、グラスを私の方へと差し出す。
私が彼のグラスにそっと合わせると、カチン、と小気味良い音がして、グラスの中の赤紫色の液体がゆらゆらと揺れた。
「ありがとう、亜矢さん」
「べ、べつに……」
別にお礼を言われるようなことは何もしていないつもりだ。そう思いながら私はワインを口に含んだ。
酔ってるつもりもない、普段ならワインのボトルを一本開けるぐらいじゃないと酔わないから。それなのに、なぜだか頭がふわふわする気がする。
彼が、グラスに口をつける。
ゆっくりとワインが彼の口に流れ込んで行く。
「……美味しいね」
嬉しそうな顔で、彼が言う。
穏やかに笑う彼は、もしかすると天使なのかもしれない。だったら私の手に負えるはずもない。
天使が相手だなんて、私に勝ち目なんてあるはずがないから――。
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