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「ごちそうさま」
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メープルくんが手土産に持ってきてくれたケーキは舌の肥えた秘書課の先輩方でさえも美味しいと絶賛するお店のものだ。SNSでも話題になっていて、昼過ぎには売り切れるほどの人気だ。私も気になってはいたけど初めて行くお店は辿り着けない可能性の方が高いから、まだ食べたことがなくて……。
正直、メープルくんの手に握られていたケーキの箱に小躍りしたくなったぐらいに嬉しかった。
「……ケーキ、いただいてもいい?」
「もちろんどうぞ! 亜矢さんのために買ってきたんだから、遠慮しなくていいよ」
「じゃあ……、いただきます」
しっかりと手を合わせ、芸術品のようなケーキにフォークを入れる。ひとすくいしたものを口へと運ぶと、しあわせな甘みが口いっぱいに広がり……。
ああ、至福の時……。
「……美味しい?」
「うん! とっても!」
「そう、良かった。……ね、こっちも食べてみる?」
実はそっちのケーキも美味しそうで、正直言ってどっちを選ぶかかなり迷ったほどだ。でも……、と迷っていると、メープルくんはケーキひとくち分を刺したフォークを私の前へと差し出した。
「はい、どうぞ」
「……え」
「亜矢さん、あ~ん」
「……」
にこにこと嬉しそうに微笑みながらケーキの刺さったフォークを差し出すメープルくんに、私は思わずくらりと眩暈が……。
「きっとこっちも美味しいよ?」
うん、多分そうだと思う。分かってるけど、あ~ん、なんて恥ずかしすぎて、ちょっと抵抗が……。
「ほら、早くしないと、落ちちゃう。ほらほらっ」
尚も迫ってくる美味しそうなケーキに――いや、自分の食い意地に負け、私は出来る限り心を無にしながら彼の差し出すケーキにパクリと食いついた。さっきとは違う味わいのしあわせな甘さに、思わずため息が漏れそうになる。
「ふふっ、美味しい?」
「……うん」
「良かった」
本当に嬉しそうに笑うから、あ~ん、なんて高校生カップルがしそうな恥ずかしい行為も、なんだか許せてしまう自分がいる。
おかしい、明らかに彼のペースに嵌まってる。
そのあとも「もうひとくち食べる? ほら、あ~ん?」って言いながら私の前にケーキを何度も差し出してきて……。
結局両方ともほとんど私が食べてしまったのだった……。
「ごちそうさまでした、とっても美味しかったです……」
「ふふ、亜矢さんに喜んでもらえて良かったです」
そう言って、やっぱりにこにこ笑顔のメープルくん。
この子は本当に穏やかな人だなぁ。そう言う意味では、一緒にいても疲れない。ただしときどき急に距離を詰めてくるから、それだけは要注意だけど。
本当に今日は仕事無いのかな?
夜のお仕事の人って、休日はいつなんだろう。
仕事はいつも何時から何時まで?
質問したいことはいっぱいあるけれど、私からはなにも聞くことが出来ないでいる。本当は、そう言うことを知るのが怖いからなのかもしれない。
私にこんなに優しくしたり懐いてくれてるのが、仕事絡み――例えば、勤めているホストクラブに客として勧誘するとか、職業柄女の人には無条件に優しくしてしまうとか――だと思いたくないからなのかもしれない。
正直、メープルくんの手に握られていたケーキの箱に小躍りしたくなったぐらいに嬉しかった。
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「もちろんどうぞ! 亜矢さんのために買ってきたんだから、遠慮しなくていいよ」
「じゃあ……、いただきます」
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ああ、至福の時……。
「……美味しい?」
「うん! とっても!」
「そう、良かった。……ね、こっちも食べてみる?」
実はそっちのケーキも美味しそうで、正直言ってどっちを選ぶかかなり迷ったほどだ。でも……、と迷っていると、メープルくんはケーキひとくち分を刺したフォークを私の前へと差し出した。
「はい、どうぞ」
「……え」
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「……」
にこにこと嬉しそうに微笑みながらケーキの刺さったフォークを差し出すメープルくんに、私は思わずくらりと眩暈が……。
「きっとこっちも美味しいよ?」
うん、多分そうだと思う。分かってるけど、あ~ん、なんて恥ずかしすぎて、ちょっと抵抗が……。
「ほら、早くしないと、落ちちゃう。ほらほらっ」
尚も迫ってくる美味しそうなケーキに――いや、自分の食い意地に負け、私は出来る限り心を無にしながら彼の差し出すケーキにパクリと食いついた。さっきとは違う味わいのしあわせな甘さに、思わずため息が漏れそうになる。
「ふふっ、美味しい?」
「……うん」
「良かった」
本当に嬉しそうに笑うから、あ~ん、なんて高校生カップルがしそうな恥ずかしい行為も、なんだか許せてしまう自分がいる。
おかしい、明らかに彼のペースに嵌まってる。
そのあとも「もうひとくち食べる? ほら、あ~ん?」って言いながら私の前にケーキを何度も差し出してきて……。
結局両方ともほとんど私が食べてしまったのだった……。
「ごちそうさまでした、とっても美味しかったです……」
「ふふ、亜矢さんに喜んでもらえて良かったです」
そう言って、やっぱりにこにこ笑顔のメープルくん。
この子は本当に穏やかな人だなぁ。そう言う意味では、一緒にいても疲れない。ただしときどき急に距離を詰めてくるから、それだけは要注意だけど。
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質問したいことはいっぱいあるけれど、私からはなにも聞くことが出来ないでいる。本当は、そう言うことを知るのが怖いからなのかもしれない。
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