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「ごちそうさま」
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私は食べかけのお弁当にフタをしてテーブルの端に寄せた。
この男にお茶を出す気はない。出来れば今すぐ帰って欲しい。
「で、話ってなに?」
「まあ、そんなに焦らなくても……」
「は? 私さぁ、見ての通りお昼ご飯の途中なのよ。さっさと話してとっとと帰って欲しいのよね」
「冷たいな」
「は……? なんで別れた男に優しくしなきゃいけないわけ? 優しくして欲しいんなら、もうすぐ奥様になる彼女にでもしてもらえばいいでしょ?」
「……」
どうしてそこで黙るのよ?
もう全部がめんどくさい。孝治ってこんな男だったっけ……?
「……別れた」
「うん、私と孝治は別れたね。孝治が会社の後輩の女の子と浮気して、挙げ句の果てに子供まで作って、私を振ったもんね。知ってるけど……?」
「いやそうじゃなくて……」
もごもごと何かを言いたそうにしながら言い淀む孝治に、ますますイライラしてしまう。お腹空いてるからかなぁ? だって、まだから揚げを一個食べただけだし。
たいした話じゃないなら帰ってもらっていいかな、お弁当の続きを食べたいから――と言おうと口を開いたところで、孝治の声に遮られ口をつぐむ。
「あのさ」
「……なに?」
「俺、あいつと……ユミと別れた」
「……はぁ?」
「あいつさ……他の男と俺と二股かけてて……俺との子供って言ってたけど、本当はそいつとの子だって……」
「……ふぅん」
「いや、ふーん、って……」
「他になんて言えば良いのよ? 私には関係のない話でしょ?」
「それはまぁ、そうだけど……」
ばかじゃないの?
つまり、二股掛けられてた上にお腹の子供の父親は孝治じゃなくて、もう一人の男が父親ってことでしょ? 孝治が振られたってことだろうから、ユミって子にとってはあっちが本命だったってことだよね?
「……で? 私にそんな話して、何が言いたいの? 先に行っておくけど、私もう孝治とよりを戻す気はないからね」
「亜矢っ」
「だってそうでしょ? 私、浮気された上に振られたのよ? じゃあ孝治はさぁ、もし逆の立場だったら、私のこと許せるの?」
「……そ、それは……」
「ほら、無理じゃん。私だって無理なんだよ」
「亜矢……っ」
「確かに仕事が忙しくて全然デート出来なかったのは申し訳なかったと思う。でも、休日なら少しぐらいは会えたし、それを断ってたのはそっちでしょ?」
「お、俺だって、休日は、休みたいし……っ」
「それは私も同じ。でも、会いたいって言われたら、休日なら会ったよ。本当は平日の夜だけじゃなくて休日もその子と会ってたんでしょ? だったら私、そこまで悪くないんじゃない? 会えないのは平日の夜だけだったんだから」
あくまでも、忙しくて会えなかったのは平日の夜だけだ。土日などの休日は私もちゃんと休みだったし、私から会おうと言ったことだって何度もあったのに、それを全部断っていたのは孝治の方だ。
きっと、私と会うよりもユミって子と会う方が楽しかったんだろう。
私にも原因が色々あるのは認めるけど、この関係を決定的に壊してしまったのは孝治の浮気行為なわけだし、別れ話を持ち出したのは孝治の方だ。
今さらよりを戻したいだなんて、虫が良すぎる。残念ながら私にはもう一度孝治とつき合う気は全くない。
「……亜矢が料理音痴でも、俺、我慢するからさ」
「……はぁっ?」
「ちょっとぐらいメシが不味くても、文句言わないよ」
「ちょ、ちょっと待ってっ、自分が何言ってるか分かってるの……!?」
「だから、」
「出て行って!」
「なあ亜矢っ、」
「顔も見たくないから、今すぐ出て行って!!」
私は孝治の腕を掴んで玄関へと引っ張っていく。
孝治は私の剣幕に驚いた顔をしていたけれど、だからこそなのか、渋々ではあるけど抵抗することなく帰って行った。
「また連絡する!」と言う不要なセリフを残して……。
この男にお茶を出す気はない。出来れば今すぐ帰って欲しい。
「で、話ってなに?」
「まあ、そんなに焦らなくても……」
「は? 私さぁ、見ての通りお昼ご飯の途中なのよ。さっさと話してとっとと帰って欲しいのよね」
「冷たいな」
「は……? なんで別れた男に優しくしなきゃいけないわけ? 優しくして欲しいんなら、もうすぐ奥様になる彼女にでもしてもらえばいいでしょ?」
「……」
どうしてそこで黙るのよ?
もう全部がめんどくさい。孝治ってこんな男だったっけ……?
「……別れた」
「うん、私と孝治は別れたね。孝治が会社の後輩の女の子と浮気して、挙げ句の果てに子供まで作って、私を振ったもんね。知ってるけど……?」
「いやそうじゃなくて……」
もごもごと何かを言いたそうにしながら言い淀む孝治に、ますますイライラしてしまう。お腹空いてるからかなぁ? だって、まだから揚げを一個食べただけだし。
たいした話じゃないなら帰ってもらっていいかな、お弁当の続きを食べたいから――と言おうと口を開いたところで、孝治の声に遮られ口をつぐむ。
「あのさ」
「……なに?」
「俺、あいつと……ユミと別れた」
「……はぁ?」
「あいつさ……他の男と俺と二股かけてて……俺との子供って言ってたけど、本当はそいつとの子だって……」
「……ふぅん」
「いや、ふーん、って……」
「他になんて言えば良いのよ? 私には関係のない話でしょ?」
「それはまぁ、そうだけど……」
ばかじゃないの?
つまり、二股掛けられてた上にお腹の子供の父親は孝治じゃなくて、もう一人の男が父親ってことでしょ? 孝治が振られたってことだろうから、ユミって子にとってはあっちが本命だったってことだよね?
「……で? 私にそんな話して、何が言いたいの? 先に行っておくけど、私もう孝治とよりを戻す気はないからね」
「亜矢っ」
「だってそうでしょ? 私、浮気された上に振られたのよ? じゃあ孝治はさぁ、もし逆の立場だったら、私のこと許せるの?」
「……そ、それは……」
「ほら、無理じゃん。私だって無理なんだよ」
「亜矢……っ」
「確かに仕事が忙しくて全然デート出来なかったのは申し訳なかったと思う。でも、休日なら少しぐらいは会えたし、それを断ってたのはそっちでしょ?」
「お、俺だって、休日は、休みたいし……っ」
「それは私も同じ。でも、会いたいって言われたら、休日なら会ったよ。本当は平日の夜だけじゃなくて休日もその子と会ってたんでしょ? だったら私、そこまで悪くないんじゃない? 会えないのは平日の夜だけだったんだから」
あくまでも、忙しくて会えなかったのは平日の夜だけだ。土日などの休日は私もちゃんと休みだったし、私から会おうと言ったことだって何度もあったのに、それを全部断っていたのは孝治の方だ。
きっと、私と会うよりもユミって子と会う方が楽しかったんだろう。
私にも原因が色々あるのは認めるけど、この関係を決定的に壊してしまったのは孝治の浮気行為なわけだし、別れ話を持ち出したのは孝治の方だ。
今さらよりを戻したいだなんて、虫が良すぎる。残念ながら私にはもう一度孝治とつき合う気は全くない。
「……亜矢が料理音痴でも、俺、我慢するからさ」
「……はぁっ?」
「ちょっとぐらいメシが不味くても、文句言わないよ」
「ちょ、ちょっと待ってっ、自分が何言ってるか分かってるの……!?」
「だから、」
「出て行って!」
「なあ亜矢っ、」
「顔も見たくないから、今すぐ出て行って!!」
私は孝治の腕を掴んで玄関へと引っ張っていく。
孝治は私の剣幕に驚いた顔をしていたけれど、だからこそなのか、渋々ではあるけど抵抗することなく帰って行った。
「また連絡する!」と言う不要なセリフを残して……。
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