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「ごちそうさま」
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このところ朝目覚めるといつも、遮光カーテンが欲しいなと思うようになった。
今朝も微睡みながらそう思う……。
冬の朝の訪れはゆっくりで、まだ眩しいほどではないけれどそれでも部屋の全貌が見えるぐらいには明るくなっている。
目をこすりながら時間を確認すると、7時半を過ぎていた。会社までは片道1時間以上はかかるから平日なら確実に遅刻だけど、今日は土曜日でお休みだから大丈夫だ。もう少しベッドの中でうとうとしようかな……、と思い、ふと昨夜のことを思いだして、一気に覚醒する。
ガバッと起きて、フローリングの床に足を着いた。
「冷たっ……」
古いマンションの床はいくらリフォーム済みでもびっくりするぐらい冷たくて、慌ててもこもこのルームシューズに足を突っ込む。せめてもう少し断熱がしっかりした部屋に引っ越したいと思いつつも、家賃のことを考えると二の足を踏む。
実家への仕送りもしたいし、将来のための貯金もしておきたい。これからの人生をひとりで過ごしていくのなら、老後のための貯金も必要だろう。
なんて、あれこれ考えていたら、おなかがグーと鳴った。
上着を羽織りキッチンへと向かう。
「……あ」
玄関から丸見えのキッチンと廊下を兼ねた床には昨夜メープルくんがくれたお土産の箱が置かれていて、そう言えばその中には「パンに塗ると美味しいよ」と彼が言っていたマロンペーストが入っていたな、と思い出す。
彼は「近所のとても美味しいパン屋さんで買ったバゲットもお裾分けするね」と親切にバゲットも入れておいてくれた。
ありがたい。さっそくそれをいただこう。
お湯を沸かしてインスタントコーヒーを入れ、適当な厚みにスライスしてくれていたバゲットにマロンペーストを塗りたくって、ガブリとかじりつく。
「……おいしっ」
朝からしあわせせな気分になる。
胃袋が満たされれば心も満たされる。
それと同時に、やっと、昨夜のことが夢ではないのだと実感した。
キラキラと輝く大都会の夜景を彼と見たことがあまりにも現実味がなくて、なんとなくどこかであれは夢だったんじゃないかと思ったりしていたから……。
彼がくれたたくさんのお土産が入った箱はちゃんと今私の目の前にあって、昨夜のことが現実だったのだと教えてくれている。
真冬の夜風は冷たかったけれど、夜景が綺麗だった……多分。ぼんやりとしか覚えていないのは、彼が私を無駄にドキドキさせたせいだ。
はぁ、とため息をつく。一体何のつもりなんだろう、彼は……。
テーブルに置いているスマホへ視線を移す。
今日の天気予報でも調べようかと思いそれを手に取ったところで、着信音と共にバイブレーションし始め、パッと着信を示す画面が表示された。
「……」
しばらく着信画面を見つめて、この電話を取るべきかどうか悩んでしまった。だって……。かかってきた番号は私の電話帳には登録していない番号だったから。
いや、正確には、つい一か月ほど前までは登録していた。けれど、縁が切れたその時に綺麗さっぱり消し去ったのだ。
まあ、相手が私の番号を消していなければこうやってかかってくる可能性はあるんだけどね。そんな風に思って、相手が私の番号を消していなかった事実に気づいてしまい、思わず眉間に皺が寄った。
どう言うこと? なんで消してないのよ?
今朝も微睡みながらそう思う……。
冬の朝の訪れはゆっくりで、まだ眩しいほどではないけれどそれでも部屋の全貌が見えるぐらいには明るくなっている。
目をこすりながら時間を確認すると、7時半を過ぎていた。会社までは片道1時間以上はかかるから平日なら確実に遅刻だけど、今日は土曜日でお休みだから大丈夫だ。もう少しベッドの中でうとうとしようかな……、と思い、ふと昨夜のことを思いだして、一気に覚醒する。
ガバッと起きて、フローリングの床に足を着いた。
「冷たっ……」
古いマンションの床はいくらリフォーム済みでもびっくりするぐらい冷たくて、慌ててもこもこのルームシューズに足を突っ込む。せめてもう少し断熱がしっかりした部屋に引っ越したいと思いつつも、家賃のことを考えると二の足を踏む。
実家への仕送りもしたいし、将来のための貯金もしておきたい。これからの人生をひとりで過ごしていくのなら、老後のための貯金も必要だろう。
なんて、あれこれ考えていたら、おなかがグーと鳴った。
上着を羽織りキッチンへと向かう。
「……あ」
玄関から丸見えのキッチンと廊下を兼ねた床には昨夜メープルくんがくれたお土産の箱が置かれていて、そう言えばその中には「パンに塗ると美味しいよ」と彼が言っていたマロンペーストが入っていたな、と思い出す。
彼は「近所のとても美味しいパン屋さんで買ったバゲットもお裾分けするね」と親切にバゲットも入れておいてくれた。
ありがたい。さっそくそれをいただこう。
お湯を沸かしてインスタントコーヒーを入れ、適当な厚みにスライスしてくれていたバゲットにマロンペーストを塗りたくって、ガブリとかじりつく。
「……おいしっ」
朝からしあわせせな気分になる。
胃袋が満たされれば心も満たされる。
それと同時に、やっと、昨夜のことが夢ではないのだと実感した。
キラキラと輝く大都会の夜景を彼と見たことがあまりにも現実味がなくて、なんとなくどこかであれは夢だったんじゃないかと思ったりしていたから……。
彼がくれたたくさんのお土産が入った箱はちゃんと今私の目の前にあって、昨夜のことが現実だったのだと教えてくれている。
真冬の夜風は冷たかったけれど、夜景が綺麗だった……多分。ぼんやりとしか覚えていないのは、彼が私を無駄にドキドキさせたせいだ。
はぁ、とため息をつく。一体何のつもりなんだろう、彼は……。
テーブルに置いているスマホへ視線を移す。
今日の天気予報でも調べようかと思いそれを手に取ったところで、着信音と共にバイブレーションし始め、パッと着信を示す画面が表示された。
「……」
しばらく着信画面を見つめて、この電話を取るべきかどうか悩んでしまった。だって……。かかってきた番号は私の電話帳には登録していない番号だったから。
いや、正確には、つい一か月ほど前までは登録していた。けれど、縁が切れたその時に綺麗さっぱり消し去ったのだ。
まあ、相手が私の番号を消していなければこうやってかかってくる可能性はあるんだけどね。そんな風に思って、相手が私の番号を消していなかった事実に気づいてしまい、思わず眉間に皺が寄った。
どう言うこと? なんで消してないのよ?
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