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ドライブでもしませんか?
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自分の顔と格闘するのは終わりにして、クローゼットからセーターとパンツを引っ張り出した。愛用している冬用のもこもこパジャマを脱いで、それらに着替え、一番暖かいコートを羽織り、マフラーを巻く。
あっという間に準備を終えてしまって、こんなのまるで恋人と会う時間が待ち遠しい女みたいだ。ちがう、そんなんじゃない、元々身支度にそんなに時間がかかるタイプじゃないから私!
心の中で言い訳をしながらも、スマホを手に取る。
出掛ける準備が終わったら電話してね、と言われていた。連絡先の中から“メープルくん”を探し出し、一瞬ためらってから電話をかけると、待っていてくれたのか、すぐに繋がった。
「……あの、支度、終わりました」
『じゃあ下で待ってるから、下りてきて? 急がなくて大丈夫だからね?』
「……うん」
下で待ってるって事は、このマンションの前にいるってことか。急がなくて良いと言われれば、なんとなく急ぎたくなる。
戸締まりを再確認して、慌てて私は部屋を出た。
私の住むこの賃貸マンションはとても古くて、エレベーターも古くて動きがのんびりしている。
あーもう、おじいちゃんエレベーター、頑張ってよー。心の中で応援するのが日課になってる。
エレベーターに乗り込み、【閉】ボタンを押してから【1】のボタンを押す。あぁはいはい、分かりました、じゃあ閉じますよ、いいですか?――みたいな“間”があって、ようやく扉が閉まる。ウィーン、と言う大きめの音と共に私の乗った空間が動き出した。
おじいちゃんエレベーターが頑張ってくれたおかげで、今日もなんとか1階に辿り着く。のんびり開く扉に辟易しながら、まだ半開きの間に私はそこをすり抜けた。
オートロックでも何でもないただ重いだけのエントランスの扉を開けると、見覚えのある車が一台止まっている。メープルくんの車だ。
彼に腕時計を返しに行ったあの日、迷子癖のある私を心配した彼がこのマンションまで車で送ってくれた。彼が乗っているのはよく街中で見かけるようなコンパクトカー。
別に誰がどんな車に乗っていてもいいとは思うけど、でもなんとなく、彼はもっと派手な車に乗ってるものだとばかり思っていたから、少し驚いた。だってホストの人ってきっと、偏見かも知れないけど、高級外車に乗ってそうなイメージだし。私の勝手な想像だけどね。
だから全然違ったことに、正直言って結構びっくりしたのだ。
私を見つけるなり車から降りてきてサッと助手席の扉を開け、どうぞ、と促す。
こうやってエスコートされるのは気分が良いけれど、あまりのスマートさに、やっぱり彼の仕事は……なんて思ってしまう。
そう言う仕事が悪いわけじゃない。きっとホストを真剣に仕事としている人だっているんだろうとは思う。思うけど――。
彼は「じゃあ出発しまーす」と明るい声でそう言って、車を滑らかに発進させた。
なぜ急に、ドライブ……? 二週間も連絡なかったのに?まあ、こっちもしなかったけど。
あっという間に準備を終えてしまって、こんなのまるで恋人と会う時間が待ち遠しい女みたいだ。ちがう、そんなんじゃない、元々身支度にそんなに時間がかかるタイプじゃないから私!
心の中で言い訳をしながらも、スマホを手に取る。
出掛ける準備が終わったら電話してね、と言われていた。連絡先の中から“メープルくん”を探し出し、一瞬ためらってから電話をかけると、待っていてくれたのか、すぐに繋がった。
「……あの、支度、終わりました」
『じゃあ下で待ってるから、下りてきて? 急がなくて大丈夫だからね?』
「……うん」
下で待ってるって事は、このマンションの前にいるってことか。急がなくて良いと言われれば、なんとなく急ぎたくなる。
戸締まりを再確認して、慌てて私は部屋を出た。
私の住むこの賃貸マンションはとても古くて、エレベーターも古くて動きがのんびりしている。
あーもう、おじいちゃんエレベーター、頑張ってよー。心の中で応援するのが日課になってる。
エレベーターに乗り込み、【閉】ボタンを押してから【1】のボタンを押す。あぁはいはい、分かりました、じゃあ閉じますよ、いいですか?――みたいな“間”があって、ようやく扉が閉まる。ウィーン、と言う大きめの音と共に私の乗った空間が動き出した。
おじいちゃんエレベーターが頑張ってくれたおかげで、今日もなんとか1階に辿り着く。のんびり開く扉に辟易しながら、まだ半開きの間に私はそこをすり抜けた。
オートロックでも何でもないただ重いだけのエントランスの扉を開けると、見覚えのある車が一台止まっている。メープルくんの車だ。
彼に腕時計を返しに行ったあの日、迷子癖のある私を心配した彼がこのマンションまで車で送ってくれた。彼が乗っているのはよく街中で見かけるようなコンパクトカー。
別に誰がどんな車に乗っていてもいいとは思うけど、でもなんとなく、彼はもっと派手な車に乗ってるものだとばかり思っていたから、少し驚いた。だってホストの人ってきっと、偏見かも知れないけど、高級外車に乗ってそうなイメージだし。私の勝手な想像だけどね。
だから全然違ったことに、正直言って結構びっくりしたのだ。
私を見つけるなり車から降りてきてサッと助手席の扉を開け、どうぞ、と促す。
こうやってエスコートされるのは気分が良いけれど、あまりのスマートさに、やっぱり彼の仕事は……なんて思ってしまう。
そう言う仕事が悪いわけじゃない。きっとホストを真剣に仕事としている人だっているんだろうとは思う。思うけど――。
彼は「じゃあ出発しまーす」と明るい声でそう言って、車を滑らかに発進させた。
なぜ急に、ドライブ……? 二週間も連絡なかったのに?まあ、こっちもしなかったけど。
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