21 / 78
ドライブでもしませんか?
2
しおりを挟む
時刻は金曜日の夜9時すぎ。
美紀はきっと会社を出たばかりなのだろう。耳元のスピーカーからは少し騒がしい音が聞こえて、彼女が家ではなく外からかけていることが分かる。相変わらず仕事が忙しいみたいだ。
彼女の所属する法務部の仕事の詳しいことは分からないけれど、秘書課の私よりもずっと難しい案件を抱えているはずだと思う。間違いなく私なんかよりも仕事の出来る女である美紀の事情聴取を乗り切るのは、なかなか難しいことが予想される。
「……いや、どう、と言われても」
言葉を濁す私……。
このあと美紀は彼女の仕事ぶりを表すようにズバズバと切り込んで来るだろうことは簡単に想像出来て、私は思わず身震いした。
『あのあと二人で仲良く朝まで、とか!?』
あながち間違いではない美紀の言葉に、私は思わずむせそうになる。
「そ、そんなわけ……っ!」
『だってさぁ。彼、亜矢のこと熱心に介抱してたし、亜矢だってまんざらじゃなさそうだったじゃん!』
「いっ、いやっ、そんなわけ、」
『はいはい、気づいてないのは本人だけ! で、あのあとどうなったの?』
「えっと……、べ、別に、なにも、」
『うっわ、慌て方が怪しいっ!!!』
ぐっ、と声が詰まる。
でも、朝帰りはともかく、多分彼とは何もなかった、と思う……、確証はないけれど……。
「……」
『無言なの、ますます怪しい~! 今度なにがあったか教えてよね!?』
教えられることなんて何もなくて、思わず眉間に皺を寄せた。けれどもそれが電話の向こうの美紀に伝わるわけもない。
『あ、ごめん、私いまからデートだから! じゃあまたね!!』
「え、あ、ええ? うん、またね……?」
すぐに通話が切れた。私の返事は彼女に聞こえたただろうか……?
それにしても……デートか、いいな。しかも今からって、もしかしてお泊まりデートか???
……て言うか、美紀って確かつい最近まで付き合ってる人っていなかったよね? と言うことは、先日のあの合コンで誰かと意気投合して付き合うことになったってことか。
あの時すごく話が弾んでいたから、当然と言えば当然なんだけど。
そうか、美紀はうまくいったんだな、良かった。あの三人の中の誰と付き合うことになったのか今度教えてもらわないと。
とりあえず厳しく尋問されなくて良かった……、美紀の彼氏さま、ありがとう。
そんなことを考えていたら……さっき切ったばかりのスマホが着信音を鳴らし始めた。美紀、何か私に言い忘れたことでもあるのかな、なんて思いながら画面を見る。
――“メープルくん”
画面にそう表示されていて、思わず息を飲んだ。なぜだか動悸が激しくなる。そのせいか、スマホを持つ指が、通話を選ぼうとする指が、震える……。
意味が分からない。こんな風になる意味が、分からない……。
「……はい」
スマホをうっかり落としそうになりながらも、なんとか通話を開始する。声が上ずったかも知れない。気づかれていませんように、と願う。
『亜矢さん、久しぶり』
「う、ん、久しぶり……」
ただただ彼の言葉をオウム返しにするだけでもなぜだか緊張してしまう。
電話だと、彼の声がとても大人っぽく聞こえる。顔が見えないからかな。
美紀はきっと会社を出たばかりなのだろう。耳元のスピーカーからは少し騒がしい音が聞こえて、彼女が家ではなく外からかけていることが分かる。相変わらず仕事が忙しいみたいだ。
彼女の所属する法務部の仕事の詳しいことは分からないけれど、秘書課の私よりもずっと難しい案件を抱えているはずだと思う。間違いなく私なんかよりも仕事の出来る女である美紀の事情聴取を乗り切るのは、なかなか難しいことが予想される。
「……いや、どう、と言われても」
言葉を濁す私……。
このあと美紀は彼女の仕事ぶりを表すようにズバズバと切り込んで来るだろうことは簡単に想像出来て、私は思わず身震いした。
『あのあと二人で仲良く朝まで、とか!?』
あながち間違いではない美紀の言葉に、私は思わずむせそうになる。
「そ、そんなわけ……っ!」
『だってさぁ。彼、亜矢のこと熱心に介抱してたし、亜矢だってまんざらじゃなさそうだったじゃん!』
「いっ、いやっ、そんなわけ、」
『はいはい、気づいてないのは本人だけ! で、あのあとどうなったの?』
「えっと……、べ、別に、なにも、」
『うっわ、慌て方が怪しいっ!!!』
ぐっ、と声が詰まる。
でも、朝帰りはともかく、多分彼とは何もなかった、と思う……、確証はないけれど……。
「……」
『無言なの、ますます怪しい~! 今度なにがあったか教えてよね!?』
教えられることなんて何もなくて、思わず眉間に皺を寄せた。けれどもそれが電話の向こうの美紀に伝わるわけもない。
『あ、ごめん、私いまからデートだから! じゃあまたね!!』
「え、あ、ええ? うん、またね……?」
すぐに通話が切れた。私の返事は彼女に聞こえたただろうか……?
それにしても……デートか、いいな。しかも今からって、もしかしてお泊まりデートか???
……て言うか、美紀って確かつい最近まで付き合ってる人っていなかったよね? と言うことは、先日のあの合コンで誰かと意気投合して付き合うことになったってことか。
あの時すごく話が弾んでいたから、当然と言えば当然なんだけど。
そうか、美紀はうまくいったんだな、良かった。あの三人の中の誰と付き合うことになったのか今度教えてもらわないと。
とりあえず厳しく尋問されなくて良かった……、美紀の彼氏さま、ありがとう。
そんなことを考えていたら……さっき切ったばかりのスマホが着信音を鳴らし始めた。美紀、何か私に言い忘れたことでもあるのかな、なんて思いながら画面を見る。
――“メープルくん”
画面にそう表示されていて、思わず息を飲んだ。なぜだか動悸が激しくなる。そのせいか、スマホを持つ指が、通話を選ぼうとする指が、震える……。
意味が分からない。こんな風になる意味が、分からない……。
「……はい」
スマホをうっかり落としそうになりながらも、なんとか通話を開始する。声が上ずったかも知れない。気づかれていませんように、と願う。
『亜矢さん、久しぶり』
「う、ん、久しぶり……」
ただただ彼の言葉をオウム返しにするだけでもなぜだか緊張してしまう。
電話だと、彼の声がとても大人っぽく聞こえる。顔が見えないからかな。
1
お気に入りに追加
135
あなたにおすすめの小説
推活♡指南〜秘密持ちVtuberはスパダリ社長の溺愛にほだされる〜
湊未来
恋愛
「同じファンとして、推し活に協力してくれ!」
「はっ?」
突然呼び出された社長室。総務課の地味メガネこと『清瀬穂花(きよせほのか)』は、困惑していた。今朝落とした自分のマスコットを握りしめ、頭を下げる美丈夫『一色颯真(いっしきそうま)』からの突然の申し出に。
しかも、彼は穂花の分身『Vチューバー花音』のコアなファンだった。
モデル顔負けのイケメン社長がヲタクで、自分のファン!?
素性がバレる訳にはいかない。絶対に……
自分の分身であるVチューバーを推すファンに、推し活指南しなければならなくなった地味メガネOLと、並々ならぬ愛を『推し』に注ぐイケメンヲタク社長とのハートフルラブコメディ。
果たして、イケメンヲタク社長は無事に『推し』を手に入れる事が出来るのか。
恋煩いの幸せレシピ ~社長と秘密の恋始めます~
神原オホカミ【書籍発売中】
恋愛
会社に内緒でダブルワークをしている芽生は、アルバイト先の居酒屋で自身が勤める会社の社長に遭遇。
一般社員の顔なんて覚えていないはずと思っていたのが間違いで、気が付けば、クビの代わりに週末に家政婦の仕事をすることに!?
美味しいご飯と家族と仕事と夢。
能天気色気無し女子が、横暴な俺様社長と繰り広げる、お料理恋愛ラブコメ。
※注意※ 2020年執筆作品
◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。
◆無断転写や内容の模倣はご遠慮ください。
◆大変申し訳ありませんが不定期更新です。また、予告なく非公開にすることがあります。
◆文章をAI学習に使うことは絶対にしないでください。
◆カクヨムさん/エブリスタさん/なろうさんでも掲載してます。
クリスマスに咲くバラ
篠原怜
恋愛
亜美は29歳。クリスマスを目前にしてファッションモデルの仕事を引退した。亜美には貴大という婚約者がいるのだが今のところ結婚はの予定はない。彼は実業家の御曹司で、年下だけど頼りになる人。だけど亜美には結婚に踏み切れない複雑な事情があって……。■2012年に著者のサイトで公開したものの再掲です。
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
私の婚活事情〜副社長の策に嵌まるまで〜
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
身長172センチ。
高身長であること以外はいたって平凡なアラサーOLの佐伯花音。
婚活アプリに登録し、積極的に動いているのに中々上手く行かない。
名前からしてもっと可愛らしい人かと…ってどういうこと? そんな人こっちから願い下げ。
−−−でもだからってこんなハイスペ男子も求めてないっ!!
イケメン副社長に振り回される毎日…気が付いたときには既に副社長の手の内にいた。
粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる
春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。
幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……?
幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。
2024.03.06
イラスト:雪緒さま
10 sweet wedding
国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる