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【番外編】伊吹 side
2.
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仕事が暇なわけではない、と先に断っておく。
俺はその翌日も、叔父のカフェに足を運んだ。
理由は……、カフェで見た彼女が、なぜだかどうしても気になって……。
昨日の今日だ、彼女に会えるとは思ってはいない。
昨日とほぼ同じ時間。カフェの扉を開ける。
店に入ってすぐに、カウンター席へと視線を向けた。
……いた、彼女だ。
名も知らぬ彼女の存在を確認しただけで、なぜか自然と口元が緩んでしまうのをとめることは出来なかった。
叔父が俺に気づいて、意味ありげに口元に笑みを浮かべる。
その笑みの意味が分からないほどの付き合いではない。
俺は小さくため息を吐き、いつもの窓際の席に着いた。
この席からは、叔父の娘――つまり俺にとっては従妹の、理奈が勤める花屋がよく見える。
カフェを開くにあたり、立地の選定をしたのは当然叔父だ。
なぜここにしたのかは理解できないでもない。
ここから少し歩いた界隈はスナックなどの飲み屋街になっている。
その入り口にある花屋で働く理奈が心配でたまらなかったのだと思う。
理奈が俺に気づいて手を振る。
俺も同じように振り返す。
俺にとってはそれは、頑張って働いている妹的存在の従妹に対してただ手を振り返した、それだけのことだった。
だから、いつも通りのその行為が、まさか、誤解の種になっているとは思いもしなかったのだ――。
――昨日の彼女の下の名前は、『結麻』と言うらしい。
「お客様の情報を話すのは、僕の信用問題に関わります」
そう叔父に言われてかなり手こずったけれど、「下の名前ぐらい、いいでしょう」と粘って、なんとか無理矢理聞き出した。
彼の言い分は至極もっともだけど、どうせ和樹さんだって自分から尋ねたに決まってるのだから、俺だけ非難されるいわれはない気がする。
彼女に話しかけたいと思ったけれど、その前に叔父から想定外のことを聞かされた。
「彼女、……多分、男の人が怖いんじゃないかな」
「……根拠は?」
「僕とほとんど目を合わさない。僕がコーヒーを出す時、いつも一瞬身構える」
「……気のせいでは?」
「うん、僕も気のせいだと良いな、と思うんだけどね」
叔父は、ひとの心の機微に聡い。彼が言うのなら、恐らく間違いないだろう。
「気軽に声をかけて怖がられて嫌われないよう、気を付けて」
「……」
「あと、伊吹くんが嫌われるのは構わないけど、彼女を傷付けたりしたら僕が許さないからね」
「……分かってます」
我が叔父ながら、穏やかな声と笑顔でこう言われると本気で怖い。
絶対に敵に回したくないタイプだ。
俺はその翌日も、叔父のカフェに足を運んだ。
理由は……、カフェで見た彼女が、なぜだかどうしても気になって……。
昨日の今日だ、彼女に会えるとは思ってはいない。
昨日とほぼ同じ時間。カフェの扉を開ける。
店に入ってすぐに、カウンター席へと視線を向けた。
……いた、彼女だ。
名も知らぬ彼女の存在を確認しただけで、なぜか自然と口元が緩んでしまうのをとめることは出来なかった。
叔父が俺に気づいて、意味ありげに口元に笑みを浮かべる。
その笑みの意味が分からないほどの付き合いではない。
俺は小さくため息を吐き、いつもの窓際の席に着いた。
この席からは、叔父の娘――つまり俺にとっては従妹の、理奈が勤める花屋がよく見える。
カフェを開くにあたり、立地の選定をしたのは当然叔父だ。
なぜここにしたのかは理解できないでもない。
ここから少し歩いた界隈はスナックなどの飲み屋街になっている。
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理奈が俺に気づいて手を振る。
俺も同じように振り返す。
俺にとってはそれは、頑張って働いている妹的存在の従妹に対してただ手を振り返した、それだけのことだった。
だから、いつも通りのその行為が、まさか、誤解の種になっているとは思いもしなかったのだ――。
――昨日の彼女の下の名前は、『結麻』と言うらしい。
「お客様の情報を話すのは、僕の信用問題に関わります」
そう叔父に言われてかなり手こずったけれど、「下の名前ぐらい、いいでしょう」と粘って、なんとか無理矢理聞き出した。
彼の言い分は至極もっともだけど、どうせ和樹さんだって自分から尋ねたに決まってるのだから、俺だけ非難されるいわれはない気がする。
彼女に話しかけたいと思ったけれど、その前に叔父から想定外のことを聞かされた。
「彼女、……多分、男の人が怖いんじゃないかな」
「……根拠は?」
「僕とほとんど目を合わさない。僕がコーヒーを出す時、いつも一瞬身構える」
「……気のせいでは?」
「うん、僕も気のせいだと良いな、と思うんだけどね」
叔父は、ひとの心の機微に聡い。彼が言うのなら、恐らく間違いないだろう。
「気軽に声をかけて怖がられて嫌われないよう、気を付けて」
「……」
「あと、伊吹くんが嫌われるのは構わないけど、彼女を傷付けたりしたら僕が許さないからね」
「……分かってます」
我が叔父ながら、穏やかな声と笑顔でこう言われると本気で怖い。
絶対に敵に回したくないタイプだ。
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