嘘は溺愛のはじまり

海棠桔梗

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永遠を

3.

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「さ、さて、お仕事、お仕事……」

 私はわざとらしくデスクへと向き直り、昨日の仕事の続きを……と思い、はたと気づく。

 ……そうだ。
 昨日は、私、途中で──。

「あ、の、野村さんっ。昨日は、すみませんでした!」
「えー? あー、いやいや、なんで若月ちゃんが謝るのよー?」
「だって、完全に仕事の途中で、しかも勝手に早退するようなことになってしまって、」
「そんなの若月ちゃんのせいじゃないから」
「でも、急に抜けて、ご迷惑をおかけして……」
「いやいや、ほんとにあれは若月ちゃんのせいじゃないでしょー? それに……いや、そうだな、悪いと思ってるなら……」
「?」
「うん。専務との関係を、洗いざらい、聞かせて貰おうかなー??」

 美しい顔で、不敵な笑みを浮かべる野村さん……。
 うっ……、こわい……。

「……実はあの時さぁ、私も専務と一緒に、書庫に駆けつけたのよー」

 書庫から奥瀬くんの移動用の内線に電話をした、私のあのたったのひと言で奥瀬くんは異変を察知してくれて、専務室へ直接内線をかけたのだそうだ。
 慌ただしく出て行こうとする伊吹さんに、野村さんが声を掛けると、伊吹さんは「結麻さんが書庫に閉じ込められたらしいです!」と顔面蒼白で答えたらしい。

 あの書庫の鍵は以前から少し不具合があって、内側からは開けにくくなっている。
 そのため、万一に備えて、総務課と秘書課でそれぞれ二本ずつ鍵を保管することになっていた。

 つまり、書庫の鍵はあの時――私が一本。総務の谷川部長が一本。その他に、総務課と秘書課に、それぞれもう一本ずつ存在していたと言うことだ。

 伊吹さんから私が書庫に閉じ込められた可能性を聞いた野村さんは、秘書課で保管していたもう一本の鍵を持って、伊吹さんとともに書庫へと駆けつけてくれたのだそうだ。
 結果的には、奥瀬くんが総務課で保管していた鍵を持ってきてくれたうえに、伊吹さんと野村さんよりも先に駆けつけて開錠してくれたお陰で、野村さんが持参した鍵は使うことはなかったらしいけど。

「もう、専務の焦りようったら、すごかったんだからー。うふふっ」
「……っ」
「それに専務は若月ちゃんのこと『結麻さん』って下の名前で呼んでるしっ。これはもう、確定的でしょー? 専務ったら、ぜんぜん隠せてないって言うか、隠す気ないんだもんー!!」

 そう言って、嬉しそうに笑う野村さん……。
 私は、顔から火が出そうなほど恥ずかしかった。

 野村さんにも「若月ちゃん、顔、真っ赤―! かわいい~!!」ってからかわれて……。

「ほんと言うとさー。実は若月ちゃんが来た初日から分かってたんだよねー」

 なんて言うから、私はとてもびっくりした。

「だってさー、専務、ほんとにぜんぜん隠してないからー」
「……ええ?」
「だって、若月ちゃんのこと、最初からすごーく大切そうに見つめてたしー」
「い、いや、そんなはずは……」
「もうっ。分かってないの、若月ちゃんだけだからねー??」
「え、……ええっ?」

 野村さんによれば、他の秘書課の方々も全員、伊吹さんと私の微妙な関係に気づいていたのだと言う。
 ……えっと、ちょっと待って、顔から火が吹き出そうなほど、恥ずかしいっ。

「専務は、いくら権限があったとしても、人事に口出したりしないひとなんだよー」

 公正公平。
 伊吹さんの、専務取締役としての、ポリシーだと言う。

「それが……ねえ……?」

 野村さんが、クスクスと笑う。

「ほぼほぼ一存で、連れて来ちゃったわけでしょー? 分かりやすすぎるでしょー」
「……っ」

 でもそれって、大丈夫なのかな。
 伊吹さんの立場が、悪くなったりしていないだろうか……。

 そんな私の思考を読んだかのように、野村さんはケラケラと笑いながら……

「結果、大正解だったけどねー。総務の片瀬なんかよりずっと仕事出来るし、責任感も強いし、なんと言っても可愛いし!」

 ……なんて言うものだから、私はただただ赤面するしかなかった。
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