31 / 75
一緒に微睡む
3.
しおりを挟む
「結麻さんが母と仲良くなってくれるのは、俺も嬉しいよ」
「……はい」
頷くと、また優しく抱き締められた……。
――お母様がお風呂に入ると、伊吹さんは私を手招きして隣に座るように促した。
少し間をあけて座ったのに、伊吹さんが身を寄せるように座り直したことによって、私と伊吹さんとの間の隙間は消えてしまっている。
更には、手をキュッと絡めるように繋ぎ合わされて……。
「ねぇ、結麻さん」
「は、い」
「俺たちは母の前では恋人同士ですよね?」
「はい」
「しかも、同棲している」
「はい」
「同棲しているカップルが別々の部屋で眠るというのは、おかしいと思うんだけど。どう?」
えっと、どう、って聞かれても、返答に困ります……。
困り果てて伊吹さんを窺い見ると、いつも通りの美しい顔で、やっぱりいつも通り優しく微笑んでいた。
「……あ、の」
「今日は、同じ部屋で寝ようか」
「……え、え!?」
「主寝室のベッドは広いから、端と端で寝れば大丈夫」
「えっと、でも、」
「結麻さんの許可なしに、襲ったりもしないって約束します」
「えええ? えっと……?」
「……本当は抱き締めて眠りたいけど、それはなるべく我慢するから」
「あの……っ」
「じゃあ結麻さん、先に主寝室の方のバスルーム、使って良いですよ」
ほらほら、と手を取ったまま私をソファから立ち上がらせる。
えっ、待って待って、私、まだ心の準備が……!
同じベッドで寝るってことだよね!?
……いやいや、無理でしょ!?
いくら伊吹さんのベッドが広いって言っても、同じベッド、ですよ!?
想像しただけでみるみる心拍が上がるし、顔も熱くなる。
慌てふためく私を相も変わらぬ美しい笑顔で見つめる伊吹さんに、私は思わずクラクラしてしまった。
耳元で伊吹さんに「ほら、着替え、取っておいで」と追い打ちを掛けるように囁き落とされ、私は自室へと着替えを取りにふらりと足を動かした。
よろよろと歩きながら、これで良いのかどうか自問する。
伊吹さんのベッドで、一緒に、寝る……?
ひとりパニックになり、頭をブンブンと左右に振る。
ちがう、ちがう、一緒に寝るんじゃなくて、同じベッドで……、あぁ、いや、一緒か、えええっと、…………とりあえず、気絶しそう……。
のろのろと着替えを用意して覚束ない足取りでリビングに戻ると、伊吹さんは私が主寝室のバスルームへ向かうのを微笑みながら見送ってくれた……。
バスルームでひとり身体を洗いながら、今晩をどうやって乗り越えるのかを考える。
いや、乗り越えるのは無理かも知れない。
たとえどんなにベッドが広くても、そんなに近い場所で眠るなんて……無理な気がする。
今夜は眠れるだろうか……。
――お風呂から上がると、伊吹さんが「ん、髪、ちゃんと乾いてるね」と言いながら私の髪をスルリと梳いた。
あたふたする私をリビングに残し、伊吹さんが寝室奥のバスルームへと消えていく。
……こ、こんなの、まるで本当の恋人同士みたいだ。
伊吹さんは、お母様の前だから“恋人の演技”をしているだけだって分かっていても、どこか錯覚してしまいそうなぐらいに優しく、熱の籠もった瞳で見つめてくる。
だめだと分かっていても伊吹さんへの気持ちを抑えられなくて、ドキドキが加速して、そして、切なくなる。
伊吹さんは私のことを好きなわけじゃない。分かってる。
そんなことは承知の上で、この同居を決めたはずだ。
寝る前に少しお母様と三人で歓談しているけど、徐々に近づくその時に、少しずつ緊張も増していく。
お母様が「私はそろそろ失礼するわね」と客室へと去ると、いよいよ、……。
「俺たちもそろそろ寝ようか」
「……はい……」
端と端で眠るだけ……、たいした事ではないはずだ。
伊吹さんがソファから立ち上がり、私の手を取る。
お母様はもう客室へ行かれた。だからもう演技をする必要はない。
それなのに、伊吹さんは甘く微笑んで、私を寝室へといざなう。
今夜はきっと、眠れない夜になる――。
「……はい」
頷くと、また優しく抱き締められた……。
――お母様がお風呂に入ると、伊吹さんは私を手招きして隣に座るように促した。
少し間をあけて座ったのに、伊吹さんが身を寄せるように座り直したことによって、私と伊吹さんとの間の隙間は消えてしまっている。
更には、手をキュッと絡めるように繋ぎ合わされて……。
「ねぇ、結麻さん」
「は、い」
「俺たちは母の前では恋人同士ですよね?」
「はい」
「しかも、同棲している」
「はい」
「同棲しているカップルが別々の部屋で眠るというのは、おかしいと思うんだけど。どう?」
えっと、どう、って聞かれても、返答に困ります……。
困り果てて伊吹さんを窺い見ると、いつも通りの美しい顔で、やっぱりいつも通り優しく微笑んでいた。
「……あ、の」
「今日は、同じ部屋で寝ようか」
「……え、え!?」
「主寝室のベッドは広いから、端と端で寝れば大丈夫」
「えっと、でも、」
「結麻さんの許可なしに、襲ったりもしないって約束します」
「えええ? えっと……?」
「……本当は抱き締めて眠りたいけど、それはなるべく我慢するから」
「あの……っ」
「じゃあ結麻さん、先に主寝室の方のバスルーム、使って良いですよ」
ほらほら、と手を取ったまま私をソファから立ち上がらせる。
えっ、待って待って、私、まだ心の準備が……!
同じベッドで寝るってことだよね!?
……いやいや、無理でしょ!?
いくら伊吹さんのベッドが広いって言っても、同じベッド、ですよ!?
想像しただけでみるみる心拍が上がるし、顔も熱くなる。
慌てふためく私を相も変わらぬ美しい笑顔で見つめる伊吹さんに、私は思わずクラクラしてしまった。
耳元で伊吹さんに「ほら、着替え、取っておいで」と追い打ちを掛けるように囁き落とされ、私は自室へと着替えを取りにふらりと足を動かした。
よろよろと歩きながら、これで良いのかどうか自問する。
伊吹さんのベッドで、一緒に、寝る……?
ひとりパニックになり、頭をブンブンと左右に振る。
ちがう、ちがう、一緒に寝るんじゃなくて、同じベッドで……、あぁ、いや、一緒か、えええっと、…………とりあえず、気絶しそう……。
のろのろと着替えを用意して覚束ない足取りでリビングに戻ると、伊吹さんは私が主寝室のバスルームへ向かうのを微笑みながら見送ってくれた……。
バスルームでひとり身体を洗いながら、今晩をどうやって乗り越えるのかを考える。
いや、乗り越えるのは無理かも知れない。
たとえどんなにベッドが広くても、そんなに近い場所で眠るなんて……無理な気がする。
今夜は眠れるだろうか……。
――お風呂から上がると、伊吹さんが「ん、髪、ちゃんと乾いてるね」と言いながら私の髪をスルリと梳いた。
あたふたする私をリビングに残し、伊吹さんが寝室奥のバスルームへと消えていく。
……こ、こんなの、まるで本当の恋人同士みたいだ。
伊吹さんは、お母様の前だから“恋人の演技”をしているだけだって分かっていても、どこか錯覚してしまいそうなぐらいに優しく、熱の籠もった瞳で見つめてくる。
だめだと分かっていても伊吹さんへの気持ちを抑えられなくて、ドキドキが加速して、そして、切なくなる。
伊吹さんは私のことを好きなわけじゃない。分かってる。
そんなことは承知の上で、この同居を決めたはずだ。
寝る前に少しお母様と三人で歓談しているけど、徐々に近づくその時に、少しずつ緊張も増していく。
お母様が「私はそろそろ失礼するわね」と客室へと去ると、いよいよ、……。
「俺たちもそろそろ寝ようか」
「……はい……」
端と端で眠るだけ……、たいした事ではないはずだ。
伊吹さんがソファから立ち上がり、私の手を取る。
お母様はもう客室へ行かれた。だからもう演技をする必要はない。
それなのに、伊吹さんは甘く微笑んで、私を寝室へといざなう。
今夜はきっと、眠れない夜になる――。
4
お気に入りに追加
152
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?
もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~
泉南佳那
恋愛
イケメンカリスマ美容師と内気で地味な書店員との、甘々溺愛ストーリーです!
どうぞお楽しみいただけますように。
〈あらすじ〉
加藤優紀は、現在、25歳の書店員。
東京の中心部ながら、昭和味たっぷりの裏町に位置する「高木書店」という名の本屋を、祖母とふたりで切り盛りしている。
彼女が高木書店で働きはじめたのは、3年ほど前から。
短大卒業後、不動産会社で営業事務をしていたが、同期の、親会社の重役令嬢からいじめに近い嫌がらせを受け、逃げるように会社を辞めた過去があった。
そのことは優紀の心に小さいながらも深い傷をつけた。
人付き合いを恐れるようになった優紀は、それ以来、つぶれかけの本屋で人の目につかない質素な生活に安んじていた。
一方、高木書店の目と鼻の先に、優紀の兄の幼なじみで、大企業の社長令息にしてカリスマ美容師の香坂玲伊が〈リインカネーション〉という総合ビューティーサロンを経営していた。
玲伊は優紀より4歳年上の29歳。
優紀も、兄とともに玲伊と一緒に遊んだ幼なじみであった。
店が近いこともあり、玲伊はしょっちゅう、優紀の本屋に顔を出していた。
子供のころから、かっこよくて優しかった玲伊は、優紀の初恋の人。
その気持ちは今もまったく変わっていなかったが、しがない書店員の自分が、カリスマ美容師にして御曹司の彼に釣り合うはずがないと、その恋心に蓋をしていた。
そんなある日、優紀は玲伊に「自分の店に来て」言われる。
優紀が〈リインカネーション〉を訪れると、人気のファッション誌『KALEN』の編集者が待っていた。
そして「シンデレラ・プロジェクト」のモデルをしてほしいと依頼される。
「シンデレラ・プロジェクト」とは、玲伊の店の1周年記念の企画で、〈リインカネーション〉のすべての施設を使い、2~3カ月でモデルの女性を美しく変身させ、それを雑誌の連載記事として掲載するというもの。
優紀は固辞したが、玲伊の熱心な誘いに負け、最終的に引き受けることとなる。
はじめての経験に戸惑いながらも、超一流の施術に心が満たされていく優紀。
そして、玲伊への恋心はいっそう募ってゆく。
玲伊はとても優しいが、それは親友の妹だから。
そんな切ない気持ちを抱えていた。
プロジェクトがはじまり、ひと月が過ぎた。
書店の仕事と〈リインカネーション〉の施術という二重生活に慣れてきた矢先、大問題が発生する。
突然、編集部に上層部から横やりが入り、優紀は「シンデレラ・プロジェクト」のモデルを下ろされることになった。
残念に思いながらも、やはり夢でしかなかったのだとあきらめる優紀だったが、そんなとき、玲伊から呼び出しを受けて……
隠れ御曹司の愛に絡めとられて
海棠桔梗
恋愛
目が覚めたら、名前が何だったかさっぱり覚えていない男とベッドを共にしていた――
彼氏に浮気されて更になぜか自分の方が振られて「もう男なんていらない!」って思ってた矢先、強引に参加させられた合コンで出会った、やたら綺麗な顔の男。
古い雑居ビルの一室に住んでるくせに、持ってる腕時計は超高級品。
仕事は飲食店勤務――って、もしかしてホスト!?
チャラい男はお断り!
けれども彼の作る料理はどれも絶品で……
超大手商社 秘書課勤務
野村 亜矢(のむら あや)
29歳
特技:迷子
×
飲食店勤務(ホスト?)
名も知らぬ男
24歳
特技:家事?
「方向音痴・家事音痴の女」は「チャラいけれど家事は完璧な男」の愛に絡め取られて
もう逃げられない――
【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編
タニマリ
恋愛
野獣のような男と付き合い始めてから早5年。そんな彼からプロポーズをされ同棲生活を始めた。
私の仕事が忙しくて結婚式と入籍は保留になっていたのだが……
予定にはなかった大問題が起こってしまった。
本作品はシリーズの第二弾の作品ですが、この作品だけでもお読み頂けます。
15分あれば読めると思います。
この作品の続編あります♪
『ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編』
【完結】その男『D』につき~初恋男は独占欲を拗らせる~
蓮美ちま
恋愛
最低最悪な初対面だった。
職場の同僚だろうと人妻ナースだろうと、誘われればおいしく頂いてきた来る者拒まずでお馴染みのチャラ男。
私はこんな人と絶対に関わりたくない!
独占欲が人一倍強く、それで何度も過去に恋を失ってきた私が今必死に探し求めているもの。
それは……『Dの男』
あの男と真逆の、未経験の人。
少しでも私を好きなら、もう私に構わないで。
私が探しているのはあなたじゃない。
私は誰かの『唯一』になりたいの……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる