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chrysalis
少女は窓辺で微睡んで。
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ーーー。
ーーーー。
ーーーしー。
ーそーーしょ。
あそびましょ。
…?
あ、たし…
アタシ…は…?
うまれたちっちゃなおんなのこ。
いまにもきえそなおんなのこ。
かのじょのいのちにせんれいを。
そのたんじょうにしゅくふくを。
あかんぼうにはななにんのあね。
おみずをくみにみんなでかけっこ。
…ここは?
てを…つないで…
がらすのみずいれひとつきり。
あたしのものだとおおげんか。
ななにんめのてにわたったひょうしに
そこなしいどにぽっちゃんこ。
…まわる。
…まわる。
ねぇ…あたしのてをとる
あなたはだあれ?
みんなびっくり。
おくちあんぐり。
あたふたあたふたちんぷんかんぷん。
みんなのとうさんもうまちかねて。
てを、ーー
はなす。
どうしたの?どうしたの?
あたしたちまるをえがいて
ずっとずうっとくるくるまわるの。
あなたがいなくちゃわたしたち
ちぎれてまっかにばらばらよ?
でも、でも…
「私、行かなくちゃいけないよ。
約束…したんだもの。」
このこ!このこ!わたしって!
ほんとうに?ほんとうに?
ふらふらふらふらひとりきりで?
くすくす。くすくす。
ゆらゆらゆらゆらあかりもなしに?
けらけら。けらけら。
「…ごめんなさい。
私やっぱりこのままは
どうしてもいや。」
……………………………………
……………………………………
……………………………………
……………………………………
だめよだめよだめよだめよだめよだめよだめよ
だめよだめよだめよだめよだめよだめよだめよ
だめよだめよだめよだめよだめよだめよだめよ
だめよだめよだめよだめよだめよだめよだめよ
だめよだめよだめよだめよだめよだめよだめよ
だめよだめよだめよだめよだめよだめよだめよ
「…さよなら。」
暖かい、光が、差し込む。
風に、カーテンが、ゆらゆら揺れる。
この身体をつつむ安堵に、こころを、委ねる。
そうしてゆっくり、瞼をあける。
白塗りの光景。これは、知らない天井。
私、ベッドであおむけでいる…
「あてっ…」
誰かの声。誰かの声。
私の病室、私の空間だから、
1人っきりにしてくれたって…
「いっちち…こんなにおサイホウって
難しかったかなぁ…」
…だれ…か…の、
こ…え…
「…カナ…ちゃん…?」
ガタッ…
椅子から勢いよく立ち上がる音。
彼女が、彼女が。
両手をベッドについて覗き込んでくる。
「気が付いたの?!冴綺りん!
まってて…今ナースさんよんでくるか、ーーー」
溢れる。溢れ出す。
あぁ、そっか…
私って…こんなにナキムシだったんだ…
「カナちゃん…!カナちゃん…!」
「えぇ?!どうしてそんなに泣いて…
何処か痛いところが…お薬のせいとか!
ええっと…ええっとぉ…」
あたふた、あたふた。
頭を抱えて歩き回る彼女。
ホントに…カナちゃんらしいや…
「あぁ!そんな顔クシャクシャにして泣いて!
え、えーと。あった!すぐ泣き止む100の秘伝書!
~いないいないばぁの基本が全て~…
い、いないいない…ばぁっ!」
それ、病室の本棚に置いてあった
子供をあやすための育児書でしょ。
「…ッフ、アッハッハ…!
ハッハッハッハ!」
「な、何よこれ!笑いはするけど
全然泣き止んだりしないじゃん!」
その後、情緒をグッツグツに煮込んだ闇鍋の如き
様相の病室に医療スタッフが駆けつけ…
覚醒後の検診が無事終了した。
病棟の清潔さをたたえた白い横開きのドアを開いて
緋翅水冴綺に割り当てられた室内に入る。
「冴綺りん、ホントにもう歩けるの?
可奈子車椅子押すよ?」
「いいの。リハビリにもなるしね。」
5日も眠ってたんだから無理しないでね。と
再び彼女は椅子について作業に熱を込める。
「カナちゃん、そんなになって何をいじってるの?
ここにいる間、ずうっとしかめっ面よ…」
「そ、そう?ホラ可奈子ってば不器用だから
マネージャーなのにみんな私に気ぃ使って
この手の仕事は回ってこなくって。」
見ると彼女の膝の上にはあの晩、
破れてしまったスカートが。
針を摘む指には絆創膏が彼女の白い肌を
覆い尽くすほどに張り付いていた。
「…ねぇ。カナちゃん、どうして
私なんかのためにそこまでしてくれるの?」
「いいの、いいの!冴綺りんが起きるまで
可奈子ヒマを持て余してたんだから。」
………
うつむく。
私はベッドの上。
最愛の親友が傍で付き添ってくれている。
とても、とても、幸せ。
それでも…
「いいや。あなたにこんな丁寧な献身を
受ける資格なんてない。
私、あなたとの約束を裏切った。
それにあなたほどの優しい人に
許さないとまで言わせたのよ。」
彼女との友情が確かなモノだったのと同様に
彼女との離別もどうしようもなく現実なのだ。
それに。
アノ夜を思い出す。
両の手のひらが震える。
右腕のアザが痛み出す。
鮮烈な悔苦の充満した煉獄。
視界に広がるのが死の積み上がった獄門台なら
どれほど良かっただろう。
アレはまだ生きていた。
縫い付けられた生存の中で絶え間ない
灼熱に身を焼かれ続けていた。
あの絶叫は脈動の証明であり、
あの炎上は生命の発現だった。
そんな、そんな惨苦の蹂躙するアノ夜に。
私は、私は。
通りすがりを名乗る彼女を置いてきた。
全身に伝播した震えを、唯一自由な左手で
自らの右肩を掴み抑え込む。
「そんなこと言ったって、冴綺りん…!」
瞼を閉じ深呼吸。
吐く息にすら漏れ出す不安定さを
呼息運動にて抑え込む。
「…私、あなたに引き止められても、
あんな凄惨な光景を目の当たりにしても、
また踏み入れてしまうだろうから。
親友として結んだ約束を守れない。」
この震えが、怯えが。
アノ夜の出来事全てが現実だったことを物語っている。
もちろんあの煉獄も。
暗闇の淵にいた私を掬い出した慈愛も。
「だから私、あなたの隣にいていいはずがない。
どれだけ誤魔化しても、カナちゃんの心配を裏切っ…」
少女の懺悔は、そこで停止した。
目の前の親友が突然ベッドに上がり込んできたからだ。
「ちょ…カナちゃ、ーーー」
「冴綺りんの…バカッッ!!」
仰向けの私に馬乗りになり、
拳をその胸に振り下ろす。
ポカッ
戸惑う私のことなど気に留めない様子で
華奢な両手で胸を叩き続ける。
ポカッ
ポカッ
ポカッ
…その。こんな事言うべきではないかもだけど。
私の腫れ上がった右腕でだって
カナちゃんより強く殴れると思うの…
「バカッッ、バカッッ、バカッッ!!
すぐそんなこと言って!すぐ可奈子を置いて行って!」
………
「可奈子が冴綺りんと親友辞めるわけないでしょ!」
「で、でもあなた私のこと許さないって、ーーー」
「ワカンナイよ!可奈子ってバカなんだもん!
いっつもみんなに助けてもらってばっかだし、
テンサチだって42点らしいし!」
偏差値のことかな?
「でも、でも…!
冴綺りんの見てるものが何か
ワカンナクなっちゃったって…!
冴綺りんが可奈子の心配振り切って
危ないところに行こうとしてたって…
可奈子のこと置いていくって…!
あなたとは親友続けられないなんて謝らないでよ…!
そんな辛そうに頼まれたって…
可奈子、冴綺りんとゼッコーなんて、
ゼッタイゼッタイ、ゼーッタイっ…
許してなんて…あげないんだから!」
「へ…?ユルさないってそういう…?
で、でもカナちゃんの最後のあの目は…」
「でも、じゃないの!」
「あ、あんな冷ややかな目ぇ向けといて…!」
「そ、そりゃあ…ヤッキになって?
ちょっと冴綺りんにイジワルしたくなって…
ソレもコレも、冴綺りんが悪いんだかんね!」
え…じゃああれが…
あんなものが…演技…?
一瞬、否10秒ほどの硬直。
緋翅水冴綺は呆然として、
「…ねぇ?…冴綺りん?」
「…あなた、女優で食っていけるわよ。
ホント。実際マジで。」
ちょっと…呆れちゃったかも…
俯いて苦笑。
一方大女優さんは此方の気も知らず
えっ、そ、そうかなぁ…なんて
頬を赤らめている。
………
………
………
「ねぇ、カナちゃん。」
「なぁに?冴綺りん。」
「私、もう取りこぼさない。
大切な結束を。失った色彩も。
だから…もう少し。
もう少しだけ、危なっかしい友人を
近くでいて、見守っていてほしいの。」
「…バカ。もうユルさないって
可奈子、何度も言ってるじゃない。」
そう言って。
彼女は優しく、こんな人でなしに。
涙を目一杯讃えて、微笑んだ。
ぐうぅうう…
体の奥からぐぐもった音。
私?彼女?
或いはその両方だったかも。
彼女が、笑いながら涙を拭う。
「ははっ、冴綺りん5日も何も
食べてないんだから何か口に入れないとぉ。」
実のトコロ…6日分抜いてるの…
「可奈子、何か買ってくるね!
此処のキャンディバー
病院の品揃えなのに結構美味しいのよ!」
そう言ってカナちゃんは病室を後にした。
珠木可奈子が軽い足取りで
清潔な白のドアを出てくる。
学校終わりに毎日面会時間終了まで。
彼女はすっかり第二居住区病棟の構造を
把握していた。
購買部のある方を向く。
すると、目の前に
壁に体を預けた白シャツの
女性が俯いている。
可奈子は病棟の質素さの中に
上手く馴染めない美しさを放つ
彼女に駆け寄った。
「その、ありがとうございます!
家族以外面会謝絶のところ、
ナースの方々に口利きして頂いて。
冴綺…じゃない、水冴綺ちゃんも
今ではすっかり元気そうです!
お母さんも、顔覗きにいってあげてください!」
「あ…えぇ、かまわないわ。
こちらこそその、娘のためにありがとうね。」
失礼しました!と一礼。
駆け足禁止の廊下を走り去っていく。
ため息。
とりあえず、無事…なのね。
それにしても。
「水冴綺。イイ友達、居るじゃないの。」
なら、私の出る幕はないわね。
立ち去る。
可奈子の走り去るその反対へ。
ヒールの甲高い音が、遠ざかっていった。
~緋翅水冴綺の運命の歯車は廻り出した。
混迷の渦、不確かな実存、逸る脈動。
でも、それでも、今だけは。
物語の黎明と対極の薄暮の中。
少女は、窓辺に微睡んで。~
ーーーー。
ーーーしー。
ーそーーしょ。
あそびましょ。
…?
あ、たし…
アタシ…は…?
うまれたちっちゃなおんなのこ。
いまにもきえそなおんなのこ。
かのじょのいのちにせんれいを。
そのたんじょうにしゅくふくを。
あかんぼうにはななにんのあね。
おみずをくみにみんなでかけっこ。
…ここは?
てを…つないで…
がらすのみずいれひとつきり。
あたしのものだとおおげんか。
ななにんめのてにわたったひょうしに
そこなしいどにぽっちゃんこ。
…まわる。
…まわる。
ねぇ…あたしのてをとる
あなたはだあれ?
みんなびっくり。
おくちあんぐり。
あたふたあたふたちんぷんかんぷん。
みんなのとうさんもうまちかねて。
てを、ーー
はなす。
どうしたの?どうしたの?
あたしたちまるをえがいて
ずっとずうっとくるくるまわるの。
あなたがいなくちゃわたしたち
ちぎれてまっかにばらばらよ?
でも、でも…
「私、行かなくちゃいけないよ。
約束…したんだもの。」
このこ!このこ!わたしって!
ほんとうに?ほんとうに?
ふらふらふらふらひとりきりで?
くすくす。くすくす。
ゆらゆらゆらゆらあかりもなしに?
けらけら。けらけら。
「…ごめんなさい。
私やっぱりこのままは
どうしてもいや。」
……………………………………
……………………………………
……………………………………
……………………………………
だめよだめよだめよだめよだめよだめよだめよ
だめよだめよだめよだめよだめよだめよだめよ
だめよだめよだめよだめよだめよだめよだめよ
だめよだめよだめよだめよだめよだめよだめよ
だめよだめよだめよだめよだめよだめよだめよ
だめよだめよだめよだめよだめよだめよだめよ
「…さよなら。」
暖かい、光が、差し込む。
風に、カーテンが、ゆらゆら揺れる。
この身体をつつむ安堵に、こころを、委ねる。
そうしてゆっくり、瞼をあける。
白塗りの光景。これは、知らない天井。
私、ベッドであおむけでいる…
「あてっ…」
誰かの声。誰かの声。
私の病室、私の空間だから、
1人っきりにしてくれたって…
「いっちち…こんなにおサイホウって
難しかったかなぁ…」
…だれ…か…の、
こ…え…
「…カナ…ちゃん…?」
ガタッ…
椅子から勢いよく立ち上がる音。
彼女が、彼女が。
両手をベッドについて覗き込んでくる。
「気が付いたの?!冴綺りん!
まってて…今ナースさんよんでくるか、ーーー」
溢れる。溢れ出す。
あぁ、そっか…
私って…こんなにナキムシだったんだ…
「カナちゃん…!カナちゃん…!」
「えぇ?!どうしてそんなに泣いて…
何処か痛いところが…お薬のせいとか!
ええっと…ええっとぉ…」
あたふた、あたふた。
頭を抱えて歩き回る彼女。
ホントに…カナちゃんらしいや…
「あぁ!そんな顔クシャクシャにして泣いて!
え、えーと。あった!すぐ泣き止む100の秘伝書!
~いないいないばぁの基本が全て~…
い、いないいない…ばぁっ!」
それ、病室の本棚に置いてあった
子供をあやすための育児書でしょ。
「…ッフ、アッハッハ…!
ハッハッハッハ!」
「な、何よこれ!笑いはするけど
全然泣き止んだりしないじゃん!」
その後、情緒をグッツグツに煮込んだ闇鍋の如き
様相の病室に医療スタッフが駆けつけ…
覚醒後の検診が無事終了した。
病棟の清潔さをたたえた白い横開きのドアを開いて
緋翅水冴綺に割り当てられた室内に入る。
「冴綺りん、ホントにもう歩けるの?
可奈子車椅子押すよ?」
「いいの。リハビリにもなるしね。」
5日も眠ってたんだから無理しないでね。と
再び彼女は椅子について作業に熱を込める。
「カナちゃん、そんなになって何をいじってるの?
ここにいる間、ずうっとしかめっ面よ…」
「そ、そう?ホラ可奈子ってば不器用だから
マネージャーなのにみんな私に気ぃ使って
この手の仕事は回ってこなくって。」
見ると彼女の膝の上にはあの晩、
破れてしまったスカートが。
針を摘む指には絆創膏が彼女の白い肌を
覆い尽くすほどに張り付いていた。
「…ねぇ。カナちゃん、どうして
私なんかのためにそこまでしてくれるの?」
「いいの、いいの!冴綺りんが起きるまで
可奈子ヒマを持て余してたんだから。」
………
うつむく。
私はベッドの上。
最愛の親友が傍で付き添ってくれている。
とても、とても、幸せ。
それでも…
「いいや。あなたにこんな丁寧な献身を
受ける資格なんてない。
私、あなたとの約束を裏切った。
それにあなたほどの優しい人に
許さないとまで言わせたのよ。」
彼女との友情が確かなモノだったのと同様に
彼女との離別もどうしようもなく現実なのだ。
それに。
アノ夜を思い出す。
両の手のひらが震える。
右腕のアザが痛み出す。
鮮烈な悔苦の充満した煉獄。
視界に広がるのが死の積み上がった獄門台なら
どれほど良かっただろう。
アレはまだ生きていた。
縫い付けられた生存の中で絶え間ない
灼熱に身を焼かれ続けていた。
あの絶叫は脈動の証明であり、
あの炎上は生命の発現だった。
そんな、そんな惨苦の蹂躙するアノ夜に。
私は、私は。
通りすがりを名乗る彼女を置いてきた。
全身に伝播した震えを、唯一自由な左手で
自らの右肩を掴み抑え込む。
「そんなこと言ったって、冴綺りん…!」
瞼を閉じ深呼吸。
吐く息にすら漏れ出す不安定さを
呼息運動にて抑え込む。
「…私、あなたに引き止められても、
あんな凄惨な光景を目の当たりにしても、
また踏み入れてしまうだろうから。
親友として結んだ約束を守れない。」
この震えが、怯えが。
アノ夜の出来事全てが現実だったことを物語っている。
もちろんあの煉獄も。
暗闇の淵にいた私を掬い出した慈愛も。
「だから私、あなたの隣にいていいはずがない。
どれだけ誤魔化しても、カナちゃんの心配を裏切っ…」
少女の懺悔は、そこで停止した。
目の前の親友が突然ベッドに上がり込んできたからだ。
「ちょ…カナちゃ、ーーー」
「冴綺りんの…バカッッ!!」
仰向けの私に馬乗りになり、
拳をその胸に振り下ろす。
ポカッ
戸惑う私のことなど気に留めない様子で
華奢な両手で胸を叩き続ける。
ポカッ
ポカッ
ポカッ
…その。こんな事言うべきではないかもだけど。
私の腫れ上がった右腕でだって
カナちゃんより強く殴れると思うの…
「バカッッ、バカッッ、バカッッ!!
すぐそんなこと言って!すぐ可奈子を置いて行って!」
………
「可奈子が冴綺りんと親友辞めるわけないでしょ!」
「で、でもあなた私のこと許さないって、ーーー」
「ワカンナイよ!可奈子ってバカなんだもん!
いっつもみんなに助けてもらってばっかだし、
テンサチだって42点らしいし!」
偏差値のことかな?
「でも、でも…!
冴綺りんの見てるものが何か
ワカンナクなっちゃったって…!
冴綺りんが可奈子の心配振り切って
危ないところに行こうとしてたって…
可奈子のこと置いていくって…!
あなたとは親友続けられないなんて謝らないでよ…!
そんな辛そうに頼まれたって…
可奈子、冴綺りんとゼッコーなんて、
ゼッタイゼッタイ、ゼーッタイっ…
許してなんて…あげないんだから!」
「へ…?ユルさないってそういう…?
で、でもカナちゃんの最後のあの目は…」
「でも、じゃないの!」
「あ、あんな冷ややかな目ぇ向けといて…!」
「そ、そりゃあ…ヤッキになって?
ちょっと冴綺りんにイジワルしたくなって…
ソレもコレも、冴綺りんが悪いんだかんね!」
え…じゃああれが…
あんなものが…演技…?
一瞬、否10秒ほどの硬直。
緋翅水冴綺は呆然として、
「…ねぇ?…冴綺りん?」
「…あなた、女優で食っていけるわよ。
ホント。実際マジで。」
ちょっと…呆れちゃったかも…
俯いて苦笑。
一方大女優さんは此方の気も知らず
えっ、そ、そうかなぁ…なんて
頬を赤らめている。
………
………
………
「ねぇ、カナちゃん。」
「なぁに?冴綺りん。」
「私、もう取りこぼさない。
大切な結束を。失った色彩も。
だから…もう少し。
もう少しだけ、危なっかしい友人を
近くでいて、見守っていてほしいの。」
「…バカ。もうユルさないって
可奈子、何度も言ってるじゃない。」
そう言って。
彼女は優しく、こんな人でなしに。
涙を目一杯讃えて、微笑んだ。
ぐうぅうう…
体の奥からぐぐもった音。
私?彼女?
或いはその両方だったかも。
彼女が、笑いながら涙を拭う。
「ははっ、冴綺りん5日も何も
食べてないんだから何か口に入れないとぉ。」
実のトコロ…6日分抜いてるの…
「可奈子、何か買ってくるね!
此処のキャンディバー
病院の品揃えなのに結構美味しいのよ!」
そう言ってカナちゃんは病室を後にした。
珠木可奈子が軽い足取りで
清潔な白のドアを出てくる。
学校終わりに毎日面会時間終了まで。
彼女はすっかり第二居住区病棟の構造を
把握していた。
購買部のある方を向く。
すると、目の前に
壁に体を預けた白シャツの
女性が俯いている。
可奈子は病棟の質素さの中に
上手く馴染めない美しさを放つ
彼女に駆け寄った。
「その、ありがとうございます!
家族以外面会謝絶のところ、
ナースの方々に口利きして頂いて。
冴綺…じゃない、水冴綺ちゃんも
今ではすっかり元気そうです!
お母さんも、顔覗きにいってあげてください!」
「あ…えぇ、かまわないわ。
こちらこそその、娘のためにありがとうね。」
失礼しました!と一礼。
駆け足禁止の廊下を走り去っていく。
ため息。
とりあえず、無事…なのね。
それにしても。
「水冴綺。イイ友達、居るじゃないの。」
なら、私の出る幕はないわね。
立ち去る。
可奈子の走り去るその反対へ。
ヒールの甲高い音が、遠ざかっていった。
~緋翅水冴綺の運命の歯車は廻り出した。
混迷の渦、不確かな実存、逸る脈動。
でも、それでも、今だけは。
物語の黎明と対極の薄暮の中。
少女は、窓辺に微睡んで。~
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