papillon

乙太郎

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chrysalis

2章

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「ミサキチャンはだいったいコイツを
見ると顔をしかめるけどさぁ」

ハンドルを指で3度tap。機嫌が良さそうに
交差点をまがる。

「こうして乗るとコレはコレでまた
いいとこあるだろ?」

そう言って男、村岡むらおか辰二たつじは此方に視線をやる。

探偵。それも公的機関に認められた
正規のもんじゃない。
ハイエナの様に街に巣食うバンデッド。
まず「好み」の蒐集に日々熱心な女子高生は
こんな胡散臭い男とは面識を持たないだろう。

わざわざこんな男と連んでいるのは、
私とこの男が雇用主と従業員の関係だからだ。
まぁ、その事は未だ誰にも
公言していないのだけれど。

「…余所見なんてしてないで。こんなオンボロに
自動運転なんてついてないでしょう。」

ヒュウと口笛を吹いてみせて苦笑する村岡。

「ツレないねぇ。第一よぉミサキチャン、
居住区からバス乗って幹線道路で学校行こうと
してたんだろ?ははッ、面倒くせぇったら
ありゃしない。そんならこうやって!」

道路に飛び出してくる浮浪者を交わして
またハンドルをきる。

「廃棄区画突っ切って真っ直ぐ行った方が
よっぽど近いんだからさぁ。」

…冗談じゃない。

いつ死んでも誰も困らない自称探偵と違って
此方はいたいけな女子高生なのだ。
中央通りならまだしも、外れに点在するような
法の目をかいくぐった危険地帯に1人取り残されては
とても五体満足で此処を出られないだろう。

緋翅ひばね水冴綺みさき、18歳。
運動も学問もそつなくこなせるが、
人に誇れる長所なんて一つだってない。
カウンターカルチャー筆頭の音楽や演劇かき集めて
「ワタシだけのプレイリスト」を公開することが
模範的JKの流行りだなんてメディアが語っていたが
そんなのは他所様のセオリーだ。

「別にダンマリ決め込まなくたって
いいんじゃあないか。春も盛りの娘っ子が
愛想の一つもないんじゃ寂しいだろう?
俺の方は今日はちょっと違うことが
在ったなんてワクワクしてるんだぜ?」
「…そうね。私の方としては
なんて爽やかな期待は
今朝の内に裏切られてしまった訳なんだけど」

不安定な路面の揺れで酔いを感じ始めながら
そんなことを話している内に陰湿で
今にも崩れそうなビル街を抜けて
商業区域への整備された道が見えて来た。

おいおいもうついちまうよ。
せっかく若い娘とのドライブだったってのに。
なんてぼやきながら車は正門前で止まった。
重要文化財並みのアンティークだからだろう。
校舎の窓から段々視線が集まってきたので
早々に車を後にすることにした。

「あぁそれと!ミサキチャン!」

村岡が呼び止める。

「なんでしょう?
ああ、送迎ありがとうございます。」

振り返って仰々しく丁寧な挨拶。

「いやぁな、また依頼が立て込んできたもんで
明日辺り時間空けといてくれや。
「書類整理」よろしく頼むぜ。
いつもの「ライム」で集合な。」

「わかりました。」

踵を返す。

「そんでもって!そのやたらごていネェな挨拶!
やめとけ、キツくてしょうがねえ!」

今度は振り返らず、背中で隠して
余計なアドバイスに、思いつく一通りの
ハンドシグナルをお見舞いしてやる。

切り替え。
いつもの当たり障りのない一般生徒。
赤の他人の平静さで
そのまま足速に校舎に入っていった。




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