六畳半のフランケン

乙太郎

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彼女はフランケンシュタイン

ドライブ。彼女の好きなあの場所へ。

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プップー!
鼓膜を突き刺す後続車のクラクション。
僕、蒼ヶ峰あおがみねさとるはその音に思わずハッとする。

…あぁ。見れば信号が青じゃないか。

助手席では百合音ゆりねが眠りについている。
ゆっくりとアクセルを踏み、車を始動。

これは数少ない僕の拘り。
というのもペーパードライバーから
ベテランを名乗るに当たって自動車の運転には
難なくこなせていなくてはならない
ポイントが存在するというのが
よく仲間内に言って聞かせる持論なのだ。

それはスムーズなアクセルとブレーキ。
一般道だろうが高速道路だろうがいくらスピードを
出していたとしても、その緩急が安定していれば
その運転はヘタと評価されることはない。
カンジンカナメはその乗り始め。
アクセルを踏む加速度のつきはじめ、
ブレーキを効かせた減速のタイミングこそ
ドライバーの実力が評価されるものだ。

ほんの車一台のペースの乱れが交通渋滞に
繋がるという研究結果を読んだことはあるが、
この主張のメインはそこじゃあない。
単純に緩急の激しい運転は乗り心地が悪いのである。

急なアクセル、急なブレーキ。
玉突き事故といったリスクを二の次にするというのは
余り誉められたことではないのかも。
しかしながら同乗者を不安にさせる運転というのは
とても度し難いと僕は思う。
これから行うイベント、その過程で、
身の危険を感じさせるようなマネをしては
1日を十分に楽しめなくなってしまうからだ。

実際に百合音はお世辞にも運転が上手いとは言えず
危なかっしいソレを制止して運転手を代わっては

聡君の運転は私なんかとちがって
本当に上手だねぇ。

と少し顔を赤らめながら笑っていた。


住宅街のカーブを曲がり目当ての場所まで
あと少しというところ、
ゴツンと鈍い音がなって慌てて車を路肩に止める。

曲がった時の慣性で彼女の姿勢が崩れ、
窓ガラスに頭をぶつけてしまったようだ。
傾いた彼女の重心を整え
頭の位置を、少し倒した座席の
ヘッドレストに合わせる。

…少し、首まわりの動きが…鈍い…

力を入れすぎないよう、筋を違えないよう、
慎重に動かす。

一連の動作を終え、
ハザードを消し再び車を走らせる。

…背中に冷たい汗が流れる。
その冷気は脊髄に滲み込み、
対照的に上気して火照った体は、
朦朧とした意識を彼方に攫っていくようだ。

もし、もしこのまま。
この押し寄せる昏迷の波動に精神を委ねたのなら、
僕は彼女と同じ場所へ向かえるのだろうか。

馬鹿な考えを頭を振って強引に振り払う。

そもそも、やるべきと決意したことがあって
こうして車を走らせているんじゃないか。

「…あと少しなんだ。
待っててくれよな、百合音。」

返事も帰ってこないまま、ただ静かに
目的地へと車を走らせた。









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