魔王の王国

杉原

文字の大きさ
上 下
5 / 21

4

しおりを挟む
セピアは何故かバラが咲きみだれる庭園に立っていた。
自分の体を見ると、騎士団にいた頃の制服を着ていた。

「セピアー」

呼ばれて振り向くと、銀の髪、煌びやかな白い服を身にまとった美しい青年が手を振りながら近づいてきた。

「第二王子殿下」

第二王子はニコリと微笑む。

「一緒に茶でもどうだ」

王子の頼みを断れる訳もなく、セピアと第二王子は庭園の中央のガーデンチェアに座った。

「第二王子殿下……俺は……」

メイドが持ってきてくれた紅茶の液面には、少し若い自分が映っていた。

「そうだ……俺はあなたの仇をとらないと……」
「………………」

顔を上げると、首がない第二王子がこっちを向いていた。





酷い寝汗で目を覚ますと、ジョンがセピアを見下ろしていた。

「えらくうなされてたな?」
「そういう時は起こしてくれ……」

2人で昨日の飯屋で軽く朝食を済ませ、また旅路に戻る。
2頭の馬は利口に街の外で主人たちを待っていた。
昨日とは少し変わり、道中で取り留めのない話をしたりもした。

途中、明らかに道が変わった。
今まで青い草原が広がっていたのに、北へ向かう度緑は無くなっていき、植物ひとつない枯れた大地に変わっていく。
天気も青空だったはずだが、いつしか暗雲が立ち込めていた。
やがてゴツゴツした岩ばかりの道になり、馬で進むことは困難だと判断し、徒歩で向かうことになった。

「変じゃないか?」

セピアが呟くと、隣を歩いていたジョンがセピアを横目で見る。

「かなり北に来たのに、魔物と遭遇すらしていない」

ジョンはしばらく押し黙ったのちに答えた。

「たしかに変だとは思うよ……思うけど、俺たちは進むしかない、もし俺たちが捨て駒だとしても」

捨て駒……その言葉のせいか寒さのせいか、セピアは背筋がこわばるような気がした。
突然、大きなモヤが来たからセピア達に向かってきた。
あれは………モヤでは無い?
近づいてきたそれは、虫……黒い蝶の大軍だった。
ジョンが悲鳴をあげる。

「わっ!気持ち悪!」
「そんなこと言ってる場合かよ!」

蝶が光を受けて赤く反射する。
ジョンが何かを叫ぶ。
いつの間にかジョンは大きな杖を持っていた。

ジョンが何かを叫ぶと、こちらへ向かっていた蝶の動きが止まった。

再びジョンが聞き取れない発音で何かを叫ぶと、固まっていた何羽もの蝶が爆散した。

「うッ!?」

ほとんどの蝶が粉々になったが、生き延びた数匹がジョンに飛びかかった。
蝶はまるで鋭利なナイフのように、その羽でジョンの腕を切り裂いた。
急いでセピアが蝶を追い払うと、蝶たちは再び北へ飛んで行った。

「今のは……魔法か」
「…………」

ジョンは腕を抑えており、その間から血が滴っている。

「大丈夫か」
「ああ…………いてえ」

たかが蝶だと油断した。
ジョンを怪我させてしまうとは……。
俯いて震えるジョンの腕を引いて、修道服の袖をまくると、ぱっくりと開いた傷から血がとろとろと流れていた。

セピアは腰にくっつけていたポーチから包帯を取り出し、ジョンの腕にきつく巻いた。

「痛えよ」
「悪い」
「少し休むか?」
「いや……もうじき極北だ、進むぞ」

警戒しながら、荒んだ道を進む。
ジョンは怪我のせいか口数が減ってしまった。
やがて、明らかにヤバそうな吊り橋が2人の前に立ちはだかった。

2本のロープで支えられているその木製の橋は、北風でゆらゆらと揺れている。
下を覗き込んだら濁った水がごうごうと流れている。

「…………どうする」
「…………行くしかないだろう」

天候は悪化し初め、雪が降り始めていた。
引き返し、迂回ルートを探すのは困難だ。
ジョンがセピアの手を握った。
セピアもその手を握り返し、ゆっくりと橋を渡り始める。
2人が歩く度、吊り橋はギコギコと嫌な音を立てた。

「セ、セピア…………」

ジョンの声が震え、セピアの手を握る力が強くなる。
ジョンが青ざめた顔で前方を指さしていた。
吊り橋を支えているロープが、今にもちぎれようとしていた。
まさか、この橋自体罠だったのだろうか、極北に簡単に入れると思っていた自分が馬鹿だったのかもしれない。

「ジョン、掴まれ!」

ジョンが両手でセピアにしがみつくと、遂にロープはちぎれ、橋は瓦礫のように崩壊した。
2人はくっついたまま、濁流へと飲み込まれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...