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127話~展開~
しおりを挟むその突然現れた扉は、音ひとつ立てる事もなく左右に開いたかと思うと、奥の空間への招待状を表示した。
「僕、入ってもいいの?」
希望は、子供らしいおずおずとして声でそう大和に尋ねると、顔色を伺うかの様に、不安そうな顔つきをした。
「あぁもう腹は括っているさ、逆に、色々を希望には知っておいてもらうのも悪くはない」
大和は、優しく微笑んでみせると、早速自らが扉を潜り、吸い込まれるかの様に、向こう側の空間へと溶けていった。
希望はその父親の後ろ姿を見失わない様に、急いで自分も後を追いかけた。
*
真琴は、右手に受けた血の塊を暫く見つめた後、その処理を早々に済ませ、その場にすくりと立ち上がった。
「時間がないわ………」
真琴はそう独り言を寂しく呟くと、通信室へと辿々しい足取りで向かい始めた。
思えば……ここ最近はずっと、大和を壁越しに見つめるという、異常な空間で時を過ごしていて、歩くという作業さえおざなりになっていた。
「身体能力の衰えって、容赦ないのね……それとも、もう私の身体はそれだけ壊れてしまっているって事なのかしら……」
真琴は歩みを止めて、通信室に向かう廊下の壁にもたれながら、大きく息を吐いた。
そして右手を握りしめ、胸の上へと押し当てた。
右手から伝わる圧力は、自分はまだ生きているという事を自覚させた。
「お姉ちゃん…………」
真琴は、涙声で沙羅の事をすがる様にそう呼ぶと
目の前の窓に視線を向けた。
そこには、綺麗な瑠璃色の星【地球】が、普遍的な存在として浮かんでいた。
*
「ここが……ターミナルなの?」
扉の向こう側の、そのターミナルと呼ばれる場所に立ちすくみながら、周囲をキョロキョロと見渡した希望は、それ以上の言葉を発する事が出来なくなっていた。
それほどに、隠し部屋とは比較できない程の巨大な空間が、そして施設がそこにはあったのだった。
「ここ……一体どうなってるの?お父さん……」
希望は、目の前の巨大な白い玉子型の機体を見上げながら父親に尋ねた。
「希望が見上げてるその機体が、最近本格的に改良した試作1号。思ってたよりも大きいだろ?」
大和はそう言うと、自分のみ無重力になる
何かを作動させて、空間に浮かび上がるとその玉子型の機体の窓を軽快に開けて中へと吸い込まれて行った。
「お!お父さん!!!!」
希望は心配そうに機体に駆け寄ると、その入口であろう窓を見上げた。
ザザザ………
希望の脳内にノイズが走ったと同時に、大和の声が響き渡り始めた。
「心を解いてくれたみたいだな、希望、聞こえる?これがつまり……小惑星の衝突を止める機体になるはずなんだ……」
希望は、姿は見えずとも脳内に響き渡る父親の声をに静かに耳を傾けた。
「僕も機体に乗ってみたいな……」
希望はそう呟くと、その白色のボディに右手を触れた。ひんやりとしたその質感に、ザワザワとした、それでいてワクワクとした複雑な感情が、身体の中心から沸き起こるのを感じ始めていた。
「俺の所まで来てくれてかまわないよ、さぁここまで飛んでごらん?」
大和の優しい声が聞こえると同時に、希望はゆっくりと両目を閉じた。
その瞬間、その場から希望の姿は消えた。
*
「あぁ~~満足!満足!!」
ベイは膨れたお腹を2回、軽快に叩いてみせると、満足そうに満面の笑顔をしてみせた。
「そりゃあそれだけ食べたらそうでしょう。しかし、見事に平らげましたね」
ワッカが、デリバリーの後片付けをしながら、遥と李留に同意を求める様にそう言うと、2人は全くだと言わんばかりに、大きく頷いてみせた。
「ところで、希望は大丈夫かしら。あれからかなり時間経ってるけど……私、少しホワイトに食事を取らせたいとお願いしてくるわ」
遥が、ベイの食欲から守りきった、希望の分の食事をお皿に移しかえながらそう言った。すると、ワッカが蓋つきの容器をどこからか持ってやってきた。
「この容器に入れて持っていってあげましょう。レッスンが中断出来なかったらいけませんし」
「それもそうね。ワッカの気配りには本当に頭が下がるわ」
遥は、容器をワッカから受けとると、早速そこに色々と詰め始めた。色とりどりの美味しそうなご馳走が、容器の中で、ひとつの絵画が描かれていく様におさめられていった。
「じゃあ私今からホワイトの所に希望の食事を届けに行ってくるわ」
遥は、容器を両手で抱えながら立ち上がると目の前に李留が立ちはだかった。
「あ、あの!僕が持っていってきます!」
「いいわ、李留君は休んでて?私が持って行ってくるから」
「僕に持って行かせて下さい!!」
「どうしたの?李留君……なんだかおかしいわよ?」
遥が李留の様子に不信感を抱き始めたその瞬間、ベイが李留の背中から飛びつく様に、両手で羽交い締めにし始めた。
「いてて……な、何するんですか!ベイさん!」
「遥の役に立ちたいだけだよなぁ?正直に言えるわけないもんなぁ?」
ベイが不適な笑みを浮かべながらそう言うと、その言葉の意味を理解した遥が顔を真っ赤にして、無言で容器を李留に押し付ける様に渡すと、くるりと背中を向けた。
「いや……遥さん、違うんです!」
李留が慌てて言葉をかけようとすると、更にベイは背後から李留の口を、自分の右手で塞ぎ始めた。
「李留君~いいからいいから~、さぁ早く持っていってあげてよ。遥のた・め・に」
ベイは李留の右耳にそう囁くと、李里の身体からパッと離れて目の前に立つと、ウインクしてみせた。
李留は、この予想外な展開にしどろもどろになりながらも、希望との約束は果たせる事になった事には、ベイに感謝しつつ、でも腑に落ちない複雑な感情を抱えながら、顔を真っ赤にして部屋を小走りで出ていった。
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