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118話~oh my God~
しおりを挟む希望は、どうしていいかわからなかった。
この、不思議な世界が夢ならどれだけいいだろう、そう思った。
自分は、父・大和によって人為的に作られた存在だ。
でもこの長の話なら、その人為的な存在も平等に器であり、そこにはソウルが注入されるという。
母親から産まれ落ちる存在と、分け隔てなく。
「知るって、とても残酷なんだね……」
希望はポツリと、背格好がまさに自分とコピーしたかの様な、目の前の長に向かってそう言った。
「そう?逆に、救済でもあるとボクは思っているよ」
長の言葉の意味も理解は出来た。どうしても悲観的に考えてしまうのは、クローンとして生まれたくはなかったという、自分への哀愁であり、そして苛立ちなのかもしれない。
「もっとさぁ、頭は柔らかい方が楽ちんだよ?そんな思考回路だと、壊れちゃうよ?」
長はそう言い放つと、何処かに向かって歩きだした。そして振り返ると、希望に向かって此方に来る様に手招きをしてみせた。
逃げ場のない石造りの塔のてっぺんで、希望は諦めの境地で、長の後を着いて行く事にした。
暫く歩いて行くと、目の前に数段の階段が見えてきた。降りた先のスペースの中央には、大きな石造りのテーブルがあった。椅子も石で出来ていて、何故か背もたれはなく、到底座りやすい印象は与えなかった。
すると、自分と歳の変わらない少女が、そのひとつの椅子に座っている事に気づいた。
「あ………は、はじめまして」
希望は緊張しながら、その少女に挨拶すると、長がその少女の横の椅子に座り、希望にも座る様に促した。
「希望、これが誰だかわかる?」
長はにっこり微笑むと、テーブルに両手で頬杖をつきながら首を傾けた。
「知らないよ、会った事ないもん」
「確かに。えっとこの人はね、真琴だよ」
「真琴ちゃん???」
「正しくは、真琴のソウルね」
話を黙って聞いていたその少女は、静かに希望に向かって微笑みかけた。
「真琴ちゃんはじゃあ、今、月で眠ってるんだね」
「こんなややこしい話なのに、希望はやっぱり飲み込みが早いね。そう、真琴のソウルが故郷に戻ってきてる、つまり月での真琴は眠ってるはずだよ」
「そっか…………」
希望は少しほっとした。
眠っているという事は、コンタクトが取れなくなっている現在の月の状況下の中で、真琴は亡くなってはいないという事だったからだった。
それにしても、長は一体何がしたいのだろう。
故郷というこの場所、ソウルの循環、自分なりに理解は出来た。そしてそれは知らなくてもいい事の様な気がした。
「そう、知らない方が幸せな事ってあるよね」
希望の心を読んだ様に、そういきなり発言した長に、希望は警戒の表情をみせた。
「こころを読んだの?ぼくのこころ」
「読むじゃない。同じだから、勝手に伝わるんだよ」
「伝わる………」
希望は右手を自分の胸に当てて、考え込んだ。
シンプルな仕組みでありながら、とても難解なパズルの様に感じた。
「長、時間がないわ」
突然、真琴のソウルという少女が口を開くと、
長を急かし始め、テーブルの上に一枚の地図をひろげ始めた。
「ちょっと打ち合わせがあるから、希望は眺めていてよ」
長はそう希望に伝えると、何やら少女と相談を始めた。希望はその光景を理解しようとしたものの、内容をさっぱり理解する事は出来なかった。
「じゃあ、その道でお願いね」
相談が終わったらしく、少女はそう言って席を立つと、無機質な空に向かって、両手をひろげ仰ぎ始めた。
「何、あれ…………」
希望が思わずそう呟いた視線の先に、長の羽等、可愛いと思える程の、巨大な白い羽を2枚生やした巨大な女性の存在が現れた。
面食らっている希望にお構いなしに、少女はその巨大な白き羽の存在に何やらを送り始め、そしてそれが終わるとその存在はゆっくりと空から消えていった。
「今のって………」
希望が畏怖の感情に包まれながら、長に尋ねると
「あれが真琴の本体だよ。でかいでしょ??ボクちゃんちょっとあの存在は苦手なんだけど、まぁ契約だから仕方ないんだ」
「本体………僕の本体が長と同じ理屈?」
「そうだよ、さて真琴のソウルが月に戻るみたいだ」
見ると少女は、その塔のてっぺんの端へ
弾む様に歩いて行く所だった。
「月にって、一体どうやって?」
希望の中に素朴な疑問が沸き上がった。
と、同時にその少女の姿が床に吸い込まれる様に、目の前から姿を消した。
「え!!!!!」
希望はいきなり消えた少女の痕跡を探るべく
その場所へ駆けて行った。
「穴がある…………」
少女が消えた場所には、人がひとりはまるかはまらないかぐらいの丸い穴が開いていて、そこを覗くと筒状のそれが、下に繋がっているのが理解出来た。
「滑り台みたいでしょ?びゅ~んってさ」
長はニコニコしながら、希望にそう言うと
「さぁ次は君の番だよ」と言って、どうぞという仕草をしてみせた。
「ここを降りたら?つまり、眠ってる僕が目覚めるの?」
「そういう事、さぁ早くここから器に戻ってよ。記憶はわざと、消さないでおくからさ」
この場所
故郷には自分の本体がいて、その一部が肉体の器に注入され、今を生きている。
そして、"こころ"を持ち帰っては、毎日アップテードがさるのは理解が出来た。
それが循環
それは納得が出来たけれど、新たな疑問が沢山出来たのも、また事実だった。
「僕にはまだ少ししか理解出来ていないけど、いつか色々が解るようになるのかな」
長はコクリと頷くと、「さぁ早く戻って、時間がないよ」と急かし始めた。
「最後に長!おかあさんには会えない??ここなら会えるんでしょ?」
「沙羅の本体?ママンはここにいるから会えるよ。ただ……」
「ただ?」
「破天荒ですぐ何処かに行っちゃうんだ。だからまたの機会にして?」
「破天荒…………」
「さぁ、早く!!!」
希望は複雑な心境になりながらも、その丸くあいた穴に向かって、ダイブした。
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