MOON~双子姉妹~

なにわしぶ子

文字の大きさ
上 下
118 / 130

118話~oh my God~

しおりを挟む


希望は、どうしていいかわからなかった。
この、不思議な世界が夢ならどれだけいいだろう、そう思った。

自分は、父・大和によって人為的に作られた存在だ。

でもこの長の話なら、その人為的な存在も平等に器であり、そこにはソウルが注入されるという。

母親から産まれ落ちる存在と、分け隔てなく。

「知るって、とても残酷なんだね……」

希望はポツリと、背格好がまさに自分とコピーしたかの様な、目の前の長に向かってそう言った。

「そう?逆に、救済でもあるとボクは思っているよ」

長の言葉の意味も理解は出来た。どうしても悲観的に考えてしまうのは、クローンとして生まれたくはなかったという、自分への哀愁であり、そして苛立ちなのかもしれない。

「もっとさぁ、頭は柔らかい方が楽ちんだよ?そんな思考回路だと、壊れちゃうよ?」

長はそう言い放つと、何処かに向かって歩きだした。そして振り返ると、希望に向かって此方に来る様に手招きをしてみせた。

逃げ場のない石造りの塔のてっぺんで、希望は諦めの境地で、長の後を着いて行く事にした。

暫く歩いて行くと、目の前に数段の階段が見えてきた。降りた先のスペースの中央には、大きな石造りのテーブルがあった。椅子も石で出来ていて、何故か背もたれはなく、到底座りやすい印象は与えなかった。

すると、自分と歳の変わらない少女が、そのひとつの椅子に座っている事に気づいた。

「あ………は、はじめまして」

希望は緊張しながら、その少女に挨拶すると、長がその少女の横の椅子に座り、希望にも座る様に促した。

「希望、これが誰だかわかる?」

長はにっこり微笑むと、テーブルに両手で頬杖をつきながら首を傾けた。

「知らないよ、会った事ないもん」

「確かに。えっとこの人はね、真琴だよ」

「真琴ちゃん???」

「正しくは、真琴のソウルね」

話を黙って聞いていたその少女は、静かに希望に向かって微笑みかけた。

「真琴ちゃんはじゃあ、今、月で眠ってるんだね」

「こんなややこしい話なのに、希望はやっぱり飲み込みが早いね。そう、真琴のソウルが故郷に戻ってきてる、つまり月での真琴は眠ってるはずだよ」

「そっか…………」

希望は少しほっとした。

眠っているという事は、コンタクトが取れなくなっている現在の月の状況下の中で、真琴は亡くなってはいないという事だったからだった。

それにしても、長は一体何がしたいのだろう。
故郷というこの場所、ソウルの循環、自分なりに理解は出来た。そしてそれは知らなくてもいい事の様な気がした。

「そう、知らない方が幸せな事ってあるよね」

希望の心を読んだ様に、そういきなり発言した長に、希望は警戒の表情をみせた。


「こころを読んだの?ぼくのこころ」

「読むじゃない。同じだから、勝手に伝わるんだよ」

「伝わる………」


希望は右手を自分の胸に当てて、考え込んだ。
シンプルな仕組みでありながら、とても難解なパズルの様に感じた。


「長、時間がないわ」


突然、真琴のソウルという少女が口を開くと、
長を急かし始め、テーブルの上に一枚の地図をひろげ始めた。

「ちょっと打ち合わせがあるから、希望は眺めていてよ」

長はそう希望に伝えると、何やら少女と相談を始めた。希望はその光景を理解しようとしたものの、内容をさっぱり理解する事は出来なかった。


「じゃあ、その道でお願いね」


相談が終わったらしく、少女はそう言って席を立つと、無機質な空に向かって、両手をひろげ仰ぎ始めた。


「何、あれ…………」


希望が思わずそう呟いた視線の先に、長の羽等、可愛いと思える程の、巨大な白い羽を2枚生やした巨大な女性の存在が現れた。

面食らっている希望にお構いなしに、少女はその巨大な白き羽の存在に何やらを送り始め、そしてそれが終わるとその存在はゆっくりと空から消えていった。

「今のって………」

希望が畏怖の感情に包まれながら、長に尋ねると

「あれが真琴の本体だよ。でかいでしょ??ボクちゃんちょっとあの存在は苦手なんだけど、まぁ契約だから仕方ないんだ」

「本体………僕の本体が長と同じ理屈?」

「そうだよ、さて真琴のソウルが月に戻るみたいだ」


見ると少女は、その塔のてっぺんの端へ
弾む様に歩いて行く所だった。

「月にって、一体どうやって?」

希望の中に素朴な疑問が沸き上がった。
と、同時にその少女の姿が床に吸い込まれる様に、目の前から姿を消した。

「え!!!!!」

希望はいきなり消えた少女の痕跡を探るべく
その場所へ駆けて行った。

「穴がある…………」

少女が消えた場所には、人がひとりはまるかはまらないかぐらいの丸い穴が開いていて、そこを覗くと筒状のそれが、下に繋がっているのが理解出来た。

「滑り台みたいでしょ?びゅ~んってさ」

長はニコニコしながら、希望にそう言うと
「さぁ次は君の番だよ」と言って、どうぞという仕草をしてみせた。

「ここを降りたら?つまり、眠ってる僕が目覚めるの?」

「そういう事、さぁ早くここから器に戻ってよ。記憶はわざと、消さないでおくからさ」


この場所


故郷には自分の本体がいて、その一部が肉体の器に注入され、今を生きている。
そして、"こころ"を持ち帰っては、毎日アップテードがさるのは理解が出来た。


それが循環


それは納得が出来たけれど、新たな疑問が沢山出来たのも、また事実だった。

「僕にはまだ少ししか理解出来ていないけど、いつか色々が解るようになるのかな」

長はコクリと頷くと、「さぁ早く戻って、時間がないよ」と急かし始めた。

「最後に長!おかあさんには会えない??ここなら会えるんでしょ?」

「沙羅の本体?ママンはここにいるから会えるよ。ただ……」

「ただ?」

「破天荒ですぐ何処かに行っちゃうんだ。だからまたの機会にして?」

「破天荒…………」

「さぁ、早く!!!」

希望は複雑な心境になりながらも、その丸くあいた穴に向かって、ダイブした。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜

SunYoh
SF
ーー22世紀半ばーー 魂の源とされる精神世界「インナースペース」……その次元から無尽蔵のエネルギーを得ることを可能にした代償に、さまざまな災害や心身への未知の脅威が発生していた。 「インナーノーツ」は、時空を超越する船<アマテラス>を駆り、脅威の解消に「インナースペース」へ挑む。 <第一章 「誘い」> 粗筋 余剰次元活動艇<アマテラス>の最終試験となった有人起動試験は、原因不明のトラブルに見舞われ、中断を余儀なくされたが、同じ頃、「インナーノーツ」が所属する研究機関で保護していた少女「亜夢」にもまた異変が起こっていた……5年もの間、眠り続けていた彼女の深層無意識の中で何かが目覚めようとしている。 「インナースペース」のエネルギーを解放する特異な能力を秘めた亜夢の目覚めは、即ち、「インナースペース」のみならず、物質世界である「現象界(この世)」にも甚大な被害をもたらす可能性がある。 ーー亜夢が目覚める前に、この脅威を解消するーー 「インナーノーツ」は、この使命を胸に<アマテラス>を駆り、未知なる世界「インナースペース」へと旅立つ! そこで彼らを待ち受けていたものとは…… ※この物語はフィクションです。実際の国や団体などとは関係ありません。 ※SFジャンルですが殆ど空想科学です。 ※セルフレイティングに関して、若干抵触する可能性がある表現が含まれます。 ※「小説家になろう」、「ノベルアップ+」でも連載中 ※スピリチュアル系の内容を含みますが、特定の宗教団体等とは一切関係無く、布教、勧誘等を目的とした作品ではありません。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

にゃがために猫はなく

ぴぴぷちゃ
SF
 我輩は宇宙1のハードボイルドにゃんこ、はぴだ。相棒のぴぴとぷうと一緒に、宇宙をまたにかけてハンター業に勤しんでいる。うむ、我輩の宇宙船、ミニぴぴぷちゃ号は今日も絶好調だな。ぴぴとぷうの戦闘用パワードスーツ、切り裂き王と噛み付き王の調子も良い様だ。さて、本日はどんな獲物を狩ろうかな。  小説家になろう、カクヨムでも連載しています。

サクラ・アンダーソンの不思議な体験

廣瀬純一
SF
女性のサクラ・アンダーソンが男性のコウイチ・アンダーソンに変わるまでの不思議な話

幻想遊撃隊ブレイド・ダンサーズ

黒陽 光
SF
 その日、1973年のある日。空から降りてきたのは神の祝福などではなく、終わりのない戦いをもたらす招かれざる来訪者だった。  現れた地球外の不明生命体、"幻魔"と名付けられた異形の怪異たちは地球上の六ヶ所へ巣を落着させ、幻基巣と呼ばれるそこから無尽蔵に湧き出て地球人類に対しての侵略行動を開始した。コミュニケーションを取ることすら叶わぬ異形を相手に、人類は嘗てない絶滅戦争へと否応なく突入していくこととなる。  そんな中、人類は全高8mの人型機動兵器、T.A.M.S(タムス)の開発に成功。遂に人類は幻魔と対等に渡り合えるようにはなったものの、しかし戦いは膠着状態に陥り。四十年あまりの長きに渡り続く戦いは、しかし未だにその終わりが見えないでいた。  ――――これは、絶望に抗う少年少女たちの物語。多くの犠牲を払い、それでも生きて。いなくなってしまった愛しい者たちの遺した想いを道標とし、抗い続ける少年少女たちの物語だ。 表紙は頂き物です、ありがとうございます。 ※カクヨムさんでも重複掲載始めました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

処理中です...