MOON~双子姉妹~

なにわしぶ子

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117話~循環~

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ホワイトの部屋の空間は、白き羽根の存在と黒き羽根の存在が浮かび、完全な異空間と化していた。

希望は腹部の痛みが薄れていくにつれ、聞きたい事が次から次へと頭の中に浮かび上がった。でもそれをうまく言葉に紡ぐ事が出来なかった。

でも、きっとそこを探求しなければ、自分はいつまでも自分の存在意義がわからない、そんな気がした。

すると、白き羽根の存在が大きな溜め息をつきながら、自分の髪を無造作にかきあげた。

「この状態ってさぁ、完全にホワイトのミスだよね?ママンのソウルの器だった沙羅まで死なせちゃってさぁ……ねぇ一体何やってるの?もうボク、そろそろ我慢の限界だよ?」

ホワイトは「申し訳ありません」とだけ答えると、その場でひれ伏した。

希望はその光景が理解出来なかった。
ホワイトは何故、このボクという存在にこんなに従順なのだろう。

「不思議そうだね器くん。ボクちゃんの話がそんなに理解出来ない?ボクとキミは、つまりは同じだというのに」

「そんなにいきなり、理解なんて出来ないよ」

「じゃあ、分かりやすくしてあげる」

白き羽根の存在はゆっくりと腕を伸ばすと、手を希望にかざし始めた。
すると手の表面から徐々に光が放ちはじめ、そして、その光は光線となり希望の身体を貫き始めた。

希望は思わず、身体に射し込む光を手で掴もうとした。でも光はするりとすり抜けて、希望のこころを弄んだ。

「掴もうとしちゃいけない、ただ受け入れたらいい」

白き羽根の存在の声が希望の耳に届いた瞬間、希望は意識を失うと、その場に倒れ込んでしまった。

「おいボス!!坊主が倒れちまったじゃねぇか!」

黒き羽根の存在は、慌てて希望の傍へ飛んでいくと、顔を覗きこんだり、オロオロと心配し始めた。

「さて、じゃあボクも少し一緒に眠らせてもらうよ?ホワイト、後は頼んだからね」

「かしこまりました、長(おさ)」

ホワイトが深々と頭を下げると、白き羽根の存在は姿を消した。
ホワイトはそれを確認し、希望の傍までやって来ると抱きかかえ、ルームの端のソファへ横たわらせた。

「おい、ホワイト!坊主は大丈夫なんだろうな!」

ホワイトはその言葉に返事をする事もなく、希望にブランケットをかけると、その寝顔を見守り続けた。

黒き羽根の存在は、不服そうにしながらも
同じく希望が眠る上空で、漂い続けた、








ここは…………何処??


希望は辺りを見渡した。
とても高い、塔のてっぺんらしいその場所は
何もなくガランとしていた。

そして、床も柵も全てが石で出来ていて
全体的に冷たい印象を与えた。


誰もいない………

希望は周囲を更に、キョロキョロと見渡した。


自分は確か、ホワイトの部屋にいたはずだった。
白き羽根の存在の掌から光を浴びた後、意識を失ったはず………それが、何でこんな場所に………??


希望が見上げると、そこには殺風景で無機質な
空が無限にひろがっているだけだった。


「ばぁ~!!」


いきなり希望の目の前に、逆さまの顔が
ドアップの状態で、背後から覗き込んできた。

「ぎゃあああああああ!!!」

希望が絶叫し尻餅をつくと、そこには逆さまの状態で浮かぶ、白き羽根の存在が浮かんでいた。


「そんなに驚かないでよ器くん。ボクちゃん傷ついちゃったなぁ~」

「器じゃない!僕は希望って名前だよ!羽根で少しくらい飛べるからって偉そうにしないでよ!」

「ふーん、威勢がいいね。さすがボクちゃんの器くんだ。あ、希望だったね、じゃあボクちゃんの事も、長(おさ)って呼んでくれたらいい。みんなここでは、ボクちゃんの事はそう呼ぶ」

「長(おさ)?わかった……ところで、ここは何処なの?」

「ここは、故郷だよ」

「故郷!?ここが??」

希望は、面食らった顔をしながら、色々を思い返した。祖父の話では、人は死ぬと器からソウルが離れて、故郷に戻るのだという。

「じゃあ、僕死んじゃったの!?」

希望は、行き着いた答えを大声で叫んだ。
ここがその故郷ならば、そういう事に違いなかった。

「死んでないよ、希望、君は今眠ってるんだ」

「眠ってる??」

「そう、実はいつも眠ってる時はこの場所に戻って来てるんだけど、まぁ……目覚める時に記憶を消しちゃうからさ、覚えてないのは無理はない」

「眠ってる時は戻ってる?何でそんな事……」

「そうじゃないと、ボクちゃんが成長しないじゃない。希望はオムライスが好きだろう?何で食事をするの?」

「生きる為だよ!そうしないと身体がエネルギー満タンにならないじゃないか!」

「そうエネルギー。ボクちゃんはオムライスは食べたりしない。その代わり、希望、キミから"こころ"ってエネルギーを運んできてらもらうんだ」

「"こころ"がエネルギーに?それが食事になるの?じゃあ何で人は死ぬの??ずっと、器の身体から供給してもらえばいいのに、死ぬ事の意味がわからない……死ぬってとても悲しい事なのに……」

希望は、沙羅の墓での出来事を思いだし涙を浮かべた。

「希望って自己中心的だね。ボクちゃんからすると、眠ったままになる、つまり死とは喜びなんだ。完全にボクに還ってくる、溶け込む事になるんだから」

「そんな………じゃあ、溶け込んだらどうなるの??エネルギーが途絶えちゃうのに……」

「器はいくつもの星にある。そして死を迎えたら、また新たな器にボクの一部、つまりソウルを注入し、あちこちの星で産声をあげるんだ」

「それが、死と誕生の仕組みって事?」

「そう、それが"循環"で"宇宙の理(ことわり)"、な~んだ希望、キミ案外飲み込みいいんだね」

白き羽根の存在は、希望の前にゆっくりと降り立つと背中の中へ、その大きな羽根が溶け込むかの様に収められていった。

そして背の高さも希望と同じ高さくらいに縮むと、まるで時間が退化するかの様に、希望の年頃に若返っていった。

「ねぇねぇどう?そっくりになったでしょ?僕たち」

翼が消えた白き羽根の存在は、希望の前におどけて立つと、くるりとその場で宙返りしてみせた。
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