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92話~成長~
しおりを挟むシャトルを降りた4人は、扉を凝視し続けていた。
「ベイ、気を緩めないでちょうだいね。何かあったらすぐ中に移動してもらわないといけないんだから」
遥はドアを見つめたまま、ベイにそう声をかけた。
「わかってるさ」
いつもはすぐにふざけるベイが、真剣な顔でそう答えると、ドアがゆっくりと開き始めた。
「希望君!!!」
李留が慌てながらドアに駆け寄ると、宇宙服を脱ぎ、ホワイトが着ていたロングのコートを羽織った希望が姿を現した。その後ろにはホワイトの姿も見えた。
「さぁ降りるといい」
ホワイトに促された希望が、裸足のままドアにかけられたステップをゆっくりと降り始めた。
「なんで裸足に………」
ワッカは、希望のさっきまでとは違う姿に違和感を覚えながらも、母星に降りる事を許された事に安堵していた。
ホワイトが許したのだから、月に還される心配はもういらないだろう。それにしても、一体シャトルの中で何をしていたのだろうか。
「そんな…………」
ワッカは突如、違和感の意味に気づくと絶句をした。
そんなワッカの様子に気づく事もなく、ステップを降り終えた希望はゆっくりと、母星のシャトル発着場を見渡した。
「ここが………おとうさんとおかあさんが産まれ育った星……??」
羽織っただけのロングコートを、ぎゅっと握りしめながら、希望は宙を切なく仰いだ。
「希望君の……背が伸びてる………」
李留が目の前にやってきた希望を見て、愕然としながらそう呟くと、遥の顔色もみるみる変わり始め、その場でよろめいた。
そんな遥をワッカが両手で支えると、ベイがすかさず希望を、背後からいきなり抱きかかえた。
「う、うわぁ………!!」
希望が抱きかかえられながら、驚いて後ろを振り向くと、ベイは満面の笑顔で笑いかけてきた。
「おい、いつの間にでかくなってんだよ。これじゃあもう肩車出来ないじゃん」
希望は、改めて自分の身体をまじまじと困惑しながら、見つめた。
「僕、起きたら洋服も小さくなってて……どうしちゃったんだろう……僕が月の子だから?」
ベイは抱きかかえた希望を床におろすと、そのウェーブのかかった、髪の毛をくしゃくしゃと右手でかき回した。
希望はそれをこそばゆい表情で受け入れながら、ベイを上目遣いで見上げた。
「それはホワイトが今から教えてくれるさ。だろ?」
ベイが、まだシャトルのドアに立ったままのホワイトにそう声をかけると、ホワイトもゆっくりとステップを降りると、希望の前までやってきた。
「時間を整えただけだ。月で産まれ育った希望がもし母星で産まれ育っていたら、これくらいに成長していたという事だ」
遥はワッカに支えられながら、何かに納得したようだった。
「星で時の流れ方が違うのは勿論理解しているわ。私達も月に行ってる間は、時間の流れは遅くなる。頭ではわかってるのよ?ただ、子供のこんなに顕著な変化を見た事がなかったものだから……」
「子供と大人では、また少し話が違ってくる。子供は特にサポートが必要、それを今したまでの話」
遥は事態を理解するべく、思考の整理に努めた。
ホワイトが、シャトルの中で何をしたのか……そこにとても興味があったけれど、それを聞いた所で、今の自分ではきっと理解は出来ないのだろう。
母星に順応する為に、ホワイトは何かしらの方法で、希望を成長させた。
つまり、母星は希望を受け入れる事にした。
今はその事実を喜ぶべきなのかもしれない。
「僕は、何処かおかしいの?」
黙りこんだ遥の姿を、不安気に見つめていた希望が、さらにロングコートを握りしめながら問いかけた。
遥は支え続けてくれていたワッカに軽く会釈をし、その手から離れると、希望に近づいていった。
「希望、あなたはおかしくないわ。私は勉強を沢山してきたはずなのに、実際を知るとたじろいでしまったの、本当に恥ずかしい。希望はだから、沢山お勉強してね?きっと大和を越える能力者になれるわ」
「おとうさんより凄い能力者に?僕はなれる?」
「えぇ、勿論。さぁ裸足じゃ身体が冷えてしまうわ。諸々のチェックが終わったら、洋服や靴をお店に一緒に買いに行きましょう。ホワイト、許可を頂けるかしら?」
遥の問いかけにホワイトは頷くと、「今日は自由に過ごすといい」の一言を残して、機関の建物へと入っていった。
「よし!お許しも出たし、ショップに行く前にさ、レストランに行こうよ?希望に本当の食事ってのを俺が教えてやる」
「うわぁ!早く僕行きたい!!」
希望は不安だった気持ちが一気に晴れた顔をして、屈託のない笑顔で瞳を輝かせた。
「小さいままだったら今すぐ肩車したのにな。とりあえず、これで我慢してよ」
ベイは希望の前で、背中を見せて屈んでみせた。
「おんぶしてくれるの?」
「あぁ、だから早く乗りなって」
「うん!!」
希望がベイの背中に飛び付くと、ベイは希望をしっかりおぶうと立ち上がり、機関の建物へと歩きだした。
「じゃあ、僕達も行きましょうか」
ワッカがそう笑顔で声をかけると、遥と李留も一緒に機関の建物へと歩きだしたのだった。
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