77 / 130
77話~弥生桜~
しおりを挟む「希望(のぞみ)……!!この部屋に来ちゃだめじゃない!」
真琴は透明の壁の前で、駆け寄ってきた少年に
向かってそう言った。
「だって僕!!おとうさんの似顔絵を早く見てもらいたかったんだもん!」
希望(のぞみ)と呼ばれた少年はそう言って、右手に持っていた紙を、今度はくるくるとひろげると、透明の壁の向こう側に見える様に押し付け始めた。
その向こう側の部屋には、沢山のゴボゴボと音を鳴らせている巨大なカプセル型の装置がいくつもあり、そしてその間を歩く大和がいた。
「おとうさん!!!見て!!!おとうさん!!」
希望は、透明の壁を右手で叩きながら、左手で描いた絵を持ちながら叫んだ。
大和はその声に気づくと、ゆっくりと希望の方を見上げた。
でも大和の顔は無表情で、そして何か言葉を発する事もなく、またそのゴボゴボと音を鳴らせ続けるその装置の間に消えていった。
「おとうさん…………!!!」
希望は紙を更に透明のその壁に押し付けながら、呼び止める様に、更に大きな声で叫んだ。
「希望………」
真琴はそんな希望を後ろから両手で抱き抱えた。
「真琴ちゃん……?」
希望はされるがままに、真琴に抱き抱えられながら、キョトンとした瞳で真琴の事を見つめ返した。
「お父さんは忙しいの。だから、邪魔しちゃいけないわ。今から私とバーチャルレストランに行きましょう?希望はオムライスがいいかな?」
「うん!!僕、もう邪魔しないよ!」
希望は満面の笑顔で、真琴に笑いかけた。
*
李留は白衣姿で上層部の研究所でひとり、沢山の花や樹木達に水やりをしていた。
シンプルな李留のデスク上には、いくつかの小型の機器があるだけで、その部屋のほとんどが色々な種類の花と木で溢れていた。
「李留はいるかしら?」
研究所の扉が開き、身体にフィットした
光沢のある素材で出来た上層部の制服に身を包んだ遥が現れた。
「遥さんどうしたんですか?ここに来るなんて珍しいですね」
李留は水やりの手を止めると、何処からか椅子を出してきて、遥の前にそれを置いた。
「本当に……上層部の【2%】なのに、メンバーと滅多に会えないなんてどうかしてるわ」
遥は不満を、気心知れた李留に吐露しながら、差し出された椅子にゆっくりと腰かけた。
上層部に所属になってからは、今まで閲覧不可だったデータベースにアクセス出来る様になった。
変化と言えば、案外それくらいで、特に今までと大きな事もなく、ただ、そのデータベースの内容は膨大で、遥も未だにその内容を理解するのに苦戦していた。
「遥さんはどこまで理解を進めましたか?僕はまだ3章なんです」
李留は、頭をかきながらデスク上の端末を操作し
遥に、自分の進み具合を教えてみせた。
「私は50章だから、やっと半分かしら。3章でも凄い事よ?とても難解だから無理もないと思うわ。それに、ベイなんて見てもないらしいのよ?ワッカが理解し、それを口頭で伝えてるんだとか」
遥が困った顔で、お手上げのポーズをすると
李留は「ベイさんらしい」と、笑った。
「でも……月の大和はもうとっくに網羅したみたい」
「そ、そうですか………」
李留は、顔を強ばらせながらそう答えた。
こちらに戻ってから、母星に飛び交う妖精達から月の色々な噂は聞いてはいた。
月の砂の、粒子の暴走を遅らせる何かを
最近開発したらしいとか
月の売り出される居住区がとても
素晴らしい形になりつつある事だとか
そして、月には3人いることだとか………
「遥さんは、何か知ってますか?月にいるらしい、3人目の存在の事……」
「妖精さん達の噂話の事でしょ?私も確かに気になって、真琴と大和に直接聞いてはみたのだけど、月にはふたりだけしか人間はいないって言うのよ……」
「そうですか………僕は妖精さんから小さな男の子だって聞いたんですが………」
遥も妖精から聞いて、思いあたる事があるのか
深く考え込みながら、黙り込んだ。
「ホワイトも、何故か大和と真琴を母星に返さないの一点張りだし、あれからの長い時間を考えると、やはりそういう事なのかもしれないわね……」
「つまり、大和さんと真琴さんの子供………」
「それだと、確かに色々問題があるし、ホワイトはタイミングをみてるのかもしれない、真琴は婚約者が母星にいるわけだし……」
「確かに、上層部は許可が出ないと民間とコンタクトは禁忌ですもんね。僕は許可をもらって鞍馬さんと話せますが、もうずっと真琴さんとはコンタクト取れてないと聞いています」
遥は、小さく頷きその場を立ち上がると
花と木々の中へと歩いていった。
「李留君、これは何?」
遥は歩いた先の足元にある、小さな鉢を見つけた。
その鉢の中には、葉が花の姿を形作っていて
存在感をしめしていた。
「これは、NANIWAって品種なんです。変わってるでしょう?」
「花の形をしてるのに、花じゃないのね、不思議だわ……」
「もっと不思議なのが、この品種はどうやら地球星にもある品種みたいなんです。エケベリアとか弥生桜って名前で、って……僕も最近、上層部のデータベースで知ったんですけどね」
李留は鉢を両手で持ち上げながら、少し自慢げに茶目っ気たっぷりに語ってみせた。
「あの地球星に??それは不思議ね……母星とやはり双子星なのかしら……」
遥はその鉢をしげしげと覗き込んだ。
「この品種は、種とかじゃなくて株分けで増やせるので、色々研究すると楽しいですよ」
「株分け?」
「いわば、クローンみたいな感じですね」
すると、どこからか妖精がふたりに近づいてきた。
この妖精は、母星に昔から滞在している妖精で
あちこちの星の情報を聞いてくるのが好きらしく
最近は、李留と遥によく話しかけてきていた。
「月の子供はそれと同じよ~」
遥と李留は、言葉の意味を掴みかねながら
妖精を見上げた。
「お、同じって………?」
妖精は笑いながら、部屋を飛び回り
一回転すると、こう言った。
「つまり、クローンって事♪」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
アンチ・ラプラス
朝田勝
SF
確率を操る力「アンチ・ラプラス」に目覚めた青年・反町蒼佑。普段は平凡な気象観測士として働く彼だが、ある日、極端に低い確率の奇跡や偶然を意図的に引き起こす力を得る。しかし、その力の代償は大きく、現実に「歪み」を生じさせる危険なものだった。暴走する力、迫る脅威、巻き込まれる仲間たち――。自分の力の重さに苦悩しながらも、蒼佑は「確率の奇跡」を操り、己の道を切り開こうとする。日常と非日常が交錯する、確率操作サスペンス・アクション開幕!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜
SunYoh
SF
ーー22世紀半ばーー
魂の源とされる精神世界「インナースペース」……その次元から無尽蔵のエネルギーを得ることを可能にした代償に、さまざまな災害や心身への未知の脅威が発生していた。
「インナーノーツ」は、時空を超越する船<アマテラス>を駆り、脅威の解消に「インナースペース」へ挑む。
<第一章 「誘い」>
粗筋
余剰次元活動艇<アマテラス>の最終試験となった有人起動試験は、原因不明のトラブルに見舞われ、中断を余儀なくされたが、同じ頃、「インナーノーツ」が所属する研究機関で保護していた少女「亜夢」にもまた異変が起こっていた……5年もの間、眠り続けていた彼女の深層無意識の中で何かが目覚めようとしている。
「インナースペース」のエネルギーを解放する特異な能力を秘めた亜夢の目覚めは、即ち、「インナースペース」のみならず、物質世界である「現象界(この世)」にも甚大な被害をもたらす可能性がある。
ーー亜夢が目覚める前に、この脅威を解消するーー
「インナーノーツ」は、この使命を胸に<アマテラス>を駆り、未知なる世界「インナースペース」へと旅立つ!
そこで彼らを待ち受けていたものとは……
※この物語はフィクションです。実際の国や団体などとは関係ありません。
※SFジャンルですが殆ど空想科学です。
※セルフレイティングに関して、若干抵触する可能性がある表現が含まれます。
※「小説家になろう」、「ノベルアップ+」でも連載中
※スピリチュアル系の内容を含みますが、特定の宗教団体等とは一切関係無く、布教、勧誘等を目的とした作品ではありません。
にゃがために猫はなく
ぴぴぷちゃ
SF
我輩は宇宙1のハードボイルドにゃんこ、はぴだ。相棒のぴぴとぷうと一緒に、宇宙をまたにかけてハンター業に勤しんでいる。うむ、我輩の宇宙船、ミニぴぴぷちゃ号は今日も絶好調だな。ぴぴとぷうの戦闘用パワードスーツ、切り裂き王と噛み付き王の調子も良い様だ。さて、本日はどんな獲物を狩ろうかな。
小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
暗闇ロボ 暗黒鉄
ヱヰキング
SF
ここは地球、美しく平和な星。しかし2年前、暗闇星人と名乗る謎の宇宙人が宣戦布告をしてきた。暗闇星人は、大量の量産型ロボットで地球に攻めてきた。世界は国同士の争いを一度すべて中断し、暗闇星人の攻撃から耐え続けていた。ある者は犠牲になり、ある者は捕虜として捕らえられていた。そしてこの日、暗闇星人は自らの星の技術で生み出した暗闇獣を送ってきた。暗闇獣はこれまで通用していた兵器を使っても全く歯が立たない。一瞬にして崩壊する大都市。もうだめかと思われたその時、敵の量産型ロボットに似たロボットが現れた。実は、このロボットに乗っていたものは、かつて暗闇星人との争いの中で捕虜となった京極 明星だったのだ!彼は敵のロボットを奪い暗闇星から生還したのだ!地球に帰ってきた明星はロボットに暗黒鉄と名付け暗闇獣と戦っていくのだ。果たして明星の、そして地球運命は!?
MMS ~メタル・モンキー・サーガ~
千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』
洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。
その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。
突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。
その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!!
機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる