MOON~双子姉妹~

なにわしぶ子

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77話~弥生桜~

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「希望(のぞみ)……!!この部屋に来ちゃだめじゃない!」


真琴は透明の壁の前で、駆け寄ってきた少年に
向かってそう言った。


「だって僕!!おとうさんの似顔絵を早く見てもらいたかったんだもん!」


希望(のぞみ)と呼ばれた少年はそう言って、右手に持っていた紙を、今度はくるくるとひろげると、透明の壁の向こう側に見える様に押し付け始めた。


その向こう側の部屋には、沢山のゴボゴボと音を鳴らせている巨大なカプセル型の装置がいくつもあり、そしてその間を歩く大和がいた。


「おとうさん!!!見て!!!おとうさん!!」


希望は、透明の壁を右手で叩きながら、左手で描いた絵を持ちながら叫んだ。


大和はその声に気づくと、ゆっくりと希望の方を見上げた。

でも大和の顔は無表情で、そして何か言葉を発する事もなく、またそのゴボゴボと音を鳴らせ続けるその装置の間に消えていった。

「おとうさん…………!!!」

希望は紙を更に透明のその壁に押し付けながら、呼び止める様に、更に大きな声で叫んだ。

「希望………」

真琴はそんな希望を後ろから両手で抱き抱えた。

「真琴ちゃん……?」

希望はされるがままに、真琴に抱き抱えられながら、キョトンとした瞳で真琴の事を見つめ返した。

「お父さんは忙しいの。だから、邪魔しちゃいけないわ。今から私とバーチャルレストランに行きましょう?希望はオムライスがいいかな?」

「うん!!僕、もう邪魔しないよ!」

希望は満面の笑顔で、真琴に笑いかけた。








李留は白衣姿で上層部の研究所でひとり、沢山の花や樹木達に水やりをしていた。

シンプルな李留のデスク上には、いくつかの小型の機器があるだけで、その部屋のほとんどが色々な種類の花と木で溢れていた。


「李留はいるかしら?」


研究所の扉が開き、身体にフィットした
光沢のある素材で出来た上層部の制服に身を包んだ遥が現れた。

「遥さんどうしたんですか?ここに来るなんて珍しいですね」

李留は水やりの手を止めると、何処からか椅子を出してきて、遥の前にそれを置いた。


「本当に……上層部の【2%】なのに、メンバーと滅多に会えないなんてどうかしてるわ」

遥は不満を、気心知れた李留に吐露しながら、差し出された椅子にゆっくりと腰かけた。

上層部に所属になってからは、今まで閲覧不可だったデータベースにアクセス出来る様になった。

変化と言えば、案外それくらいで、特に今までと大きな事もなく、ただ、そのデータベースの内容は膨大で、遥も未だにその内容を理解するのに苦戦していた。


「遥さんはどこまで理解を進めましたか?僕はまだ3章なんです」


李留は、頭をかきながらデスク上の端末を操作し
遥に、自分の進み具合を教えてみせた。


「私は50章だから、やっと半分かしら。3章でも凄い事よ?とても難解だから無理もないと思うわ。それに、ベイなんて見てもないらしいのよ?ワッカが理解し、それを口頭で伝えてるんだとか」

遥が困った顔で、お手上げのポーズをすると
李留は「ベイさんらしい」と、笑った。


「でも……月の大和はもうとっくに網羅したみたい」

「そ、そうですか………」


李留は、顔を強ばらせながらそう答えた。


こちらに戻ってから、母星に飛び交う妖精達から月の色々な噂は聞いてはいた。


月の砂の、粒子の暴走を遅らせる何かを
最近開発したらしいとか

月の売り出される居住区がとても
素晴らしい形になりつつある事だとか

そして、月には3人いることだとか………


「遥さんは、何か知ってますか?月にいるらしい、3人目の存在の事……」


「妖精さん達の噂話の事でしょ?私も確かに気になって、真琴と大和に直接聞いてはみたのだけど、月にはふたりだけしか人間はいないって言うのよ……」


「そうですか………僕は妖精さんから小さな男の子だって聞いたんですが………」


遥も妖精から聞いて、思いあたる事があるのか
深く考え込みながら、黙り込んだ。


「ホワイトも、何故か大和と真琴を母星に返さないの一点張りだし、あれからの長い時間を考えると、やはりそういう事なのかもしれないわね……」


「つまり、大和さんと真琴さんの子供………」


「それだと、確かに色々問題があるし、ホワイトはタイミングをみてるのかもしれない、真琴は婚約者が母星にいるわけだし……」


「確かに、上層部は許可が出ないと民間とコンタクトは禁忌ですもんね。僕は許可をもらって鞍馬さんと話せますが、もうずっと真琴さんとはコンタクト取れてないと聞いています」


遥は、小さく頷きその場を立ち上がると
花と木々の中へと歩いていった。


「李留君、これは何?」

遥は歩いた先の足元にある、小さな鉢を見つけた。
その鉢の中には、葉が花の姿を形作っていて
存在感をしめしていた。


「これは、NANIWAって品種なんです。変わってるでしょう?」

「花の形をしてるのに、花じゃないのね、不思議だわ……」

「もっと不思議なのが、この品種はどうやら地球星にもある品種みたいなんです。エケベリアとか弥生桜って名前で、って……僕も最近、上層部のデータベースで知ったんですけどね」

李留は鉢を両手で持ち上げながら、少し自慢げに茶目っ気たっぷりに語ってみせた。

「あの地球星に??それは不思議ね……母星とやはり双子星なのかしら……」

遥はその鉢をしげしげと覗き込んだ。

「この品種は、種とかじゃなくて株分けで増やせるので、色々研究すると楽しいですよ」

「株分け?」

「いわば、クローンみたいな感じですね」


すると、どこからか妖精がふたりに近づいてきた。

この妖精は、母星に昔から滞在している妖精で
あちこちの星の情報を聞いてくるのが好きらしく
最近は、李留と遥によく話しかけてきていた。


「月の子供はそれと同じよ~」

遥と李留は、言葉の意味を掴みかねながら
妖精を見上げた。

「お、同じって………?」

妖精は笑いながら、部屋を飛び回り
一回転すると、こう言った。



「つまり、クローンって事♪」

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