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65話~不穏~
しおりを挟む大和が機材を抱えながら自室へ入ると、沙羅と真琴の双子姉妹が、楽しく談笑している姿が目に飛び込んできた。
こう改めて見ると、本当にとても似ている。
髪の毛の色が違わなければ、区別がつかないくらいに。
自然のクローンの領域とはやはり、このただっぴろい宇宙や、色々を産み出した創造主の特権なのかもしれない。
大和は、そう想いながら両手の機材を抱え直すと、ふたりの傍へ近づいていった。
「真琴、有り難う。あとここのクリーン作業で終わりだし、遥に伝えてきてくれない?」
そう言った瞬間、大和は赤色と白色のマーブル模様のボールを天井に向かって投げつけた。
ボールが弾けて霧状になったかと思うと、空中に拡散され消えていった。
「終了、防護アイテムはもう外してかまわないよ」
測定器でチェックを始めた大和は全てをはずすと、ふたりもそれに連なった。
「じゃあ私、遥の所に行ってくるわ。お姉ちゃんまたあとで、産着を縫いましょうね」
「えぇ、待っているわ真琴」
真琴はそう言うと、小走りに出て行こうとして慌てて立ち止まった。
「いけない、また走ろうとしちゃった」
真琴は、ばつが悪そうにそう言うと部屋をそっと出ていった。
扉が閉まる音を確認して、大和は沙羅の目の前に立った。
「目眩はどう?」
大和は左手で沙羅のおでこに触れながら、優しく囁いた。左手の薬指にはめられた、指輪のヒヤリとする冷たい感触と、左手の温かな体温との違いは、沙羅を安心させた。
「大丈夫、真琴とおしゃべりしたからか気分がとてもいいの」
「良かった、まずは沙羅から母星に一時帰還出来る様にしないとね、今から精密検査をする準備をするから、奥の部屋へ一緒に行こう」
大和は沙羅のおでこから手を離すと、まずは出入口のロックをかけた。
「母星の病院には大和は着いてきてくれる?」
「沙羅の場合は真琴と行ってもらうよ、他のメンバーはひとりずつ交代でになるかな、俺は行くとしたら最後だ」
「わかったわ、言うとおりにする……」
「不服?」
「そんなわけじゃないけど……」
沙羅は、大和と一緒に奥の隠し部屋に向かうべく立ち上がると棚へと向かった。
いつもの手慣れた様子で、大和がカモフラージュのその棚をスライドさせると、隠し扉が現れた。
「さっき、真琴がこの棚に触れようとしたの。もっとここは、ロックを強化させた方がいいわ大和」
「心配ないよ。だって、誰かを部屋に迎えいれる時には必ず沙羅がいるでしょ?」
「そうだけど……」
「沙羅は、ここに触れさせたりはしないでしょ?」
「そんなの……私が教えるかもしれないじゃない」
「沙羅はしない、そんな人だよ」
大和は優しく微笑むと、隠し扉を開いた。
*
「あ~やっと見つかった!探したわ遥!」
通信室から出てきた遥に、真琴は文句を言いながら近づいていった。
「大和がクリーン作業が終わったって伝えてくれって」
そう大和からの伝言をつたえたものの、遥は廊下の床に視線を落としたまま、呆然と立ち尽くしていた。
「遥…………??」
真琴が心配そうに、遥の左腕を揺する様に掴むと、やっと真琴の存在に気づいたらしく、か細い声で「あぁ真琴、いつからそこに……」と、呟いた。
明らかに様子がおかしい。
真琴は不安感に襲われ始めた。
「一体、どうしたの??」
「今、母星に粒子摘出の受け入れをお願いしていたんだけど……」
「まさか、駄目だったの!?お姉ちゃんだけでも駄目なの?」
「それは大丈夫。交代で帰還して、処置を受ける事になったわ……」
「じゃあ問題ないじゃない……驚かさないでよ……」
「機関はまだ大丈夫なの、ただ………」
「ただ??」
「街は全滅したらしいの………」
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