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63話~観察~
しおりを挟む「遥、私はどうしたらいい?お姉ちゃんの傍にって事?」
真琴がおずおずと尋ねた。
「えぇそうね、この状態で一番心配なのは沙羅だわ。傍についていてあげて?」
真琴は「わかった、そうする……」と頷くと、走ってルームから出ていこうとした。
「真琴!走ってはいけないわ!息が荒くなるといけないのだから」
その言葉に、真琴は慌てて立ち止まった。
「習慣って無意識に出ちゃうから気を付けなくちゃ、、ありがとう遥」
そして、今度は静かに歩いて退出したのだった。
*
沙羅はベットに横たわっていた。
両目を閉じて、色々を思い巡らせた。
大和と私の肺の状態は同じだった。
恐らく基地に拡散された細かなキラキラと光るその粒子は、メンバー皆が吸い込んだあとなのだろう。
大和は特に普段と変わりはなかった。
つまり、この粒子はそこまで害がないのかもしれない。
となると……私のあの目眩はやはり赤ちゃんの拒絶反応からきたものなのかもしれない……
沙羅は両手でお腹を包みこんだ。
「お母さんになると、こんなに何もかもが怖くなるものなのね………」
すると、扉が開き真琴が入ってきた。
「お姉ちゃん、大丈夫?鍵もかかってなかったし、勝手に入ってきちゃった」
真琴は、初めて入る姉と大和の部屋の空間をキョロキョロと見渡しながら、沙羅の傍へとやってきた。
「えぇ大丈夫よ、真琴こそ大丈夫?それに、その他のみんなは?」
沙羅は起き上がると、ベッドに腰掛けた。
「大和の説明だと、深呼吸しなければ悪化はしなさそう。ただ、除去となると母星の医療施設じゃなきゃ無理みたい、だから交代で一度、母星に帰る事になるんじゃないかな」
「そう………パパに会いたいわ………」
「うん、私も……。とりあえず大和と遥が動いてくれてるし、この防護アイテムもすぐはずしてよくなるはずだから、そうしたら私も赤ちゃんの産着作りたいわ!!いいでしょう??」
真琴は、ベッドに腰掛ける沙羅の横に座ると
姉の顔を茶目っ気たっぷりに覗き込んだ。
「そういえば、遥が色々道具を持ってきてくれたの。ほら、そのテーブルの上のケース」
沙羅は、先日遥が置いていってくれたケースを指差した。真琴は立ち上がると、そのケースが置かれたテーブルの周囲をくるくると周りながら、物珍しそうにそのケースを眺め始めた。
その様子があまりに子供みたいで、沙羅は可笑しくなって吹き出した。
「あ!!お姉ちゃん!笑うなんてひどいー!!」
「だって、あまりに真琴が好奇心の塊の子供みたいなんだもの」
真琴は頬を膨らませ、怒った振りをしながら部屋を改めて見渡し始めた。
「大和の部屋って思ったより広くて安心したわ。私の部屋と同じ広さだったら、流石にふたりだと窮屈だろうなって心配だったの、それに……」
「それに??」
「隠し部屋もなさそう………やっぱり、私の勘違いだったのね」
沙羅はゴーグルとマスクに感謝をした。
顔色が変わった事を悟られずに済んだ。それ程に、自分の動揺が顔に現れていくのを実感していた。
真琴は歓迎会のテレパシー実験の事を思い出しながら、チェックをしている様だった。
「だから言ったでしょ?そんなのは無かったって……」
「その通りね、私もまだまだ能力が未熟って事かぁ~」
真琴は残念そうにしながら、部屋の中の様々な機材の見学を始めた。
「しかし大和は研究熱心よね。自室までこんなに色々な機材に囲まれて、疲れないのかしら」
「【2%】の裏ボスだもの、そのお陰で私達はかなり助けられているわ、勿論、母星も」
「裏ボス、確かにそうね。でもお姉ちゃん、赤ちゃんが生まれてこの部屋は流石に問題があるわ、危なそうな機材ばかりなんだもん。
そうそう、暖の提案で部屋を拡張する案が出てたはずたし、私もそうした方がいいと思うわ」
「暖が………?」
真琴は沙羅の方に向かって頷くと、ステップを踏む様に、今度は棚の方へと向かった。
「例えば、この棚を派手に外しちゃって、奥に部屋を増築しちゃうとか?」
真琴は右手を伸ばし、棚に触れようとした。
「触らないで!!!!」
沙羅の大きな声が響き渡ると、真琴は驚いて右手を引っ込めた。
「大きな声出してごめんなさい、まだクリーン作業中でしょ?防護アイテムを外す前は、あまり色々な所を触れない方がいいと思うの……」
「私ってつくづく駄目ね、さっきも走っちゃって遥にも注意されたところなの」
真琴は首をすくねると、再び沙羅の隣へと座った。
沙羅は早くなる鼓動が真琴に気付かれない様、細心の注意をはらいながら、呼吸を整えた。
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