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62話~未来の為に~
しおりを挟むメインルームに集められた沙羅以外の面々は、大和からの報告に言葉を失った。
「完全に、私のミスだわ………」
遥は、項垂れながらそう言った。
妖精は何度も忠告してくれたのに、自分の余裕のなさが、間違いなく事態を悪化させたのだ。
「それなら、僕も同じです。遥さんは悪くない……」
李留も同じく俯くと、言葉を失った。
ふたりに目を配りながら、大和は言葉を続けた。
「今から悪化させなければいい事だ。まずはこの防護アイテムを装着してほしい。再度、基地内部全体のクリーン作業に入る。念には念を入れて、未知の菌の侵入も想定し、少しきつめの薬剤も噴霧する。すぐ終わるからその間だけ頼むよ」
大和は、鋭い眼光を光らせながら皆に通達をした。
「沙羅は?沙羅は大丈夫なの?」
暖は防護アイテムを着用しながら、大和に尋ねた。
「正直、今は沙羅だけじゃない。皆に対して大丈夫と到底言えない。でも大丈夫に俺がするから」
その言葉に、暖は黙って頷くとそれ以上は何も言わなかった。
「で?大和の方針を教えて貰ってもいいですか?【2%】は母星の選ばれし精鋭部隊です。必ず【ちから】を合わせれば何とかなるはずです」
ワッカは冷静にそう告げると、大和の傍らに座った。大和は頷くと、モニターに何かを映しだした。
「沙羅にも見せたんだけど、今、みんなの肺の状態をスキャンしてみたデータがこれ。キラキラ光ってるのが粒子、わかる?」
「つまりさぁ、空中に浮遊したそれを、みんな吸い込んじゃったってわけ?食いしん坊だなぁ~」
ベイは大和の傍に座るワッカの横に座ると、おどけてみせた。
「今、沙羅以外は皆無症状だ。とりあえず深呼吸だけしないで?それで暫くは何とかなるはずだから……」
大和の説明に、暖が納得いかない様子で近づいてきた。
「なんだよそれ……沙羅に何かあったって事?」
「沙羅に眩暈の症状があったのは確かだけど、身ごもった事からの症状なのか、粒子が原因か正直、今はわからない。あとでちゃんと必ず検査はするから……」
大和の言葉に、暖は無言でその場に座り込んだ。
「ところで、その……深呼吸の理由って何なんですか??」
李留が、全くわからないという風に大和に尋ねた。大和はそれを受けて、モニターに映像を映しだした。
「これを見て?粒子の拡大映像」
「何これ……まるで、刃が刺さってるみたいだ……」
その拡大された粒子は肺に突き刺さり、肺が拡張した途端、その壁面を切り裂きたくてウズウズしている様にすらみえた。
「肺が深呼吸で拡張すると、ようは肺が裂けてしまうといったらいいかな……こんな症例は正直初めてだからまだ確証はないけど、とりあえずそこに留意すれぱ、悪化する事は避けられるはずだ」
「そんな………それじゃまるで人工兵器だ……」
李留は呆然と立ち尽くした。
「とりあえず、母星に順番に帰還して、粒子の摘出処置を受けるって事でいいかしら?」
遥がまとめる様に、そう言うと大和は黙って頷いた。
「了解、私は母星にコンタクト取ってその旨を伝える事にするわ。李留君は、妖精さんを見つけて、アドバイスがないかを尋ねてちょうだい。大和は基地のクリーン作業を続けて?ベイとワッカと暖は大和のヘルプにまわってほしい。とりあえず、迅速に動きましょう。解散!」
遥の号令で、各々は未来の為に動き始めた。
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