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31話~彼女~
しおりを挟む「ごめん……俺、そんなつもりは……」
暖が困惑しながら、声を震わせた。
大和はわかっているという素振りで、空中を穏やかに見つめた。
メンバー皆、食事の手を止めて、そんな大和を見守った。
「暖が謝る事じゃない。俺の自己紹介のいわば核の部分。それを伝える事が出来た、ただそれだけの事だ」
大和はそう言うと立ち上がり、完全に動きを止めてしまっている遥に近寄って行った。
そして、遥のメモ用紙とペンを手に取ると、何かを走り書きしはじめた。
「遥、今の質問だと全員が受信出来た。それは恐らく、俺の想いの強弱で受信側のキャッチの強さも変えれるという事だ。それって凄い発見だよね?これは更に探求すべきだよ」
遥は走り書きされたメモ用紙を、「えぇ、そうね……」と、戸惑いながら受け取った
次に大和は真琴の傍に近寄ると、泣き続けている真琴の涙を右手でぬぐった。
「最初の質問の時から、色々をキャッチしすぎていたのが真琴だった。ごめんよ真琴。俺はいつも本当に意地悪だよな」
すると、それをスイッチにして、真琴がまるで子供よのうにわんわんと泣きはじめた。
沙羅は慌てて駆け寄ると、真琴の背中をさすった。
何とも形容しがたい空気が流れる中で、大和だけがひとり落ち着いていた。
「メンバーで、誰がキャッチ能力が強いか弱いかの判断が出来たのは大きい。明日からの任務に生かしていこうよ。特に、俺と真琴は特に波長があうみたいだ。」
大和は未だに泣き続ける真琴の傍に今一度近づくと、頭を二回軽く触れた。
すると、黙って聞いていた沙羅が、何かを決意したかのように唇を噛み締めたあと、立ち上がった。
「全部教えてほしいわ!それがあなたという人間を知る上での核だと言うのなら、私は知りたい。好きな人は亡くなった。それだけじゃ余計気になるし、私はこれから大和にどう接していいかわからない」
沙羅の言葉に、メンバー皆が言葉にせずとも同じ気持ちだった。
「わかった………」
大和は珈琲を手に取り口にしながら、昔話を語り始めた。
◇
大和が機関に入る事になったのは、わりと幼い年齢だった。能力と引き換えに支払われるお金はとても高額で、当時は誰もが子供が生まれたら、機関に志願させるのが普通でもあった。
大和は審査を通ると、すぐ機関に入る事になった。親はその契約金を受け取ると、消息が途絶えた。
機関に入ってくる子供達は、休みには親元へ帰っていった。
親に捨てられた事が、ショックでなかったと言ったら嘘になるけれど、機関での生活は充実して、何不自由なかったし、不思議と親を憎む感情は起きなかった。
ただ、休日に仲間達がいなくなった広いルームの空間を、持て余す時にわき起こる感情が、寂しさだという事だけは、認めたくない自分がいた。
その休日もいつもの様に、仲間達は親元へ帰っていった。大和はその頃から、1人で出来る開発や研究に没頭していった。
その日も、宇宙食の研究に没頭していた大和は、誰もいないはずのルームに人の気配を感じた。
見に行くと、いつもなら親元に帰っているはずの仲間の彼女が座っていた。
大和が「帰らなかったの?」と聞くと、「パパもママも死んじゃったの」と、そう答えた。
でも、大和にはその答えが嘘なのがわかった。
そして、彼女もまた、自分と同じ境遇になったという事も。
「そっか……」
大和は小さく返事をすると、彼女の横に黙って座った。
その次の休日も、そしてその次の休日も、大和は彼女を見つけては、傍らに座った。
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