MOON~双子姉妹~

なにわしぶ子

文字の大きさ
上 下
23 / 130

23話~ケア~

しおりを挟む

李留と沙羅のふたりは、李留の部屋に入ると早速、沙羅が李留にベッドに腰掛ける様指示をした。

「これでいいですか?」李留は言われた通り腰掛けると、沙羅を見上げた。

沙羅の能力がヒーリングだと、漠然と理解はしていたけれど、実際自分がしてもらった事はなかったし、その光景を目にした事もなかった。
李留は、今からはじまるケアに緊張し始めていた。

「のんびり座っていてくれたらいいわ。何だかケアとか持ち上げられちゃったけど、大した事は出来ないの。期待はずれになるかもしれない、その時はごめんなさいね」

沙羅はそう言うと、自分の右手を李留の胸にそっとあてた。

「僕が今一番疲れてるのは……心って事ですか?」

「ご、ごめんなさい!そんなつもりはなかったんだけど!」

沙羅は咄嗟に手を離すと、慌てふためいた。

「あ、なんか意地悪な言い方になっちゃいましたね……ごめんなさい沙羅さん。続けてください」

李留にそう言われて、沙羅は再び手を李留の胸にそっとあてた。

「小さい頃からね、真琴が転んで膝を擦りむいたりしたら、傷口にこうして手をあてて治していたの。放っておいても自然と身体が傷を治そう治そうとするものだけど、私にはそれを早める【ちから】があるみたい。」

「それはどんな傷にも効果が?」

「パパには無理だった。病が侵食するスピードが勝って効果は出なかったの。だから決して万能ではないの。李留君の疲れきった、心と身体の回復スピードをあげるように今してみてるけど……効果を感じられなかったらごめんなさい」

「いや、何だか急にリラックスしてきました。本当に急に……」

李留は、沙羅の手から伝わる温度を胸に感じ始めると、それに委ねながら、ゆっくりと目を閉じた。

「太陽とはどんな会話をしたの?」

突然沙羅にそう聞かれて、李留は目を開けると沙羅を驚いた顔で見上げた。

「いや、大和じゃないから私のあくまでこれは想像なのだけど。さっきの李留君の様子から考えたら、もしかしたら太陽とお話できたのかなって、そう思ったものだから」

「はい……太陽と会話出来ました……」

「そう………」

沙羅は、それを聞いてもさほど驚く事もなく、今度はしゃがみこむと、李留の胸の上に置いた自分の右手の上に、今度は左手を重ねた。

「何を話したか、聞かないんですか?」

李留は、今度はしゃがみこんでいる沙羅を見下ろしながら尋ねた。

「だって、話したくなさそうだから……」

沙羅はそう言うと、集中するかの様に両目を閉じた。

李留の胸にあてられた、沙羅の両手から伝わるあたたかな温度は、李留の身体中にひろがっていった。

「温度って大切なんですね。珈琲も熱すぎたら火傷する事もあるけど、ちょうどいい温度はこんなにもポカポカして心地いい……」

「なら良かった……」

「太陽は女性の声でした。僕がそう感じただけですけど」

「女性なの?何だか親近感沸いちゃった。それでどんな会話をしたの?答えたくなかったら、話さなくて全然かまわないけど……」

「いわば、僕の中の何かしらの【ちから】が翻訳機になってて、想いを受け止めて感じるだけなので、実際伝えたい言葉に翻訳出来てないかもしれませんが……太陽は、会いたいって言ってました」

「会いたい?誰に?」

「一緒に誕生した姉妹星か、それともお母さん星か……」

「そう……何だか流石に切ないな………。さぁ、終わったわ。李留君気分はどうかしら?」

「有り難うございます。今日はずっと気持ちが張りつめていたんですけど、何だかポカポカして温かな気持ちです、そして今度は眠くなってきたかもしれません。」

「温かいのは李留君が元々温かい心の持ち主だから。私はその部分を促進したに過ぎないわ。物足りない施術で申し訳なかったのだけど、今度はゆっくり横になって、本格的に身体をやすめてちょうだい。」

「はい………有り難うございます沙羅さん……おやすみなさ………」

そう言い終わるのを待たずに、李留はベッドに倒れこむと、すやすやと寝息をたてはじめた。

沙羅はその様子を確認すると、部屋の電気を消して部屋を出ていった。






「遅くなっちゃった……暖は起きてるかしら」


李留の後、ワッカとベイのケアを終えた沙羅は、暖の部屋にやってくると呼び出すスイッチを押した。

「お疲れ様沙羅、大丈夫?」

ドアを開けて現れた暖は、まず沙羅の心配をした。
沙羅は、そんな暖の心遣いに安心感を覚えながら、遅くなった事を謝り、暖の部屋へと入って行った。

「俺は正直みんな程疲れてないし、これなら沙羅の手間をかける必要ないとすら思ってるんだけど、どうかな?」

幼馴染みで、小さい頃から沙羅の能力を知る暖は
沙羅の意見をまず求めた。

「確かにそうね。暖はでも今からの方が大変なんでしょう?だって母星に送る資料は暖が全て作るんでしょう?」

「ああ。元々1人でコツコツと進める作業の方が得意だしね。今日の探査機での記録も今まとめていた所だよ。」

そう言って、端末の向きをかえて画面を沙羅に見せた。沙羅には全くわからない難しそうな色々を目にして、沙羅は「私には難しい」と言うかの様に首をかしげた。

「沙羅は小さい頃から、こういう系は本当に苦手だよな」

微笑みながら暖は、端末を自分の方に戻すと、作業の続きをはじめた。

「まだ終わりそうにないし、沙羅こそもう休みなよ。色々沙羅の方こそ疲れただろ?もし作業を終えた後に回復が必要そうだったら、その時にお願いするからさ。」

沙羅はそれを聞いて少し考え込んだあと、暖のベッドにごろりと横たわった。

「じゃあここで終わるのを待ってる。終わったら起こして?」

「は?何言って……」

暖が呆れて振り返ると、沙羅はもう眠ってしまっていた。

「本当、無防備すぎて心配になる……」

暖は暫く沙羅の寝顔を見つめた後、大きな深呼吸をひとつして、残りの作業へ戻っていった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜

SunYoh
SF
ーー22世紀半ばーー 魂の源とされる精神世界「インナースペース」……その次元から無尽蔵のエネルギーを得ることを可能にした代償に、さまざまな災害や心身への未知の脅威が発生していた。 「インナーノーツ」は、時空を超越する船<アマテラス>を駆り、脅威の解消に「インナースペース」へ挑む。 <第一章 「誘い」> 粗筋 余剰次元活動艇<アマテラス>の最終試験となった有人起動試験は、原因不明のトラブルに見舞われ、中断を余儀なくされたが、同じ頃、「インナーノーツ」が所属する研究機関で保護していた少女「亜夢」にもまた異変が起こっていた……5年もの間、眠り続けていた彼女の深層無意識の中で何かが目覚めようとしている。 「インナースペース」のエネルギーを解放する特異な能力を秘めた亜夢の目覚めは、即ち、「インナースペース」のみならず、物質世界である「現象界(この世)」にも甚大な被害をもたらす可能性がある。 ーー亜夢が目覚める前に、この脅威を解消するーー 「インナーノーツ」は、この使命を胸に<アマテラス>を駆り、未知なる世界「インナースペース」へと旅立つ! そこで彼らを待ち受けていたものとは…… ※この物語はフィクションです。実際の国や団体などとは関係ありません。 ※SFジャンルですが殆ど空想科学です。 ※セルフレイティングに関して、若干抵触する可能性がある表現が含まれます。 ※「小説家になろう」、「ノベルアップ+」でも連載中 ※スピリチュアル系の内容を含みますが、特定の宗教団体等とは一切関係無く、布教、勧誘等を目的とした作品ではありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サクラ・アンダーソンの不思議な体験

廣瀬純一
SF
女性のサクラ・アンダーソンが男性のコウイチ・アンダーソンに変わるまでの不思議な話

にゃがために猫はなく

ぴぴぷちゃ
SF
 我輩は宇宙1のハードボイルドにゃんこ、はぴだ。相棒のぴぴとぷうと一緒に、宇宙をまたにかけてハンター業に勤しんでいる。うむ、我輩の宇宙船、ミニぴぴぷちゃ号は今日も絶好調だな。ぴぴとぷうの戦闘用パワードスーツ、切り裂き王と噛み付き王の調子も良い様だ。さて、本日はどんな獲物を狩ろうかな。  小説家になろう、カクヨムでも連載しています。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

MMS ~メタル・モンキー・サーガ~

千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』 洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。 その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。 突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。 その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!! 機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!

処理中です...