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23話~ケア~
しおりを挟む李留と沙羅のふたりは、李留の部屋に入ると早速、沙羅が李留にベッドに腰掛ける様指示をした。
「これでいいですか?」李留は言われた通り腰掛けると、沙羅を見上げた。
沙羅の能力がヒーリングだと、漠然と理解はしていたけれど、実際自分がしてもらった事はなかったし、その光景を目にした事もなかった。
李留は、今からはじまるケアに緊張し始めていた。
「のんびり座っていてくれたらいいわ。何だかケアとか持ち上げられちゃったけど、大した事は出来ないの。期待はずれになるかもしれない、その時はごめんなさいね」
沙羅はそう言うと、自分の右手を李留の胸にそっとあてた。
「僕が今一番疲れてるのは……心って事ですか?」
「ご、ごめんなさい!そんなつもりはなかったんだけど!」
沙羅は咄嗟に手を離すと、慌てふためいた。
「あ、なんか意地悪な言い方になっちゃいましたね……ごめんなさい沙羅さん。続けてください」
李留にそう言われて、沙羅は再び手を李留の胸にそっとあてた。
「小さい頃からね、真琴が転んで膝を擦りむいたりしたら、傷口にこうして手をあてて治していたの。放っておいても自然と身体が傷を治そう治そうとするものだけど、私にはそれを早める【ちから】があるみたい。」
「それはどんな傷にも効果が?」
「パパには無理だった。病が侵食するスピードが勝って効果は出なかったの。だから決して万能ではないの。李留君の疲れきった、心と身体の回復スピードをあげるように今してみてるけど……効果を感じられなかったらごめんなさい」
「いや、何だか急にリラックスしてきました。本当に急に……」
李留は、沙羅の手から伝わる温度を胸に感じ始めると、それに委ねながら、ゆっくりと目を閉じた。
「太陽とはどんな会話をしたの?」
突然沙羅にそう聞かれて、李留は目を開けると沙羅を驚いた顔で見上げた。
「いや、大和じゃないから私のあくまでこれは想像なのだけど。さっきの李留君の様子から考えたら、もしかしたら太陽とお話できたのかなって、そう思ったものだから」
「はい……太陽と会話出来ました……」
「そう………」
沙羅は、それを聞いてもさほど驚く事もなく、今度はしゃがみこむと、李留の胸の上に置いた自分の右手の上に、今度は左手を重ねた。
「何を話したか、聞かないんですか?」
李留は、今度はしゃがみこんでいる沙羅を見下ろしながら尋ねた。
「だって、話したくなさそうだから……」
沙羅はそう言うと、集中するかの様に両目を閉じた。
李留の胸にあてられた、沙羅の両手から伝わるあたたかな温度は、李留の身体中にひろがっていった。
「温度って大切なんですね。珈琲も熱すぎたら火傷する事もあるけど、ちょうどいい温度はこんなにもポカポカして心地いい……」
「なら良かった……」
「太陽は女性の声でした。僕がそう感じただけですけど」
「女性なの?何だか親近感沸いちゃった。それでどんな会話をしたの?答えたくなかったら、話さなくて全然かまわないけど……」
「いわば、僕の中の何かしらの【ちから】が翻訳機になってて、想いを受け止めて感じるだけなので、実際伝えたい言葉に翻訳出来てないかもしれませんが……太陽は、会いたいって言ってました」
「会いたい?誰に?」
「一緒に誕生した姉妹星か、それともお母さん星か……」
「そう……何だか流石に切ないな………。さぁ、終わったわ。李留君気分はどうかしら?」
「有り難うございます。今日はずっと気持ちが張りつめていたんですけど、何だかポカポカして温かな気持ちです、そして今度は眠くなってきたかもしれません。」
「温かいのは李留君が元々温かい心の持ち主だから。私はその部分を促進したに過ぎないわ。物足りない施術で申し訳なかったのだけど、今度はゆっくり横になって、本格的に身体をやすめてちょうだい。」
「はい………有り難うございます沙羅さん……おやすみなさ………」
そう言い終わるのを待たずに、李留はベッドに倒れこむと、すやすやと寝息をたてはじめた。
沙羅はその様子を確認すると、部屋の電気を消して部屋を出ていった。
◇
「遅くなっちゃった……暖は起きてるかしら」
李留の後、ワッカとベイのケアを終えた沙羅は、暖の部屋にやってくると呼び出すスイッチを押した。
「お疲れ様沙羅、大丈夫?」
ドアを開けて現れた暖は、まず沙羅の心配をした。
沙羅は、そんな暖の心遣いに安心感を覚えながら、遅くなった事を謝り、暖の部屋へと入って行った。
「俺は正直みんな程疲れてないし、これなら沙羅の手間をかける必要ないとすら思ってるんだけど、どうかな?」
幼馴染みで、小さい頃から沙羅の能力を知る暖は
沙羅の意見をまず求めた。
「確かにそうね。暖はでも今からの方が大変なんでしょう?だって母星に送る資料は暖が全て作るんでしょう?」
「ああ。元々1人でコツコツと進める作業の方が得意だしね。今日の探査機での記録も今まとめていた所だよ。」
そう言って、端末の向きをかえて画面を沙羅に見せた。沙羅には全くわからない難しそうな色々を目にして、沙羅は「私には難しい」と言うかの様に首をかしげた。
「沙羅は小さい頃から、こういう系は本当に苦手だよな」
微笑みながら暖は、端末を自分の方に戻すと、作業の続きをはじめた。
「まだ終わりそうにないし、沙羅こそもう休みなよ。色々沙羅の方こそ疲れただろ?もし作業を終えた後に回復が必要そうだったら、その時にお願いするからさ。」
沙羅はそれを聞いて少し考え込んだあと、暖のベッドにごろりと横たわった。
「じゃあここで終わるのを待ってる。終わったら起こして?」
「は?何言って……」
暖が呆れて振り返ると、沙羅はもう眠ってしまっていた。
「本当、無防備すぎて心配になる……」
暖は暫く沙羅の寝顔を見つめた後、大きな深呼吸をひとつして、残りの作業へ戻っていった。
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