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4話~鞍馬~
しおりを挟む花屋を出た真琴は空を見上げた。
空には灰色の雲が覆い尽くしていて、何機もの機関の機体がパトロールの為に飛び交っていた。
星間戦争も幼い頃よりは少し収まっていて、小康状態を保っていたが、いつまた大きな攻撃が起こるかは誰にもわからなかった。
このまま平和な世界が訪れたら、大好きな花で埋め尽くされる、そんな美しい世界になるといいのに。
真琴は花一つ植えられていない無機質な、そしてゴミが散乱している道を歩きながらそう思った。
角を曲がると、カフェの看板が飛び込んできた。
テラス席もあるそのカフェ店で、双子の姉の沙羅が働いている。休憩時は、李留も真琴もそこで過ごすのが日課になっていた。
すると、テラス席に座りコーヒーを飲んでいる青年が真琴を見つけて、手を振って声をかけてきた。
「真琴こっちこっち!」
「鞍馬!」
真琴は笑顔で駆け寄ると、同じテーブルに腰かけた。
鞍馬と呼ばれた青年は、真琴が勤める花屋のオーナーで、普段は研究所勤めをしている、ふたりは最近付き合いはじめた恋人同士だった。
「オーナーなのに、またお姉ちゃんの所で油を売ったりして、駄目じゃない。」
真琴が少し冗談混じりの口調で詰め寄った。
「仕事は何処でも出来るからね。真琴のお給料は払えるから安心して。で、何にする?」
鞍馬は笑顔でメニュー表を真琴に手渡した。
「お客様、お決まりですか?」
気づくと、姉の沙羅がにこやかに横に立っていた。
「お姉ちゃんいつのまに。じゃあ鞍馬と同じコーヒーにしようかな。」
「かしこまりました♪」
沙羅は笑顔でそう告げると、キッチンへ向かおうとした。
「お姉ちゃん待って!さっき、暖が私の所へ来たの。」
振り返った沙羅は、少し寂しそうにしながら頷くと
「わかった、大事な話だしまた帰ったら相談しましょう。」
そう言うと、キッチンへと消えていった。
「どうしたの?何かあった?」
鞍馬が心配そうに、真琴の顔を覗き込んだ。
「ううん、気にしないで。」
真琴がそう笑顔で答えると、沙羅がトレーにコーヒーを載せて丁度向かってくる所だった。
◇
夜-
仕事から帰宅した沙羅と真琴は、早速相談をはじめた。
父親を助ける為には、機関に志願するのが一番の得策なのは、ふたり共理解をしていた。
それに現在機関に所属する暖の話では、父親が危惧するよりも任務の環境はそこまで悪いものでもなく、自宅から通う事は出来なくはなるものの、休暇もあるし、自由な時間も約束されているとの事だった。
「でも、星を離れる事もあるんでしょう?」
真琴が沙羅に尋ねた。
「暖の話だと、そんな任務は能力者でもかなり上のクラスだけみたい。私や真琴が入れたとしても、下っぱだろうし、そこは大丈夫じゃないかしら。」
「それもそうだよね。私達が宇宙服とかイメージ全然わかないかも。でも下っぱでも所属するとなると今の仕事は辞めないといけないんでしょ?それが私は少し寂しいかな。オーナーも李留君もとてもいい人だから。」
真琴は寂しげに呟いた。
「とりあえず、パパを説得して、機関に志願しテストを受けるのはいいかもしれない。私達はパパからサイキッカーだと言われてきただけで、ひょっとしたら全く箸にも棒にもかからないかもしれないしね。」
「お姉ちゃんのヒーリング能力なら大丈夫よきっと。私は小さい頃からいつも怪我や病気になっても治してもらってきたもの。問題は私ね、特に目立つ能力はないし。」
真琴はそう言うと、日中の仕事の疲れが出たのか
大きなあくびをした。
「今日はもう寝ましょう真琴。とりあえず、明日、暖にも来てもらってパパを説得してみるわ。志願をしてもいいかって。」
「パパは暖がお気に入りだから、きっと大丈夫ね。いいなぁお姉ちゃんは自慢の婚約者が傍にいてくれて。」
「親同士が決めた婚約よ。暖は迷惑に思ってるはず。それに、あなたこそ鞍馬と仲良しじゃない。」
沙羅の言葉に照れて顔を赤くした真琴を見て、沙羅は楽しそうに笑った。
「とりあえず、今日はもう寝ましょう。」
ふたりは、ベッドに横たわると灯りを消した。
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