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4話~志貴~
しおりを挟む新羅の文武王が藤原の宮を訪れたその日、大人達は色々な宴や会談を繰り拡げているようでしたが、子供である道代は完全に蚊帳の外で、父親であるはずの文武王との対面も無く、普段より宮が騒々しいくらいの認識で、いつもの様に庭で草花と戯れながら時を過ごしておりました。
史も同じくで道代と違い対面こそあれど、それは挨拶止まりの軽いもので、早々にその場から退出してきたその後は、道代の元へとやってきたのでした。
史を見つけた道代は、作りかけの花かんむりを慌てて地面に置くと、すぐ様駆け寄りました。
それ程に、宴の事が気になって仕方がなかったのです。
「史!ご挨拶はどうだった?ご馳走だらけだった?」
戻ってきた史に興味津々の道代は、早速まとわりつく様にくるくると史の周りをまわり始めると、矢継ぎ早に問い始めました。
「そうだね。確かにご馳走だらけではあったかな。見ただけだから、味までは流石にわからないけど」
その言葉を聞いて、更に目が輝き始めた道代に、史が事細かく宴の様子を話し始めていると、向こうの方から見知らぬふたり組が、歩いてやってくるのが見え始めました。
閉鎖的な場所で育った道代にとって、お客人は興味こそあれ警戒対象で、早速史の背中にしがみつく様にまわり込むと、人見知り全開で身を隠し始めました。
「大丈夫だって道代。あのおふたりは志貴皇子と大津皇子。名前くらいは知ってるだろう?」
「えっと…志貴皇子は天智帝のご子息で、大津皇子は天武帝のご子息……」
「よく覚えてました」
史はそう微笑むと、既に顔見知りの様子でふたりに向かって大きく手を振ってみせました。
「やぁやぁ、こんな所に居たのかい?君を探していた所なんだよ」
そう気安い口調で近づいてきたのは、志貴皇子。
史とは歳もそう変わらない若者で、既に色々面識があるらしく、とても仲の良いようでした。
「あぁすまない。私は早々に退散してしまったからね。あ、紹介しよう、此方が道代」
「あぁ!!貴方様が文武王の!?噂はかねがね聞いております。仲良くしてくださいね」
人懐っこい笑顔で話しかけてきた志貴皇子に、カチコチに身体を強ばらせながら、道代はコクリと頷きました。
「いつもは手に負えないお転婆姫なんだけどね、恥ずかしいらしくて」
「いやいや気にするな。では姫様、私は少し史と積もる話があるのです。この大津と遊んでやっては頂けませんか?」
志貴皇子はそう言って、道代と歳はそう変わらなく見える大津皇子の両肩に手を置くと、ぐいっと差し出すかの如く背中を押してみせました。
「は、はじめまして!大津にございます!」
声変わりもまだの、可愛らしい声でそう挨拶をした大津皇子に興味が沸いたらしい道代は、おそるおそる史の背中越しに顔を出すと、今度は史を見上げました。
「じゃあ、ふたりでお庭で遊んでいてもいい?」
「あぁ、少しだけお願い出来る?」
「わかった」
もじもじとしながら、道代は大津皇子の右手を掴むと
次の瞬間にはもう庭に向かって、引きずる様に走り出していました。
「ハッハッハッ、噂通りの元気な姫様だ。これは少し歌を詠みたくなってしまったかもしれないぞ」
楽しそうに笑う志貴皇子とは裏腹に、史は苦笑いを浮かべながら
「歌詠みはいいから、折角会えたのだから色々を直接手解き願いたい」
そう、志貴に伝えました、
その真剣な顔つきに全てを察した志貴は、周囲に人が居ないかの確認をしたその後に、声を潜めて言いました。
「八咫烏の事か」
「あぁ勿論だ。そなたは正式にそこに属したと聞いたが、本当なのか」
「あぁ、天智帝の子とて母親の身分で左右されてしまうからな。私などはその世界に進むのが正解なのだ」
「それは私こそ同じくだ。おば上からも草壁様の為、ゆくゆくはそうなる様に言われている」
「史、お前は違う。お前は表の人間」
「何を申す、そんな事はありえない」
「まぁいずれわかる。ただ表であれ裏であれ、これからはどちらの事も理解していて損はない。だからこれからもお互いの学びの交換をしてほしい」
「勿論だとも、これからもよろしく頼むぞ」
ふたりの若者は力強い笑顔を交わしあうと、遊んでいる道代と大津に視線を向けました。
そこにはさっきまで人見知りをしていたとは思えない、子供ふたりが仲良く遊んでいる姿があり、それはとても平和な光景でもありました。
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