なにわしぶ子

文字の大きさ
上 下
4 / 14

4話~志貴~

しおりを挟む




新羅の文武王が藤原の宮を訪れたその日、大人達は色々な宴や会談を繰り拡げているようでしたが、子供である道代は完全に蚊帳の外で、父親であるはずの文武王との対面も無く、普段より宮が騒々しいくらいの認識で、いつもの様に庭で草花と戯れながら時を過ごしておりました。


史も同じくで道代と違い対面こそあれど、それは挨拶止まりの軽いもので、早々にその場から退出してきたその後は、道代の元へとやってきたのでした。


史を見つけた道代は、作りかけの花かんむりを慌てて地面に置くと、すぐ様駆け寄りました。
それ程に、宴の事が気になって仕方がなかったのです。


「史!ご挨拶はどうだった?ご馳走だらけだった?」

戻ってきた史に興味津々の道代は、早速まとわりつく様にくるくると史の周りをまわり始めると、矢継ぎ早に問い始めました。

「そうだね。確かにご馳走だらけではあったかな。見ただけだから、味までは流石にわからないけど」

その言葉を聞いて、更に目が輝き始めた道代に、史が事細かく宴の様子を話し始めていると、向こうの方から見知らぬふたり組が、歩いてやってくるのが見え始めました。


閉鎖的な場所で育った道代にとって、お客人は興味こそあれ警戒対象で、早速史の背中にしがみつく様にまわり込むと、人見知り全開で身を隠し始めました。


「大丈夫だって道代。あのおふたりは志貴皇子と大津皇子。名前くらいは知ってるだろう?」

「えっと…志貴皇子は天智帝のご子息で、大津皇子は天武帝のご子息……」

「よく覚えてました」

史はそう微笑むと、既に顔見知りの様子でふたりに向かって大きく手を振ってみせました。

「やぁやぁ、こんな所に居たのかい?君を探していた所なんだよ」

そう気安い口調で近づいてきたのは、志貴皇子。

史とは歳もそう変わらない若者で、既に色々面識があるらしく、とても仲の良いようでした。

「あぁすまない。私は早々に退散してしまったからね。あ、紹介しよう、此方が道代」

「あぁ!!貴方様が文武王の!?噂はかねがね聞いております。仲良くしてくださいね」

人懐っこい笑顔で話しかけてきた志貴皇子に、カチコチに身体を強ばらせながら、道代はコクリと頷きました。

「いつもは手に負えないお転婆姫なんだけどね、恥ずかしいらしくて」

「いやいや気にするな。では姫様、私は少し史と積もる話があるのです。この大津と遊んでやっては頂けませんか?」


志貴皇子はそう言って、道代と歳はそう変わらなく見える大津皇子の両肩に手を置くと、ぐいっと差し出すかの如く背中を押してみせました。


「は、はじめまして!大津にございます!」


声変わりもまだの、可愛らしい声でそう挨拶をした大津皇子に興味が沸いたらしい道代は、おそるおそる史の背中越しに顔を出すと、今度は史を見上げました。


「じゃあ、ふたりでお庭で遊んでいてもいい?」

「あぁ、少しだけお願い出来る?」

「わかった」


もじもじとしながら、道代は大津皇子の右手を掴むと
次の瞬間にはもう庭に向かって、引きずる様に走り出していました。


「ハッハッハッ、噂通りの元気な姫様だ。これは少し歌を詠みたくなってしまったかもしれないぞ」

楽しそうに笑う志貴皇子とは裏腹に、史は苦笑いを浮かべながら

「歌詠みはいいから、折角会えたのだから色々を直接手解き願いたい」

そう、志貴に伝えました、

その真剣な顔つきに全てを察した志貴は、周囲に人が居ないかの確認をしたその後に、声を潜めて言いました。

「八咫烏の事か」

「あぁ勿論だ。そなたは正式にそこに属したと聞いたが、本当なのか」

「あぁ、天智帝の子とて母親の身分で左右されてしまうからな。私などはその世界に進むのが正解なのだ」

「それは私こそ同じくだ。おば上からも草壁様の為、ゆくゆくはそうなる様に言われている」

「史、お前は違う。お前は表の人間」

「何を申す、そんな事はありえない」

「まぁいずれわかる。ただ表であれ裏であれ、これからはどちらの事も理解していて損はない。だからこれからもお互いの学びの交換をしてほしい」

「勿論だとも、これからもよろしく頼むぞ」

ふたりの若者は力強い笑顔を交わしあうと、遊んでいる道代と大津に視線を向けました。


そこにはさっきまで人見知りをしていたとは思えない、子供ふたりが仲良く遊んでいる姿があり、それはとても平和な光景でもありました。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

かぐや姫が月に連れてかれそうになったがおじいさんおばあさんが猛抗議した(AIが全部書きました)

名無し
歴史・時代
かぐや姫が月に連れてかれそうになったがおじいさんおばあさんが猛抗議した

狩野岑信 元禄二刀流絵巻

仁獅寺永雪
歴史・時代
 狩野岑信は、江戸中期の幕府御用絵師である。竹川町狩野家の次男に生まれながら、特に分家を許された上、父や兄を差し置いて江戸画壇の頂点となる狩野派総上席の地位を与えられた。さらに、狩野派最初の奥絵師ともなった。  特筆すべき代表作もないことから、従来、時の将軍に気に入られて出世しただけの男と見られてきた。  しかし、彼は、主君が将軍になったその年に死んでいるのである。これはどういうことなのか。  彼の特異な点は、「松本友盛」という主君から賜った別名(むしろ本名)があったことだ。この名前で、土圭之間詰め番士という武官職をも務めていた。  舞台は、赤穂事件のあった元禄時代、生類憐れみの令に支配された江戸の町。主人公は、様々な歴史上の事件や人物とも関りながら成長して行く。  これは、絵師と武士、二つの名前と二つの役職を持ち、張り巡らされた陰謀から主君を守り、遂に六代将軍に押し上げた謎の男・狩野岑信の一生を読み解く物語である。  投稿二作目、最後までお楽しみいただければ幸いです。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

後悔と快感の中で

なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私 快感に溺れてしまってる私 なつきの体験談かも知れないです もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう もっと後悔して もっと溺れてしまうかも ※感想を聞かせてもらえたらうれしいです

永遠より長く

横山美香
歴史・時代
戦国時代の安芸国、三入高松城主熊谷信直の娘・沙紀は「天下の醜女」と呼ばれていた。そんな彼女の前にある日、次郎と名乗る謎の若者が現れる。明るく快活で、しかし素性を明かさない次郎に対し沙紀は反発するが、それは彼女の運命を変える出会いだった。 全五話 完結済み。

朱元璋

片山洋一
歴史・時代
明を建国した太祖洪武帝・朱元璋と、その妻・馬皇后の物語。 紅巾の乱から始まる動乱の中、朱元璋と馬皇后・鈴陶の波乱に満ちた物語。全二十話。

御懐妊

戸沢一平
歴史・時代
 戦国時代の末期、出羽の国における白鳥氏と最上氏によるこの地方の覇権をめぐる物語である。  白鳥十郎長久は、最上義光の娘布姫を正室に迎えており最上氏とは表面上は良好な関係であったが、最上氏に先んじて出羽国の領主となるべく虎視淡々と準備を進めていた。そして、天下の情勢は織田信長に勢いがあると見るや、名馬白雲雀を献上して、信長に出羽国領主と認めてもらおうとする。  信長からは更に鷹を献上するよう要望されたことから、出羽一の鷹と評判の逸物を手に入れようとするが持ち主は白鳥氏に恨みを持つ者だった。鷹は譲れないという。  そんな中、布姫が懐妊する。めでたい事ではあるが、生まれてくる子は最上義光の孫でもあり、白鳥にとっては相応の対応が必要となった。

明日の海

山本五十六の孫
歴史・時代
4月7日、天一号作戦の下、大和は坊ノ岬沖海戦を行う。多数の爆撃や魚雷が大和を襲う。そして、一発の爆弾が弾薬庫に被弾し、大和は乗組員と共に轟沈する、はずだった。しかし大和は2015年、戦後70年の世へとタイムスリップしてしまう。大和は現代の艦艇、航空機、そして日本国に翻弄される。そしてそんな中、中国が尖閣諸島への攻撃を行い、その動乱に艦長の江熊たちと共に大和も巻き込まれていく。 世界最大の戦艦と呼ばれた戦艦と、艦長江熊をはじめとした乗組員が現代と戦う、逆ジパング的なストーリー←これを言って良かったのか 主な登場人物 艦長 江熊 副長兼砲雷長 尾崎 船務長 須田 航海長 嶋田 機関長 池田

処理中です...