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3章 真田家
92話~再会~
しおりを挟む「まぁ、そんな所だろうか」
小助が道の顔を見ながらそう言うと、道は両腕を組んで小刻みに何回か頷きました。
「つまり?瀧夜叉姫の呪いがかかった品、表向きは将門討伐の有名な品だと、実際とは逆の意味で【宝】として伝わった。呪った相手に受け継がれる様に用意周到に仕組まれた罠。小助、そういう事?」
道のその言葉に、小助は無言で肯定も否定もせず、六郎と道の顔を交互に見ました。
そんな六郎も無言で右手で顎を掴みながら、地図を凝視し始めたのでした。
「まぁ今も呪詛の掛け合い等当たり前だからな。そうかもしれないし違うかもしれない。過去の呪いか?今の呪いか?もはやごったで区別等つかぬだろう。ただ……」
「ただ……?何なの?六郎」
道は食らいつく様に今度は六郎の顔を覗き込むと、次の言葉を急かしました。
「色々を知ってしまった以上、黙って手をこまねいている場合でもあるまい、勿論そこに呪いがあれば?の話ではあるが」
「そうね……茶々様の身にこれ以上災いが降り注ぐなんて、たまったもんじゃないわ!!」
「ところで道、お前ならこの池に行けば色々がわかるのではないか?お犬様の記憶の蘇りも気になる所」
六郎の言葉に道は目を丸くすると、再度目の前に拡がる地図に視線を落としました。
「今はわからない……でも、久しぶりにお犬様にはお会いしたいかも」
そんな道の姿に、小助と六郎は目くばせをして頷くと、小助はその場からゆっくりと立ち上がりました。
「道が龍安寺へ行ける様、俺が今から色々を整えて来よう。では……」
その言葉を言い終わるや否や、小助の姿はもうそこには無く、不安そうに小助の居た場所を見つめ続ける道に、六郎がこう言いました。
「案ずるな道、お前なら大丈夫だ」
*
「まぁまぁ饗庭殿!お元気そうで何よりでございますなぁ、さぁさぁ中へ!中へ!」
日差しが照りつけるよく晴れた日、壺衣装に身を包んだ道が龍安寺に到着すると、お犬の方が笑顔で出迎えていました。
「お犬の方様、お久しぶりでございます」
道は懐かしい気持ちに包まれながら、お犬の方に中へと誘(いざな)われていったのでした。
*
龍安寺は、仁和寺のすぐ傍にある寺で、静かで穏やかな空気が流れていて、旅で疲労した道の身体をとても癒してくれました。
早速、綺麗に手入れのされた庭が見える一室に通された道は、日々の色々を忘れ、部屋に流れ込むそよ風を身体全体で受け止めていました。
「さぁ饗庭殿、喉が乾いたでしょう?座って一服なされませ」
にこにこと穏やかな笑顔を浮かべながら、お犬の方は道の為にお茶を差し出すと、自らもそこへと座ったのでした。
「有り難うございます、頂戴致します」
道はお茶を口にすると、早速ふたりで安土城での昔話に花を咲かせ始めたのでした。
「自分は死んだ事にし安土の城へ赴き、姫様達のお世話をしたあの日々が、昨日の事の様でございます」
「本当に……茶々様もお犬様に会いたがっておられました」
「そうですか……私も同じ気持ちだと、是非お伝え下さいませ」
お犬の方は、少し寂しそうに微笑むとゆっくりとその場に立ち上がりました。
「では早速、お話は聞かれていると思いますが、その鏡容池に案内致しましょうか」
「は、はい……」
道は緊張から少し顔を強ばらせ、大きくその場で息を吸い込みました。
「大丈夫、とても美しい池なのです。池には小舟もあるのですよ。平安京があった頃、公家の方々はよく、この池に舟を浮かべて楽しんだのだとか」
「それは優雅でございますなぁ」
「優雅なままであらば、良かったのですが……」
お犬の方は、伏し目がちに残念そうにそう呟くと、道に向かって軽く頷いて、先を歩き始めました。
そしてそれを見た道は、慌てながらもお犬の方の後を追ってついて行ったのでした。
*
「池の中に小島が………?」
鏡容池についたふたりは、畔から真っ直ぐ延びた道の先にある、小島に向かって歩いていました。
「ここは、秀吉様がお造りになったのです。この池には霊力があるとか何とか申されて、弁財天様も祀られているのですよ?」
「まるで、竹生島……」
「饗庭殿もそう思われましたか?実を言うと私も、そう感じでいたのです」
小島の中に鎮座する弁財天社に辿り着いたふたりは、早速目を閉じると、手を合わせ始めました。
「厳かな場所……ここでそんな人身御供があったなんて思えませんね」
道は小島から、池全体を見渡しました。
池の水面は風によって美しい波紋を描き、陽の光がキラキラと、その波紋に彩りを足していました。
「私はその時代、将門公の妻の一人であった桔梗の前なようで、そうここ、ここから入水したみたいなのです。真っ直ぐな姿勢のままドボン!!と!」
お犬の方は、過去生の記憶の再現をするかの様に、道の前で飛び込む仕草をしてみせてくれました。
「うっ………」
その姿を傍らで見ていた道は、急に頭を抑えて蹲ってしまいました。
「饗庭殿!!大丈夫ですか!饗庭殿!」
お犬の方が、慌てて駆け寄り背中をさするも、道の呼吸は荒く額には脂汗を浮かべ、ぎゅっと固く目を瞑り続けています。
「申し訳ございませぬ……やはり私はここに来た事があるみたいで……その時の場面がとても鮮明に視界を覆い尽くしたものですから」
「まぁまぁ、それは何て事でありましょう」
お犬の方が、口をあんぐりと開けて驚きながら道を見守っていると、急に池の中央に大きなしぶきが立ち上がりました。
「龍が…………」
その池の中から突如現れた龍の姿にふたりは驚きながら、その龍の泳ぐ姿をただ見つめ続けたのでした。
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