忍者の子

なにわしぶ子

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3章 真田家

73話~真田~

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「あのクソ坊主……こんなの押し付けておいて、何が後は任せたよ、ふざけんじゃないわよ!!」

月明かりに照らされながら、安土城の大手道とは逆の裏道から天主を目指していた道は、仁王門の前で首の入った瓶を地面にごとりと置くと、自分もその場に座り込んで夜空を見上げました。


「あぁやだやだ……
ここにはあたしの敵しかいない」


そう言った瞬間、右足に喰らいついていたマムシを右手で乱暴に引き剥がした道は、懐から取り出した小刀でそれを真っ二つに仕留めると、マムシに噛まれた箇所から毒を絞り出す様に指で押し出し始めました。


「大丈夫かって?聞くくらいなら助けなさいよ!
仁王はいつも口ばかり、だから嫌いなのよ。
あたしマムシに噛まれすぎて育ったから
少しの毒くらい、何ともないの!
これくらい………平気なんだから……」

道は、目の前の仁王門に鎮座する金剛力士像に向かって
まるで、人間に対する様に強がった対話をすると
再び瓶を両手に抱え、天主に向かって歩き始めました。

暫くして右手に三重塔が現れると、左手には
先日能を舞った、摠見寺の本堂が見えてきました。

ここで、信長からひどく折檻された事を思い起こした道は
今は両手の中にあるそれに、ある種の虚しさを感じました。

さぁ早くやらなくちゃ……
夜が明けちゃう……

道は瓶を抱え直すと、再びひたすらに山道を進み始めました。








やっと到着した天主。

5層7階の八角形の望楼と、金箔が施された煌びやかな瓦。
信長が天守閣を【天主】と名付けた、その中に忍び込んだ道は、一重目の中央に向かって歩いて行くと、瓶をそっと起きました。

そこから見上げた天主の空間は、吹き抜けになっていて
織田信長がこだわって造ったという、神の為の空間がそこにありました。

道は首が痛くなるくらいに、じっと真上を見続けると
ポロポロと涙を溢し始めました。


「城に帰ってきたんじゃないわ……
あんたはもう、死んでるのよ………」


道は右手の袖で涙をゴシゴシと拭き取ると、
天主内部のあちこちに、隠してあった
沢山の手毬を並べ置き始めました。


「折檻して悪かった?家康の機嫌を損なわない為には仕方なかった?今更そんな事どうでもいい。私は言われた事をやっただけ、そして今からも言われた事をやる、ただそれだけなの」


道は誰も居ない空間に向かって語りかけると、瓶を置いたまま「またね」と、最後の言葉を残して外へと出て行きました。


暫くの後

天主が轟音の中爆破で粉々に吹き飛ぶと、本丸と共に焼け落ち、そしてそれは、原因不明で処理をされたのでした。








時が流れ、1585年

小助、道の2人は任務の為、馬取りとして六郎が
潜入している真田家にやってきていました。

真田家は東信濃の古くからの豪族で、滋野氏の流れを汲む海野氏の分流。元は武田信玄の家臣で、当主の真田昌幸がかなりの奇才として名を轟かせていました。








「馬子にも衣装とはまさにこの事」


小助は、旅芸人の姿で化粧を施した
道の姿を見ながら、そう茶化して言いました。


「小助の意地悪!さぁ始まったわ早く隠れて」


道はふくれながらも小助にそう告げると
お囃子に導かれる様に、躍りながら
今日の舞台へと出ていきました。


そこは真田家の屋敷の庭で、屋敷の中では、武士の面々がずらりと顔を揃えていて、庭で繰り広げ始めた華やかな躍りに釘付けの様子でした。


(えっと……あの人達が、この家の若殿様おふたりかしら……)


道は、その武士の中で殿様の傍らに座る若いふたりを見つけると、躍りながら近づいていき、にっこりと微笑みかけました。


若殿ふたりが面くらっていると、すかさず道は自分の左手を扇子で仰ぎはじめました。
すると、左手からは花びらが溢れ、花吹雪が辺り一面に降り注ぎはじめました。


ウワァ………


感嘆の声が武士達の口から溢れ、お囃子の音色はそれを増長させるかの如く強さが増されて、辺りは更に賑やかになりました。

道が更に躍り続けていると、傍にずらりと控えていた家臣の中のひとりが、その躍りに突如参入してきました。

「殿の御前で、な、何をしておる!」

老中が慌てて、それを止めるべく立上がろうとすると、真田昌幸が「かまわぬ」と、それを笑顔で制止しました。

道と、呼吸を合わせながら躍り続けるその家臣の舞に、皆が見惚れていると


「父上、あの家臣は源二郎にとても似ておりますなぁ」

と、真田昌幸の子で、長兄である源三郎が語りかけました。

「兄上の言う通りにございます。今まで気づきませんでした。あんな家臣がおったとは……」

次男である源二郎は、その家臣の顔に釘付けになっていました。


「うむ。言われてみればよく似ておる……」


真田昌幸は顎に手を当てながら、食い入る様にその家臣の顔と、我が子の顔を見比べました。

そんな会話が繰り広げられているうちに、お囃子はゆるやかにその音色を奏でるのを止めて

道と、踊っていた家臣も踊る事を終えると、昌幸の前に赴き、静かにひれ伏しました。

昌幸は拍手しながら躍りの称賛をし、道は家臣から渡された小判を受け取ると、その場を立ち去っていきました。

「ところで、そなたの名は何と申す」

飛び入りで舞ったその家臣に、殿様は声をかけました。

「馬取りをしております、六郎と申します」

「六郎、天晴れな舞であった。今日からは、源二郎付きになるといい。よいな?」

「あ、有り難き幸せにございます!」

六郎は更に深く、ひれ伏しました。

「父上、どういう事にございますか」

意図がわからない源二郎は、父に尋ねました。

さっきまで存在すら知らなかった家臣を、自分付きにする等、何か魂胆がなければそんな事をするわけがないはず、そう思ったからです。

すると、父である真田昌幸がこう言いました。


「六郎には、源二郎、そなたの影武者になってもらう。名案であろう?」




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