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1章 浅井家
24話~小谷城の戦い~
しおりを挟む信長は調略等も繰り広げながら、着々と侵攻を進めていました。
そんな中、山本山城主である、阿閉貞征が織田方へ寝返ると、信長は浅井への本格的な侵攻を開始、虎御前山に本陣を置いたのでした。
それでも信長は、荒ぶる家臣達を抑え浅井に無理矢理攻め入る事をすぐにはしませんでした。
それはやはり、娘の市の事を想い、何とか和睦したい、そう思っての事だったのかもしれません。
一方長政は、市や子供達、久政や小野殿、家臣達と共に小谷城に籠城しておりました。
自然の要塞であるこの山城、なかなか落とせはしまい、そう意気込んでいた長政でしたが、見るからに勢いと軍勢を持つ織田信長軍を目の前にして、離反が相次ぎ、風向きはどんどん厳しいものになっていったのでした。
そんな最後の頼みの綱であったのが朝倉義景でしたが、義景の優柔不断な性格が災いし、あっさりと信長に攻めこまれると、義景は自刃。そして、朝倉家は滅びてしまったのでした。
その一報を聞いた長政は、ひとり覚悟を決めていました。浅井の当主として、この小谷城で散れるは本望。しかし、市や子供達は助けなければ……
すると、織田信長より文が届きました。
「正直、ここまで和睦の申し入れを……最後のこの時まで言われるとは思わなかった。少なからず信長殿は、私の事をかってくれていたのだろうか」
長政は静かに筆を取ると、市を始めとする子供達の保護の願いをしたため、浅井は最後まで戦うと、そう文を送り返したのでした。
*
小谷城の本丸で、市は生まれたばかりの江姫を抱きながら、茶々と初と身を寄せあっていました。
「兄上!父上!」
茶々が声をあげると、万福丸を連れた長政と小野殿が姿を現しました。
「市、今まで本当に苦労をかけた……あとの事は信長殿にお願いしてある。子供達を連れて、織田に戻るように」
「そんな……まだ浅井が負けたわけではございませぬ!それに、市は浅井の人間、長政様と最後まで共に戦いまする!」
長政は優しく微笑むと、市の流れ落ちる涙を拭うように、右の掌で包み込みました。
「浅井の血を残して欲しい。それが出来るのは市、お前しかいないのだ」
「浅井の血…………」
その父と母の光景を、茶々だけはまっすぐ真剣に見つめていました。
「万福丸は、久政殿の居る小丸からわたくしが余呉湖へ逃がすゆえ、市は心配せずともよい。信長も嫡男を保護するつもりはないだろう、捕まれば最後命はないはず。離れ離れになってはしまうが、そこは耐えてほしい。さぁ万福丸、母上様にお別れの挨拶をするのです」
小野殿に促された万福丸は、市の前に歩み寄ると大きく深呼吸をしました。
「母上………万福丸は必ず生き延びてみせまする。それまでどうかご無事で」
長政に似て立派な体格の万福丸は、七つとは思えぬその風貌のせいで、とても大人びて見え、そしてそれは頼もしさすら感じさせました。
「母上、万福丸を……どうか宜しくお願い致します。万福丸、必ず生き延びよ……そして浅井を、浅井をいつか建て直すのです」
市は万福丸を泣きながら強く抱きしめ、ただならぬ空気に泣き出した江を、市に変わって抱き上げた長政は、父の顔で優しくあやしました。
傍から見れば、絵に描いた様な幸せな一家の光景にも映り、それが逆に悲しみを誘ったのでした。
*
夜―
秀吉の兵が、攻撃を始めると京極丸をたちまち占拠しました。
「もはやこれまで……」
小丸で応戦していた久政でしたが、追い詰められ家臣と共に自害。
それを受けて小野殿は、すぐさま家臣の大野木秀俊を呼ぶと万福丸を託し、城外へと逃がしたのでした。
小丸に、信長の家臣達が荒々しくやってくると、小野殿は取り囲まれました。
「浅井久政殿が室、小野殿で間違いないか!」
小野殿はにこりと微笑むと、「いかにも」と囁く様に答えました。
家臣達はお互いを見て頷くと、ひとりの家臣を残し立ち去っていきました。
残った信長家臣は、刀を持ちながら恐る恐る小野殿に近づくと、武器を持っていないかの確認を始めました。
「これより、城を出て信長様の所へ来て頂きます、さぁ参りましょう」
家臣が促す様に手を差しのべると、目の前から忽然と小野殿の姿が消え、家臣は驚きのあまり言葉を失いながら、刀を構え直すと、辺りをキョロキョロと見渡しました。
「ど、どういう事だ!!小野殿様!!」
すると、家臣の右の背後から肩越しにゆっくりと刀の刃先が伸びてきたかと思うと、きらりと光を放ち始めました。
「何を慌てておるのです」
そう耳元で急に言われた家臣は、驚きと恐怖で身動きひとつ取れないまま固まると、その場に自分の刀を落とし、降伏の意思を示しました。
小野殿は刃先を向けたままゆっくりと、家臣の前方に周り込むと、落とされた刀を拾いあげました。
「信長殿にもはや用はない、私が話があるのは明智光秀ただひとり、さぁ案内をして頂きましょう」
家臣はこくりと頷くと、小野殿と共に小丸から消え去ったのでした。
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