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第71話 愛の奇跡

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勇者とデュラハンの戦いは激しいものになった。剣が火花を散らせ激しく打ち合う。勇者は隙を付くと古代兵器のコアに光り輝く光線を放つ。古代兵器はその度に瓦解していく。
「やるな勇者」
女デュラハンが息を切らせながら勇者に言葉を放つ。
「なぜ戦う?」
勇者が訪ねる。
「私の正義のためだ」
「正義なんて曖昧な答えだな」
「何?」
「争いなんて自分のエゴだよ。それを正当化して互いが正義をかざすのが戦争だ」
「それでは何故お前は戦う?答えろ勇者」
「守りたい奴がいるからさ」
そして再び激しい戦闘が繰り広げられる。後ろから振られる剣を回避し、前から振りかぶってくるものは受け流す。そしてカウンターで輝く光をデュラハン達に当てる。それがしばらく続く。
(ん?)
不意に目の端で落ちていくものが見えた。
(ハイネか!)
ハイネが落ちていくのを山中 剛の視界に入る。しかし強化されたデュラハン相手に助けに行けない。
(俺は・・・また大事な仲間を救えないのか・・・)
勇者は召喚前の事を思い出す。

西野 翔と出会ったのは高1の頃、同じクラスだった事から始まる。当時の剛は人間不信だった。幼いころ離婚した両親。両親ともに不倫し憎悪の中での離婚。
そんな剛達を祖父が養子として迎えてくれた。そして父の突然の死と何時しか始まる実母からの金の無心。実母は高校を辞めて養えとまで言ってくる。兄と祖父に守られていたがそれでも兄弟たちに金絡みで迷惑を掛けてくる。兄は社会人になっていた。法定代理人を付け接触禁止を言い渡した。それでも激しく辛い気持ちで支配されていた。そんな時に優しくしてくれたのが翔だった。翔も義理の母親から性的虐待を受けていた。初めは傷を舐め合うように。何時しか2人はお互いを求めあった。そして2人は結ばれた。しかし幸せな時間は直ぐに終わる。翔の死によって。

(俺は・・・無力だ)
散りゆく仲間、墜落する飛行船。剛の心はダメージを受ける。誰も死なせたくない。翔を守りたい。本当は人間が、仲間が大好きだ。剛の中にある愛情が強くなる。これ以上仲間を傷つけさせたくない。
“剛さん”
アプロディーテの声が頭に響く。
「アプロディーテ。俺はみんなを愛している。誰も失いたくない」
勇者は剣を力強く握る。その時、アプロディーテの聖力と勇者の力が重なった。
「勇者・・・お前のどこにこんな力が・・・」
女デュラハンが恐れおののく。
「愛の力だ」
そう言うと勇者は剣を捨てデュラハン達を抱きしめた。
「皆、愛ゆえに苦しんだ。それでも俺は愛したい。お前たちの悲しい心も包みたい」
勇者から大きな力が流れ出る。
「なぜ・・・涙が・・・」
デュラハン達が涙する。古代兵器のコアの中にある魂も泣いている。
「俺は君たちが受けた傷を癒せない。過去も変えられない。せめて温もりを与えることしか・・・」
「俺は・・・家族に裏切られて・・・殺されて・・・」
「俺は愛していた妻に裏切られ・・・生贄にされ・・・」
デュラハン達が口々に自分の過去の出来事を口にしだす。
「そんな事で・・・」
ガラリアが剛の足に剣を突き刺す。
「何故避けない・・・」
そう言うガラリアを剛は抱きしめた。
「離せ!私はこの世が嫌いだ!神が嫌いだ!勇者が嫌いだ!」
ガラリアの心が剛に流れ込んでくる。

500年前、少女は宗教指導者の言葉によって聖女として祭り上げられた。友人はユニコーンと無理やり契約させられていた。女の幸せを強制的に放棄させられる友人たち。世界はアンデッドによって滅ぼされようとしていた。彼女は剣をとり兵を導く。そして勇者たちと出会った。勇者は神の使いだと名乗った。そして彼女を聖女としたのは勇者だ。その事実を死の直前に伝えられる。
勇者はユニコーンと契約した乙女たちを各地で汚した。その度に浄化される世界。そして苦痛と共に死にゆく乙女たち。彼女は勇者に激しく意見した。しかし勇者の行動は変わらない。親友が汚されかけた時、彼女は剣を抜く。しかし男達に取り押さえられる。そして惨めに汚される親友を見守る事しかできなかった。勇者は笑っていた。こいつは悪魔だと思った。神に祈った。悪魔でも良いから助けてほしいと願った。しかしその願いが叶う事はなかった。そして彼女は勇者に汚され、他の兵士に順番に汚されていく。
最後は木に縛られアンデッドをおびき出す餌にされた。彼女に群がるアンデッド。はらわたが食いちぎられ腕がもがれる苦痛。それを勇者は笑いながら見ていた。誰も助けてくれない。そして、彼女はアンデッドと共に焼かれた。全てを呪った。神を呪った。その激しい憎悪が彼女をデュラハンに変えた。

「勇者、私はこの世界を許さない。親友を奪ったこの世界を。家族を無残に殺したこの世界を。私は許さない」
彼女は涙ながらに叫ぶ。勇者はただ刺されるままだ。
「なぜ反撃しない。先ほどまでの勢いはどうした」
「戦えないよ。君たちの悲しみが俺の中に流れてくる。俺はそれを受け止めることしかできない。それに君は悲しみを抱えすぎだ。我慢しなくて良いよ」
そう言うと勇者はガラリアを再び抱きしめた。その度に勇者を包む優しい光が広がっていく。
「もし・・・500年前の勇者がお前だったら・・・」
ガラリアは涙を流した。
「私も友のもとへ」
そう言いながら彼女は安らかな顔をして浄化されていく。

しばらく放たれていた光は静かに消えていった。そこには古代兵器の残骸と昇天していく安らかな魂。それを悲し気に見守る勇者の姿であった。
「来世で・・・幸せになってくれ」
勇者の目から涙が滴り落ちた。
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