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第49話 連続魔族失踪事件

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課外研修最後の日、朝食の席である話題が飛び交っていた。魔族連続誘拐事件。
初めは森で行方不明者が出た事から端を発する。猛獣の類に襲われたと考えられていたが死体は発見されていなかった。事件が急展開したのはここ数日だ。町中で魔族が拉致されたのだ。手口は転移魔法で現れた集団が白昼堂々と魔族を取り囲み拉致する。勿論、兵士が止めに入るのだが声を掛けても反応せず剣で切り付けても弓矢で足を撃っても動じないし動きも止まらない。痛みを全く感じていないであろう集団。強引に割り込んだ兵士は大きな悲鳴と苦痛の声を出して後、謎の集団と行動を共にしたらしい。そして転移魔法で消えていく。それが他の事件の関連性を疑われた。
「500年前に出現したアンデットみたいだな」
不意にグレンが口にした。アンデッドは生ける屍だ。首を切断しても動き続ける。ただしそれらを動かすコアを破壊すれば塵と化す。コアの位置はランダムで特定できないが。
「140人失踪したのですね」
ミュウジィは厳しい表情を浮かべる。
「誘拐事件としたら身代金要求がないのはおかしいよね」
ハイネはなんとなく口にした。はっきり言ってハイネにとっては他人事だ。ここに居る大半の人間も他人事であろう。しかしグレンたち貴族としては民衆を守る義務がある。温度差の違いは貴族であるか一般人であるかだ。興味がないと言えば叩かれるであろう。特にネットでは怪物認定されかねない。しかしどんなに綺麗ごとを並べても実際にその場に居合わせたら何人が有言実行できるのか?所詮、世の中は綺麗ごとだけでは生きていけないのだ。
「準王族が緊急招集された。俺はあと数日ここに居ることになりそうだ」
グレンは苦笑いを浮かべる。名誉性愛布教者様と言われ続けるこの地にいることはある意味拷問であろう。しかし彼らは自らの行動を後悔していない。学校の仲間を助けるための行為である。それは皆が理解しているし女生徒からは感謝されている。

その日の夕方、神族の宮殿には魔族、人種、エルフ、ドワーフ、黒エルフ、鬼族によって会議が始まった。一連の事件は魔族が狙われていると結論付け対策が協議される。複数の町が同時に襲われた事実からアンデットの上位種デュラハンの存在が複数確認された。デュラハンは強化魔法、転移魔法を使ってくる。過去に大きな恨みを残し殺された無念さがアンデッドをデュラハンにする。

500年前、この世界は暗黒時代であった。罪のない者が拷問の果てに虐殺された時代。
当時、神と魔王はこの世に自ら関与することを禁じていた。それが暗黒時代を長引かせる原因にもなる。
そんな中、謎の主導者が現れる。その正体は未だに知られていない。配下の者たちだけで世界を滅亡させようとしたのだから。古代兵器と呼ばれる高さ10メートルのロボットが町を焼き尽くし、隷属された魔族が怪物を率いた。そしてデュラハンはアンデットの集団を率いて被害を拡大させる。アンデッドに嚙まれたものは3分以内に解毒剤か治癒魔法で処置しなければアンデットと化す。神族と魔族の王は聖剣、魔剣を人種に託した。そして異世界より勇者を召喚する。
平和の代償は大きい。罪のない命が無残に散ったそれは悪夢そのものであった。しかし生き残った者の中には世界滅亡を望むものが出た。そして最終的に滅亡を望むものを処刑し事実を隠蔽した。これが国家機密であったこの世界の闇の部分だ。
「再び暗黒時代が来なければ良いが」
神の王が溜息を吐く。暗黒時代は貴族の横暴と慢心が招いた。故にこの世界の貴族は再び悲劇を繰り返さないために自らに厳しい制約を課す。死の制約を。それを実行する存在として神、魔王はこの世に関与を始める。
「再び不幸な女が生まれなければならないのでしょうか・・・」
人種の女性が悲しそうに言う。傍らに角が生えた大型犬サイズの馬を従えて。ユニコーンである。500年前の戦いでユニコーンは大きな戦力であった。治癒と浄化の力、それがユニコーンの能力だ。しかしユニコーンと契約するには処女でなくてはならない。契約すると禁断の花園に結界が張られる。そして1000年の寿命と不老の体を与える。それは普通の幸せを掴めない呪いでもある。もし結界を破って純潔を散らそうものならユニコーンは怒り狂い大規模な破壊をする。その果てに契約者の胸を角で貫き契約を解除して消える。過去の戦いではそうして命を失った乙女も数多くいたのだ。故にこの処女厨を召喚するものは居ない。
「時代は変わりました。エルフの技術で浄化薬もあるそうですし」
不意にエルフの準王族が言う。作ったのはシエルの会社だ。黒エルフの町でたまたま出来た代物だが使い勝手は幅広い。
「新しい武器も開発されています。我が息子が偶然に作ってしまったのですが」
モンドが口を開く。
「戦う前に我が同族の被害も減らしたいものですな」
魔王が口を開く。
「浄化薬を兵士と魔族に常備させたらどうですか?更に武装も固めて」
「魔法でアンデッドを切り刻むのも手段でしょう」
「それより一般人の被害が心配です」
対策案も被害を出さない対策も重要だ。被害は最小限でなければならない。
結界を再び張るにも時間は必要だ。
「この悲劇を繰り返さないためには主導者を今度こそ倒さねばならないだろう」
その一言でその場は解散した。
彼等は重大なことを見逃している。結界を張られた世界の魔族がなぜ怪物たちと取引をできたのか。それは瘴気の森に存在する瘴気口が全てつないでいるのだ。魔族は瘴気口を通り人の町にも行けるのだ。これにより死の王は500年前に難を逃れたことを。

死の王の洞窟
「順調に魔族を狩れているね」
死の王がデュラハン達に話しかける。
「それより何故結界を解かれるまで待っていたんですか?瘴気口から魔族を狩ればもっと早く人の世界は掌握できたでしょうに」
「そうなんだけどね、魔力口にも結界が達していたんだよ。それで魔族の世界に行けなくて」
「それでは何故魔族は怪物と取引できたんですか?」
「黒魔法で分身作っていたみたい。体は通れないじゃない。でも魔力は通せるんだよね」
「じゃあ、隷属魔法を通せばもっと計画が早く進んだのでは?」
「俺の隷属魔法はいちいち接触しないとダメなのよ。だから仕方が無いよね」
「でも、今は通れますよね?」
「そうだね」
「なんで使わないのですか?」
「あ、その手があったか!」
『おいおい』
一斉に突っ込みが入る。
それでも組織の戦力はアンデッド、怪物含めて30万を超えている。間が抜けているが恐ろしい組織であった。
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