異世界転生～女子高生が男の子に生まれ変わったのだが

第２話 現実は甘くなかった。

「ハァ」
学校に向かう少年は憂鬱そうに溜息を吐く。中性的でそこそこの美少年は気怠そうに歩く。
「よう！ハイネ。元気ないなぁ？どうした？」
ふと後ろから声をかけてくる少年がいた。しかも相当な美少年だ。
「いや・・・昨日夜更かししちゃって」
「おいおい、いつも夜更かししているな。寝ないと体に悪いぞ」
「うん、そうだね。気を付けるよエレン」
「そうか。俺日直だから先に行くけど遅刻するなよ」
そう言いながら美少年は駆けていく。時速60キロは出ているだろうか。
「現実は甘くないなぁ」
ハイネは今14歳になる。この世界に来て知った事実は衝撃的だった。
両親が美形だと思っていたがこの世界では父はフツメン、母はブサメンに属することだ。
要するに元居た世界の上の下がブサメン、上の中がフツメン、上の上がイケメンになるのだ。故にハイネはどちらかと言えば普通より少し悪いになる。ただし、基本的に明らかなブサメンが存在しないのでそこまで見た目の差別はない。ある意味優しい世界だ。
次にこの世界には貴族、一般人と階級がある。ただネーミングセンスは疑ったが。偉い順に王族、準王族、国家重鎮貴族、上級貴族、中級貴族、下級貴族、一般人という階級がある。ハイネは一般人である。このネーミングは誰でもわかるようにした結果だそうだ。
（いや、階級制度のネーミングはこだわろうよ・・・）
初めて知ったときは内心突っ込んだものだ。

次に魔法、魔術といった事。
魔法は六行魔法と呼ばれる火、風、水、土、雷、光の系統魔法、治癒魔法、召喚魔法、強化魔法、隷属魔法、転移魔法、空間保管魔法などが存在する。しかし１人の人間が取得できるのは２から３種類であり個人の相性が良くなければ習得できない。また最大威力は魔力量によって優劣が付く。
ハイネは雷と光の系統魔法を使える魔術師だ。魔力量も平均的でそこまで高くない。もちろん雷魔法で体内電気を操作し反応速度等上げたり砂鉄を集めて超振動する剣を生成したり光を収束して熱線光線を放ったり光の屈折を利用して姿を見えなくすることはできる。このチートに思える能力もこの世界では既存技術である。手の内が分かれば対策もできる。要はオタク知識は一般常識範囲内なのだ。
次に魔術だ。これは魔法と似て非なるものでどちらかというと科学に近いかもしれない。この世界のインフラ、生活は魔術式によって構成された魔術に依存している。魔術式によって一般生活用品から町中にある監視機、ネット環境まで作り出せる。エルフやドワーフ、妖精といった亜人種は人間では構築できない薬や武器、魔術式衛星も作れる。それぞれの種によって得手不得手はある。故にこの世界では亜人種も人種も友好的関係にある。お互いの苦手部分を補い合うためだ。
魔術式自体は座学で誰でも習得可能だ。感覚としてはあらゆる事象のプログラムを組む。そして錬金術式で形を作り付与術式で耐久性を上げたり安全性を上げる。ただし起動させるためには魔石と呼ばれる燃料が必要となるが。
魔石は瘴気から自然発生する怪物を殺すと魔石に変化する。
因みに怪物の種類はスライム、ゴブリン、オーク、オーガの４種類しか確認されていない。
魔石は国が買い取り原価で会社組織、公営企業に配分してくれるシステムである。買い取り価格はスライムが５千ジョニー、ゴブリンが１万ジョニー、オークが２０万ジョニー、オーガは３０万ジョニーの値が付く。
パーティーには必ず高位魔術師と高位騎士が数名同伴する決まりがある。この制度で命を落とす確率がゼロに近くなる。要するに良い小遣い稼ぎなのだ。
勿論、腕に自信があるものが金欲しさに個人で討伐に向かうのは後を絶たない。しかし３割くらいの確率で命を落とすのだが。

「なんか転生して異世界無双ってのは現実味がないと思い知らされたよ」
ハイネは大きくため息を吐く。この世界では教育水準も高いし義務教育期間で地球でいうところの大学レベルまで教わる。福利厚生も充実しているし最低賃金は時給千五百ジョニー貰える。物価水準も日本と大差がない。貨幣も全種族共通だし無理して怪物ハンターになる必要もないのだ。
結局、この世界でも平凡な人生を目指したほうが良さそうである。