上 下
33 / 88

第三十三話 百合フラグ

しおりを挟む
「ところでミーア公爵はチャールズ様とカイザル様のどちらを選ばれるのです?」

不意にアリスの声がした。

「今は仕事と学業を両立しないといけませんので…」

悪役令嬢ミーアは口籠る。

「でしたらわたくしと結婚しませんか?」

その言葉でW王子は飲み物を吹き出す。

「そんな…淑女同士の結婚は認められておりませんわ」

「では女性神官同士では?」

その言葉に悪役令嬢ミーアの顔がキョトンとする。

この世界では女性が家を継いだ場合に女性神官になる事がある。メリットは爵位がそのままで夫を補佐として迎えることが出来る所だ。

更に女性神官同士が結婚すれば補佐を共有できる。

ただし侯爵以上の爵位があるか聖女でなければならない。

「私がチャールズ殿下を、貴女がカイザル殿下を補佐にすれば問題は解決しますわ。それに4人で子作りも良いかもしれませんわよ?勿論、百合的展開をこの後に期待しておりますが」

悪役令嬢ミーアの腰に手を取り、顎クイ攻撃を仕掛けるアリス。

「そんなイケない関係は…」

「大丈夫ですよ。どちらの子であれ産むのは私達。嫡男の心配はありませんわよ」

アリスはそう言いながら淫らな笑みを悪役令嬢ミーアに向ける。

ときめき魔法学院では聖女のハーレムエンドは卒業式に全員と結ばれる。

しかし現実となった今では愛されて終わるのは無理だ。不義密通になるからである。故にアリスの提案はこの世で女子が逆ハーレムを作る唯一の手段と言えよう。

「髪の色でどちらの王家の血を引くかは解ります。2人で両国の血筋を残すのも有りではないかしら?」

「ダ、ダメです。そんな汚らわしい事なんて…」

悪役令嬢ミーアはアリスの手を振りほどく。

「フフフ、可愛いのね。でも男に跡継ぎの為と平気で浮気されるくらいでしたら色々な男を知るのも良いと思いますの」

「だからと言って…」

「ミーア公爵は2人のどちらか決められないのでしょ?だったら両方手に入れれば良いのです」

「それでも…」

「2方と結ばれる為に私と結婚した方が良くてよ」

「不潔です!」

ミーアはそう言いながら会場を飛び出した。それをW王子が追いかける。

「あらあら、素敵な話ですのに」

アリスはそう言いながら妖淫な笑みを浮かべていた。



(2人の殿方と結ばれる…)

ミーアは王宮の中庭にある噴水の前でふとそんな事を考える。彼女の心は揺れ動いている。W王子のどちらと結婚しても幸せになれるだろう。しかし帝国の妃になるなら話は早いがチャールズかカイザルのどちらかを婿養子にするには壁が多すぎる。

アリスの言い分は1つの解決策だと理解できる。それでも女子同士の夜伽など考えたくもない。

『ミーア嬢…』

W王子はミーアに近付く。

「チャールズ殿下とカイザル殿下は何を望まれますか?」

ミーアは悲しそうに2人に問い掛ける。

『我等はミーア嬢と結ばれたい。しかし補佐としてではなく1人の男として其方だけを愛し続けたいのだ』

W王子は胸の内を吐露する。

「私は我儘な女ですわ。このまま時が止まれば良いと思っておりますの」

『我等も同じだ』

「それでも…時間は残酷なまでに進んでいきますわ。そして最後に誰と結ばれるか…考えるのが恐ろしいのです」

そして3人は無言になる。

「朕にも未来は解らない。しかし今、この瞬間に其方を愛していられれば満足なのだ。今は其方と一緒に居られる時間さえあれば良い」

「俺もだぜぇ。ミーア嬢が誰か1人に決められないのは解っている。だからこそ未来が解らなくとも一緒に歩みたいと思うんだぁ」

その言葉に涙する悪役令嬢。2人の王子は優しく見守る事しかできなかった。



「アリスよ、いきなり4Pとは何を考えている?」

皇帝は半ば呆れながらアリスに問い掛ける。

「2人の王子の幸せを願えばあの方法しかありませんわ」

アリスはニコリと微笑みながら言う。

「しかしだな…王子を補佐にして4人で子作りは…如何なものか?」

「あら、殿方も第二婦人や妾(めかけ)を作るではありませんか。同じ事ですわ」

そう言われてしまうと皇帝も反論できない。

「恐れながら申し上げます」

不意にレナンジェスが2人の前で跪きながら発言する。

「あら、私は話しかけておりませんわよ」

アリスはレナンジェスを見下すように言う。

「この場は無礼講だ。礼儀を気にせずとも良い」

皇帝がそう言うとアリスは不機嫌そうな表情を浮かべる。

「それで何ですの?」

「大事なのは気持ちです。今は揺れ動こうが時と共に3人の関係は変わるでしょう。結論を出すには時期早々かと」

「甘いわね。婚姻の事は早ければ良いと思いますわよ?」

「時間を重ね愛情を深めるのも大切かと」

その言葉にアリスはレナンジェスを睨みつける。

「何が言いたいの?」

「相手の気持ちも考えずに自分の欲望を強要する事は如何なものかと」

「貴族の貴男なら政略結婚も解るでしょうに。それに殿方と淑女を手玉に取る人にだけは言われたくありませんわ」

「そうですね。しかしミーア公爵は違います」

その言葉でアリスは黙り込む。

「公爵のお気持ちも考えて頂ければ幸いです」

「子爵の分際で…」

アリスはそう呟くと会場を後にした。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

僕はキミ専属の魔力付与能力者

みやこ嬢
BL
リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。 ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。 そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。 「君とは対等な友人だと思っていた」 素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。 【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】 * * * 2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!

そばにいられるだけで十分だから僕の気持ちに気付かないでいて

千環
BL
大学生の先輩×後輩。両片想い。 本編完結済みで、番外編をのんびり更新します。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。 俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。 そう、“副”だ。あくまでも“副”。 だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに! BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる

ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。 ※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。 ※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話) ※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい? ※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。 ※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。 ※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。

たまにはゆっくり、歩きませんか?

隠岐 旅雨
BL
大手IT企業でシステムエンジニアとして働く榊(さかき)は、一時的に都内本社から埼玉県にある支社のプロジェクトへの応援増員として参加することになった。その最初の通勤の電車の中で、つり革につかまって半分眠った状態のままの男子高校生が倒れ込んでくるのを何とか支え抱きとめる。 よく見ると高校生は自分の出身高校の後輩であることがわかり、また翌日の同時刻にもたまたま同じ電車で遭遇したことから、日々の通勤通学をともにすることになる。 世間話をともにするくらいの仲ではあったが、徐々に互いの距離は縮まっていき、週末には映画を観に行く約束をする。が……

処理中です...