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藤島白兎

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第五章 幸せに向かって

第六話 演目 地獄に落とされた猫はしぶとい

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 地獄谷の転移でやってきたのは地獄……のはずなのだが、上を見上げたら太陽がある。
 周りを見たら山や家がチラホラと建っている、田舎を思わせる風景だ。
 とても地獄とは思えない、縁達の前には道があり、目線の先には一軒家がある。

「実家の近くにゃ」
「おお、地獄といっても……普通だな」
「そうにゃ、ここは昔は色んな人達がイメージする地獄だったにゃ、先人達がこの地獄を開拓したにゃ」
「おお、歴史がありそうだな、今度ゆっくりと観光をしたい」
「にゃ、お客様ゲットだにゃ」

 明らかに困っている顔をしている地獄谷を先頭に歩いていく。
 両親にどんな顔をしていいかわからない。
 だが危険な可能性の伝えなければならない。
 その足取りは重かった、徐々に歩く速度が下がっていく。

「……ど、どんな顔で父上と母上に会えばいいかにゃ」
「……わかる、スゲーわかる、何かアドバイスをしてあげたいが……下手に出来ん」
「……にゃ」

 地獄谷の実家にたどり着いた、自宅とその隣には何かの作業場がある。
 自宅の前はちょっとした広場になっていて、女性が作業をしている。
 その女性は何かに気付いた様に、すごい勢いで振り向いた。

炎花えんか!?」
「にゃ!? 母上!」

 どことなく地獄谷に似ている女性は、一見人間の女性に見える。
 母親は駆け足で娘に近寄って思いっ切り抱きしめた。
 地獄谷は少々苦しそうにしているが抱き返す。

「た、ただいま……にゃ」
「い! いまま――むむ!? この気迫! アンタ! 父さんの封印を解いたのかい!?」
「……にゃ」
「目を見せなさい」
「……」

 母親は娘の目をジッと見た、目をそらそうにもそらせない地獄谷だった。
 再び強く抱きしめる母親、やはり娘が五体満足で帰ってきたのが嬉しいのだろう。
 地獄谷は耳も尻尾も下がっている、心配させた事を後悔しているようだった。

「そうか、アンタにも大切な人が出来たのかい」
「えっと……あ、あの母上、私の事よりも大切な――」
「ん? この方は……」

 母親が縁に気付いて、すぐさま三つ指を付いて頭を下げた。
 縁が高位の神と勘違いしたのだろう。
 それに母親からしてみれば、娘を連れて来た恩人になる。

「申し訳ございません、高位の神とお見受け――」
「立ってください、俺は崇められる様な神ではないんです、それに今日は急ぎ伝えたい事がありまして」
「何でしょうか?」

 縁は先ほど起こった十二支に襲われた事を話す、そして念の為に地獄谷の両親を保護しに来た。
 と、言いたかったのだが、娘が神に襲われたと聞いた母親は――

「は!? 人の世で若い神が娘を襲った!?」
「はい、で――」
「今夫を連れてきます!」

 話を聞かずに母親は猛ダッシュで作業場へと向かった。
 それはそうだ、家出した娘が反省して帰って来たと思ったからだ。
 神に襲われたとなれば慌てもするだろう。
 作業場から男女の話声が聞こえ、顔が猫だが身体が人間の形をしている。
 そんな猫の亜人の男性が四足歩行ダッシュでやってきた。
 娘の前に立つと、両手を広げて抱きしめた。

「炎花!」
「にゃ……父上にゃ」
「良かった! 無事だったのか!」
「……た、ただいまにゃ」

 父上は娘の無事を確認出来て安心したのか、涙を流して肩を震わせていた。
 親として色々と聞きたい事もあるだろう、だが母親が父上を止めた。

「あなた、娘との再会後にして? まずはこの神様からお話を聞きましょう」
「あ、ああ……」

 地獄谷の両親は改めて深々と頭を下げげ、縁もそれに答えた。

「自己紹介が遅れました、私は縁、縁起身丈白兎神縁えんぎみのたけしろうさぎのかみえにしといいます」
「私は炎花の父の地獄谷形白かたしろと申します、こちらは妻の蔓梅つるうめです」
「よろしくお願いいたします、娘がお世話になっております」
「にゃ、父上母上、お客様にお茶を出すにゃ、私が用意するにゃ」
「あ、ああ……確かに立ち話もなんだ、あがってください」

 縁は居間に通されて座布団に座る。
 蔓梅は茶菓子を出して、地獄谷はお茶を淹れに台所へ。
 形白は深刻そうな顔で縁に問いかけた。

「妻から聞きましたが娘が襲われたと、誰なんですか?」
「十二支を名乗っていました」
「十二支!? おのれ……また我が一族に弓を引くか!」
「あなた落ち着いて、十二支といっても色々居るわ」
「はい、どの派閥かはまだ、十二支も今は乱立してますし」

 台所に居る地獄谷の耳が反応した、十二支が乱立という言葉に対してだ。
 大陸事に十二支は違うし人の世は広いが、そんなポンポン十二支が増えるのだろうか?
 後で何故乱立しているか聞いてみようと思う地獄谷だった。

「……なるほどつまりは、私達に万が一があったらという事ですか?」
「ええ」
「娘の事について色々と聞きたいですが、敵は待ってくれないと」
「はい、あなた方を保護します、私の神の名の誓って」
「……はっはっは! 面白い面白い! 俺の代でも夜逃げをするとはな!」
「ち、父上!? よ、夜逃げってなんにゃ!?」

 いきなり高笑いする形白に、お茶を持ってきた地獄谷がビックリした。
 笑いながら自分の父親が夜逃げを語ったら、それは驚くだろう。
 形白は豪快に笑いながらお茶を受け取った。
 地獄谷は母親と縁にもお茶を渡して、父親の近くに座った。

「ああ、お前には一族の成り立ちを言ってなかったか」
「にゃ」
「我が一族の先祖は冤罪で地獄に落とされた、その時地獄でも自生しているまたたびを見つけたんだ、それを食べて飢えをしのいだ」
「にゃ……またたびは生薬にもなるし、色付いたら普通に食べられるにゃ」
「んで、ご丁寧にその時はまだ追手が来たんだよ、十二支の神聖な儀式どうとかこうとか」
「冤罪だけで終わっとけにゃ」
「地獄である程度暮らしていたご先祖様は、その襲撃の時に寝床と食べ物を燃やされたそうだ、冤罪だとわかるまでな」
「……なんかムカついてきたにゃ」

 何となくは聞いていたのだろうが、ここまでご先祖様が徹底的に迫害されている事に、地獄谷は怒りをあらわにした。
 形白は居間に飾ってある木彫りのマタタビを指さした、そして娘の怒りをなだめる様に話し出す。
 
「だがな? その時にご先祖様は『また旅が出来る』……つまりは再出発出来る様にと、普段の名前もしくは神の名にな? マタタビの名を入れる事を決めた」
「にゃ、また旅が出来るはマタタビの由来だにゃ、私の神の名にも木天蓼がはいってるにゃ」
「しぶとく生きてればチャンスが来るって話だ」
「なるほどにゃ、生きていれば再スタートも出来るにゃ、言葉通りまた旅が出来るにゃ」
「確かにな……しかし縁様――」
「いやいや、呼び捨てで構いませんよ」
「……縁さん、逃げるにしても絶対に安全な場所とかありますかい?」

 形白はニヤリと笑った、縁の提案のに乗り気な様だ。
 命あっての物種、それがこの地獄谷という一族の根幹なのだろう。
 縁は自信に満ちた顔で答える。

東上ひがしかみの地を知っていますか?」
「人の世のですか? ええ、地名だけですが」
「にゃ、どんな場所なのにゃ? 縁先生」
「ああ、北上きたかみ、東上、南上みなみかみ西上にしかみってね、東西南北の大地と呼ばれる場所さ」
「ふむふむにゃ」
「その東上の大地に祀られていた元十二支の兎、海渡うみわたりふく様、その人に助けてもらおう」
「な、何か凄い事になったにゃ……その海渡様にお願いをしにいくにゃ?」
「ああ、相手が誰でも知っている十二支を名乗ったんだ、俺みたいな下位の神では手も足も出ないだろう? 上位神に保護してもらった方がいい」
「……」

 地獄谷はジト目で縁を見てそして感じた、絶対にこの人は自分の方が凄いと思っていると。
 事実、先ほどの十二支は縁の相手にならなかった、他の十二支は知らないが――
 この神には多分勝てないんだろうな、そんな事を地獄谷は考えていた。

「旦那さん、全員を助けますので従業員の方は居ますか?」
「うちは何時でも逃げられる様に支度は出来てる、従業員は俺と妻だけだ」
「栽培用の苗から生活必需品も用意してあるわ、すぐにでも移動出来ますが……娘が久しぶりに淹れたお茶を飲みましょう、それくらいはいいですよね?」
「もちろんです、いただきます」
「にゃ……え? 本当に夜逃げの準備出来てるにゃ?」
「炎花、これが我が一族の家訓だ、生きろ、また実れ」
「……にゃ」

 自分の家の家訓を地獄谷は複雑そうな顔をしていた。
 言っている事は素晴らしいのだが、逃げるが勝ちなのはどうかと。
 だが言い換えれば、たくましく生きろという意味なのだろう。
 事実地獄谷も縁に助けを求めるた結果こうなっている。
 そんな事を考えながら、お茶を出来るだけ早く飲むのだった。
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