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第五章 幸せに向かって

第三話 演目 歩く目的

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 一本槍は修業を終えて、下山の準備の準備をしている。
 長い山籠もりの為、少々衣服や身体は汚いが、満足そうな顔をしている。

『ふむふむ、どうやら充実した山籠もりだったみたいだね~』
『まあ俺達は早送りしただけだが……三ヶ月くらいか?』
逍遥しょうようさんは、自分の伝えたい事は教え終わったようだね』
『俺は武道家じゃないからわからないけど、数ヶ月で伝えきれるものなのか?』
『ま、正直言って私は逍遥さんじゃないから、何をどう伝えて、一本槍が何を教わり力にしたかは、完全にはわからんよ、レポート読んでもね』
『……ふむ』
『お、いい例えがあったぞ』
『む?』
『私と縁が結婚したとする、それまでの時間て他人に説明しても、そっかくらいじゃん』
『ああ……いいたい事は何となくわかった』

 自分の努力してきた事、経験してきた事を他人に話しても、話の内容にもよるが興味はあまりもたれないだろう。
 今回で言えば一本槍が、逍遥からこれを教わりました、そう結びに言ったとして。
 結びは一本槍では無いので、完全に彼が育てた心技体は理解出来ない。

「さて一本槍、ワシが教えられる事は無い」
「待って下さい師匠、勝手に満足しないでください」
「いやいや、ワシは死んでいるのじゃぞ? 幽霊が何時までも居てもいいのかの?」
回歴かいれきとは各地を巡る事、そして師匠の名、逍遥は遊び歩くや散歩という意味があります、まだまだ旅をしましょう」
「ふむ……そう言われては……確かにワシは強くなる事だけで、世界を歩いた」
「師匠、心を豊かにする旅をしましょう」

 逍遥は豆鉄砲をくらった顔をした後に考えた、弟子に人生豊かにしろと言った。
 なのに自分は戦いだけの人生だった、師としてこれはまずいのでは?
 だったらもう少し、歩くのもいいかと考えた。

「……はっはっは! そう言われては断れまい! 楽しい、辛い、美しい、汚い、それらがつまったのが旅じゃ」
「はい」
「しかし、目標が必要じゃな」
「師匠が見たいものはありますか?」
「ふむ……母校がちと恋しいな」
「母校ですか?」
「界牙流三代目と戦った後、その学校を飛び出したがな」
「なるほど……その場所とは?」
「アルデンセ王国の領土にある、チーリメ学園じゃ」
「ではそこに向かいましょう」
「ふむ……ここからだと……一ヶ月はかかるぞ? お前さんは自分の学校はいいのかの?」
「山籠もり前にもいいましたけど、担任の先生はレポート提出すればいいと言ってました」
「変わった先生じゃな」
「いい先生ですよ」

 それを聞いていた結びが納得した顔をした。

『なるほど、チーリメ学園か』
『どんな学園なんだ?』
『ああ、普通ちゃ普通の戦闘系の学校だよ、ただ、いい生徒と悪い生徒の差があるかな』
『なるほど……そこで巻物が燃やされたと』
『縁君、あの巻物って簡単に燃えるの?』
『ふむ……出来るとすれば神様だな』
『なるほど、レポート通りだ』
『結びさん、今のうちに聞いておく、何故燃やされたんだ?』
『簡単に言えば、盗まれて、使えなかったから燃やされて、燃えカスを返された、理由は……イジメとかってたいした理由はないじゃん、例えばこいつが気に食わない、自分より目立つとかさ』
『なるほどな……大層な理由が無いと』

 創作物の様に大層な理由では無い、現実にある理由の一つだ。
 だが些細な行動が、大きな出来事のきっかけになりかねない。
 事実、一本槍はこの出来事で以前の風月並みに強くかったのだから。

『……その事件まで飛ばそう、しばらく本当に楽しく旅をするだけだから』
『そうだな』

 縁は早送りをした。
 これから一本槍と逍遥は一ヶ月かけて、アルデンセ王国の領土へと向かう。
 楽しい旅の終着点が、師をつまらない理由で失うとは、この時の一本槍はしらない。
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