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第五章 幸せに向かって
第三話 演目 一本槍の修業
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縁と結びは、一本槍の過去へと向かった。
山で修行中らしく今は夜、たき火を前にストレッチをしている一本槍。
開いた巻物から、幽霊の様に半透明な回歴の開祖、逍遥が浮いていた。
よく見れば一本槍は少々汚かった、しかしそれは当たり前の事。
山で日常生活の様に常に綺麗ではいられないだろう。
だが一本槍の目はキラキラとしていた。
「逍遥師匠、やはり基本は山籠もりですね!」
「……お主、メンタルどうなっとるんじゃ? もう一ヶ月はこもっとるのに」
「え?」
「普通山籠もりは、徐々に心をむしばんでいく、例えば……身体をちゃんと洗いたいとか、遊びたいとか」
「いえ! 僕は修業している方が楽しいです、あ、友人達と会えないのは寂しいですよ?」
「……界牙流四代目、兎の神よ、お主らなんちゅー子をワシに紹介したんじゃ」
一本槍は修行が楽しくて仕方ない、そして、少々過酷な環境だからこそ。
普段の生活がどれだけ恵まれているかを、知る機会になった。
だが、普通な考えたらやはり一本槍は、異質なのだろう。
『あ、なんかすんません』
『結びさん、過去の映像なんだから聞こえないよ』
『あ、いや、つい』
結びは少々思う所があり、声が届かなくても謝ってしまう。
「……一本槍よ、何故ワシが回歴という流派にしたか聞くか?」
「はい!」
一本槍はストレッチを終え、逍遥の目の前に正座した。
「界牙流に対抗するには、生半可な覚悟や力ではダメだと感じた、故に私は可能な限り他人を頼りに寄り道をする事にした」
「寄り道ですか?」
「急がば回れじゃな、力を求めて世界を旅した、結果は禁術に手を出し過ぎた……ワシは本当は30代なのじゃよ」
「……禁術の反動ですか」
逍遥は界牙流三代目と戦い敗れ、その時、逍遥は10代の子供だった。
天涯孤独な彼を、その時止める人物は居なかった。
それから世界中を旅をして、力を付けたのだが。
代償は大きく、寿命や身体を蝕んでいった。
「……ワシが言えるのは、その時その時の身の丈に合う力を付けるのじゃ」
「はい、縁先生や風月先生、努力の神様にも同じ事を言われました」
「改めて考えるとお主は環境がいいな、ちゃんと止める者が居る、ワシはそういう人達には恵まれなかった」
「ええ……自分が恵まれているのは、理解しているつもりです、師匠にも会えましたし」
「……まあ話を戻して、時に急ぐのはいいが、何事も積み重ねじゃ……界牙流三代目と戦って本当に死ぬとわかったあの時、後悔が襲った、短い人生でも積み上げてきた自分の力が……終わる事に」
「……」
「界牙流に一撃食らわせたい、今思うと馬鹿らしい、後悔も有るが……仕方ないじゃろ、夢見たのだから」
子供の時に見た夢、明らかに若気の至りだ。
しかし、後悔していると言ってもその顔は満足そうだった。
後悔しているが満足、矛盾しているだろうが、人の人生はそれの積み重ねではないだろうか。
「ワシが師として、言えるのは……一本槍、自分の命は安く見てはダメだぞ? 後は……楽して儲けようとも思わぬ事だ」
「楽して儲ける?」
「禁術や神の力、そういったモノじゃな、先程も言ったが身の丈に合う力を付けるんじゃ、決して担任の先生のマネはするなよ?」
「ええ、先生達とは土俵が違うと思っています、そして……縁先生、風月先生にはおそらく、僕は一生敵わないかもしれません」
それを聞いた結びがつい声を出した。
『いや、成長速度で言えば間違いなく私よりも素質あるよ』
『一本槍君は何歳なんだ?』
『15だね』
『若いな……その時の俺は……人間に当たり散らしている歳だ』
『風月は修業中で、スフーリアは旅の最中だね~』
『つまり、将来俺達を超せる可能性があると』
『ふぉっふぉっふぉ、それには私達の愛を打ち破る力を身に付けてもらわないとね』
『ああ』
この2人の会話はもちろん一本槍達には聞こえていない。
「まあ、アレらに勝とうとは思わない事だ」
「ええ、ですから目標ですよ、こう……揺るがない1位といいますか」
「目標はいい事だが、自分の幸せを考えるんじゃ」
「幸せですか?」
「うむ、何も人生ずっと戦いに身を置くことも無い」
「結婚とかを考えろと?」
「それも選択肢の一つじゃが……ま、これは直ぐに答えはでないじゃろ……そろそろ寝なさい、明日も早い」
「はい、師匠」
一本槍は軽くタオルで身体を拭いてから、寝袋に入った。
逍遥は火を見ていて、何かを考えている。
師弟としては2人は良好な関係なようだ。
『ふーむ、私より先生しているね、逍遥さん……さて、ここからしばらく山籠もりのはず』
『そこは飛ばそうか』
『だね、山降りるまでは、修業しているだけだから』
『知っているのか?』
『私はレポート読んだから』
『なるほど』
縁は一本槍が山を下りるまで早送りする事にした。
山で修行中らしく今は夜、たき火を前にストレッチをしている一本槍。
開いた巻物から、幽霊の様に半透明な回歴の開祖、逍遥が浮いていた。
よく見れば一本槍は少々汚かった、しかしそれは当たり前の事。
山で日常生活の様に常に綺麗ではいられないだろう。
だが一本槍の目はキラキラとしていた。
「逍遥師匠、やはり基本は山籠もりですね!」
「……お主、メンタルどうなっとるんじゃ? もう一ヶ月はこもっとるのに」
「え?」
「普通山籠もりは、徐々に心をむしばんでいく、例えば……身体をちゃんと洗いたいとか、遊びたいとか」
「いえ! 僕は修業している方が楽しいです、あ、友人達と会えないのは寂しいですよ?」
「……界牙流四代目、兎の神よ、お主らなんちゅー子をワシに紹介したんじゃ」
一本槍は修行が楽しくて仕方ない、そして、少々過酷な環境だからこそ。
普段の生活がどれだけ恵まれているかを、知る機会になった。
だが、普通な考えたらやはり一本槍は、異質なのだろう。
『あ、なんかすんません』
『結びさん、過去の映像なんだから聞こえないよ』
『あ、いや、つい』
結びは少々思う所があり、声が届かなくても謝ってしまう。
「……一本槍よ、何故ワシが回歴という流派にしたか聞くか?」
「はい!」
一本槍はストレッチを終え、逍遥の目の前に正座した。
「界牙流に対抗するには、生半可な覚悟や力ではダメだと感じた、故に私は可能な限り他人を頼りに寄り道をする事にした」
「寄り道ですか?」
「急がば回れじゃな、力を求めて世界を旅した、結果は禁術に手を出し過ぎた……ワシは本当は30代なのじゃよ」
「……禁術の反動ですか」
逍遥は界牙流三代目と戦い敗れ、その時、逍遥は10代の子供だった。
天涯孤独な彼を、その時止める人物は居なかった。
それから世界中を旅をして、力を付けたのだが。
代償は大きく、寿命や身体を蝕んでいった。
「……ワシが言えるのは、その時その時の身の丈に合う力を付けるのじゃ」
「はい、縁先生や風月先生、努力の神様にも同じ事を言われました」
「改めて考えるとお主は環境がいいな、ちゃんと止める者が居る、ワシはそういう人達には恵まれなかった」
「ええ……自分が恵まれているのは、理解しているつもりです、師匠にも会えましたし」
「……まあ話を戻して、時に急ぐのはいいが、何事も積み重ねじゃ……界牙流三代目と戦って本当に死ぬとわかったあの時、後悔が襲った、短い人生でも積み上げてきた自分の力が……終わる事に」
「……」
「界牙流に一撃食らわせたい、今思うと馬鹿らしい、後悔も有るが……仕方ないじゃろ、夢見たのだから」
子供の時に見た夢、明らかに若気の至りだ。
しかし、後悔していると言ってもその顔は満足そうだった。
後悔しているが満足、矛盾しているだろうが、人の人生はそれの積み重ねではないだろうか。
「ワシが師として、言えるのは……一本槍、自分の命は安く見てはダメだぞ? 後は……楽して儲けようとも思わぬ事だ」
「楽して儲ける?」
「禁術や神の力、そういったモノじゃな、先程も言ったが身の丈に合う力を付けるんじゃ、決して担任の先生のマネはするなよ?」
「ええ、先生達とは土俵が違うと思っています、そして……縁先生、風月先生にはおそらく、僕は一生敵わないかもしれません」
それを聞いた結びがつい声を出した。
『いや、成長速度で言えば間違いなく私よりも素質あるよ』
『一本槍君は何歳なんだ?』
『15だね』
『若いな……その時の俺は……人間に当たり散らしている歳だ』
『風月は修業中で、スフーリアは旅の最中だね~』
『つまり、将来俺達を超せる可能性があると』
『ふぉっふぉっふぉ、それには私達の愛を打ち破る力を身に付けてもらわないとね』
『ああ』
この2人の会話はもちろん一本槍達には聞こえていない。
「まあ、アレらに勝とうとは思わない事だ」
「ええ、ですから目標ですよ、こう……揺るがない1位といいますか」
「目標はいい事だが、自分の幸せを考えるんじゃ」
「幸せですか?」
「うむ、何も人生ずっと戦いに身を置くことも無い」
「結婚とかを考えろと?」
「それも選択肢の一つじゃが……ま、これは直ぐに答えはでないじゃろ……そろそろ寝なさい、明日も早い」
「はい、師匠」
一本槍は軽くタオルで身体を拭いてから、寝袋に入った。
逍遥は火を見ていて、何かを考えている。
師弟としては2人は良好な関係なようだ。
『ふーむ、私より先生しているね、逍遥さん……さて、ここからしばらく山籠もりのはず』
『そこは飛ばそうか』
『だね、山降りるまでは、修業しているだけだから』
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