VRゲームでも運と愛し合おう!

藤島白兎

文字の大きさ
上 下
260 / 301
第五章 幸せに向かって

第二話 後説 ちゃんと相手に伝えるお知らせ

しおりを挟む
 縁と結びはロールを終えて、ロビーへと帰って来た。

「ほい縁君お疲れ様~」
「ああ、お疲れ様」
「今日はどうするよ?」
「何時もの居酒屋に行こう」
「よっしゃ」

 身支度と支払いを済ませた二人は、何時もの居酒屋へと向かう。
 何時もの行動だが、この時の長谷川は何か違っていた。
 平常心でいようと顔が少々こわばっていた。
 これを見逃す荒野原ではない。

 居酒屋に入り、荒野原がお酒が少々回った頃合いに、彼女が行動に移った。 

「げっへっへっへっへ、さて、何かお話があるのかな?」
「え?」
「何時もの長谷川君じゃない、こう……覚悟を決めた顔と雰囲気が出ている」
「……隠し事は出来ないな」
「隠す様な事を話すと?」
「時と場合が許せば、大っぴらに宣言しても大丈夫さ」
「ほ~う」

 長谷川は諦めてというよりも、かなわないな、そんな表情で鞄から取り出したのは。
 いかにも指輪が入っていそうな、小さな箱だった。

「おお! 明らかに指輪が入ってそうな箱!」
「ああ……ただ中身は――」
「ふふん、私は貴方の奥様になる人間だよ?」
「わかるのか?」
「中身はおそらく『おもちゃの指輪』だね……そう、一般的にはちゃんとした指輪を渡すだろうけど、それは婚約指輪の楽しみにしておこうかね」
「すげぇな」
 
 長谷川が箱を開けると、黒色のリングに白を散りばめたデザインの指輪だった。
 ただ、そこら辺の安物のプラスチックでは無いようだ。
 特注品のおもちゃの指輪、これを出されて荒野原が怒らないのは、彼女が彼氏の行動と理由を理解しているからだ。

「んで、君が何故おもちゃの指輪を渡すか、確かに『これ』は、世間一般的な価値は低いだろう、普通の女性なせブチギレだろう、だが――おっと、君の言葉を聞こうか」
「……この指輪に誓って、結婚を前提として過ごそう、結婚という単語は何度か出していたけど、結婚を前提に付き合っていこうとは口に出してなかったからな」

 長谷川は黒い指輪を荒野原の左手の薬指にはめた。
 ピッタリな指輪、左手を掲げて見る荒野原。
 彼女の顔は夢見る少女の顔で、おもちゃの指輪を見ている。
 そして、我慢が出来なかったようで、高笑いを始めた。

「にょほほほほほほほほ! キタコレ! 今この瞬間、この指輪の価値は『私達の結婚の約束した』って指輪になった訳だ!」
「お、おお……いや、テンション高いな」
「ああそれと……」
「え?」
「君の行動とこの指輪の価値を馬鹿にする奴は……絶対にどんな手を使ってもぶっ殺す」

 荒野原ならやりかねない。
 だがそうだろう、これは2人の間だけのお話の事。
 他人が人様の恋愛事情に口出しするのが、間違っている。
 とりあえず荒野原は超ご機嫌で、鼻歌を歌ったり笑ったりしていた。

「はっはっは! 今の私は気分がいい! これを君にあげよう!」

 荒野原が鞄から取り出したのは――

「ん!? まさか!」
「長谷川君の……いやいや、こう言うか、私の旦那の行動がわからないとでも思っていたか?」

 長谷川と同じ、箱に入ったおもちゃの指輪だった。
 デザインは黒と白の色が逆である。
 荒野原は上機嫌で、未来の旦那の薬指にはめた。
 長谷川はサプライズのつもりが、返されてしまう。
 
 自分の彼女の理解力、そして同じ価値観に感動している。
 だが、コッソリと用意していた、そのサプライズは失敗だったのかもしれない。

「勝ち負けじゃないけど、サプライズ失敗かな?」
「んにゃ? これは普段の君が勝ち取ったものだよ」
「普段?」
「そうそう、私が洗濯とか掃除とか料理したら『ありがとう』ってちゃんと言うでしょ」
「そりゃそうだ、てか俺にも言ってくれるじゃないか」
「当たり前でしょ、感謝は言葉に出さないと伝わらない」
「ああ、そうだな」

 互いのおもちゃの指輪、それはこの2人が積み上げてきた縁と絆の証。
 ゆっくりとだが、お互いの信頼関係や価値観を共有している。
 当たり前だが、これは他人が入る余地が無い。
 十人十色、人の数だけ恋愛の形があるのだ。

「長谷川君、これからもよろしくお願いします」
「俺の方こそよろしくお願いします」

 お互いに姿勢を正してお辞儀をした。
 荒野原はテンション高めに、メニュー表を指さした。

「よし、刺身盛り合わせとか、いいもん追加しよう」
「お、いいね、あ、カツオのたたきがある」
「げっへっへっへっへ……今日は楽しい飲み会になるね~」
「ああ」

 今宵は一段と2人だけのお疲れ様会が特別になった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

潜水艦艦長 深海調査手記

ただのA
SF
深海探査潜水艦ネプトゥヌスの艦長ロバート・L・グレイ が深海で発見した生物、現象、景観などを書き残した手記。 皆さんも艦長の手記を通して深海の神秘に触れてみませんか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

入れ替わりのモニター

廣瀬純一
SF
入れ替わりに実験のモニターに選ばれた夫婦の話

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

AIが人間の代わりに働くことになり、あれもこれもやらされてついには世界がバグってしまった話

Algo Lighter
SF
AIが人間の代わりに働く未来――それは理想的な世界でしょうか? 効率的で快適な社会の中にも、思わずクスッと笑ってしまう瞬間があるはずです。本作では、そんな「最適化された未来」の中に潜むユーモアを、一話完結の短編でお届けします。 通勤・通学のひとときに、電車やバスの中で気軽に読めるちょうどいい長さ。 どうぞ、物語の世界をお楽しみください。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

処理中です...