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第四章 縁と結びで縁結び

第六話 演目 花見桜

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 グランアルスへとやって来た縁、スファーリア、霞、フィーネ。
 シラルドは船と共に、グランアルスから少し離れた場所に待機している。
 街に入ると、兵士も街の人も安らかに寝ていた。

「手が早いなフィーネ」
「はい、先に眠らせておきました」
「ありがとうよ、私には出来ない芸当だ」
「ご謙遜を」
「いや、本当に得意じゃねーんだよな、手加減」
「今後の為に必要では?」
「ああーめんどくせぇけど覚えるかー」

 霞はチラッとスファーリアを見た後に、どんどんと街中を進んでいく。
 目指すはホスタルが捕らえられている城の牢屋。
 城を目指して霞を先頭に歩いている一行、しかし突然立ち止まった。

「……殺意を感じるな」
「誰かと思えば界牙流二代目か」

 ふらりと現れたのは、青いと白色のベースに、血のような桜が散りばめられた着流しを着た、黒い長い髪の少女だった。
 腰には青色の刀を持っていた、外見の年齢は高く見積もっても十代前半の様に見える。

「よう衣通姫青桜そとおりひめあおざくら
「……久しぶりの休暇を楽しんでいたのだが」

 縁達は邪魔にならないように霞から離れる。
 2人の空気が他者の介入を許さない雰囲気を出していた。

「そのまま楽しんどけ、お前に用は無い」
「お前が現れたなら話は別だ、俺と死合しあえ」
「その殺意の高さはどうにかならんかね?」
「俺を前に喋る余裕があるのか?」
「そういうのは私を殺せる様になってからにしろ、小娘」

 霞がそう言った瞬間右手が切り落とされた、青桜が刀を抜いた動作も無い。
 おそらくは常識外れの抜刀の速さなのだろう。
 しかし、右手が切り落とされれていても、霞の右手からは血が噴き出してはいなかった。

「ほう? 腕を上げたな」
「……まだ足らぬか」

 霞の切り落とされた右手は霧の様に消えて、何事もなかったかの様にくっついていた。

「いやいや、これは喋っている余裕は無いようだ、名実共に『血桜』を継いだようだな?」
「初代血桜は人を殺すのを楽しみとしていた、自分の子供に殺される時に『人を斬るなら自分の信念を持て』と言い残したそうだ」
「では聞こう、お前の信念は?」
「悪を斬り世を正す、だがそれよりも強者と戦う事」
「その覚悟、買った」
「……命散らすことなく、血の桜の満開を」

 更に2人を中心に空気が重くなった、達人同士の戦いに縁達は声をあげれない。
 今ここで何かを発する事は、2人の時間に茶々入れる事になる。

「幻想血桜」
「む?」

 2人の周囲に血の花びらがどこからか舞い降りてきた。
 美しくも恐ろしい血の桜が、気付けばあちらこちらに根を張っている。
 見るからに現実ではない情景、完璧に出来上がるのはあっという間だった。

「界牙流としての名は『冥林めいりん』そして、本名は『雲掴身夢幻之霞くもつかみゆめまぼろしのかすみだったな?」
「そうだ」
「界牙流は名が体を表すと聞く、つまり『冥界の力』と『現実ではない力』の使い手でいいか?」
「よく調べたな」
「ならば……この空間で余裕を出せると思うな」
「確かに、この空間は私の得意な事は出来ないようだ」

 霞は辺りを見回して、血の桜を見て満足そうに笑った。
 そして笑顔が消えて真っ直ぐ青桜を見る。

「失礼した血桜、貴殿を格下に見ていた」
「くっ!」

 見た目は怒りや闘志をむき出しにしている訳ではない。
 だが青桜は一歩無意識に足を引いた、自分だけに向けられた『それ』に恐れたのだ。

「界牙流二代目雲掴身夢幻之霞、行くぞ?」
「……」

 青桜は突然その場にあぐらで座り込んだ。
 そして左手で袖から酒を取り出す。
 右手は刀の鞘の真ん中を持ち地面に軽く突き立てている。
 左手で酒を持ち、その青桜のその目はまるで、これから花見でも始まるかの様だ。

 霞は顔色を変えずに構え、何かを仕掛けようとほんの少し動いた瞬間。

「花見桜!」

 突然霞は全身から血を噴出した、まるで桜の花が満開の様に。
 全身の刀傷から血が大量に溢れている、芸術的な死に方。
 噴出した血は、体内の血を全部出したかの様に地面に広がっていく。
 青桜は花見が見納めの様に目を閉じた、それと同時に霞は――

「凄いな、致命傷だ」

 青桜は驚いて目の前を見た、いや、見上げた。
 そこには霞が自分を見下ろしている。
 直ぐに当たり前の言葉が青桜から発せられた。

「な! 何故生きている!?」

 青桜の問に霞は何も答えない、自分の手応えがあった。
 絶対に霞は死んでいるはず、しかし生きている。
 自然とこの言葉と共に身体の力が抜けた青桜。

「ま……まいった!」

 刀と酒を地面に落して、両手を付いていた。
 それを見てか、霞は笑いながら地面に倒れこもうとする。
 青桜は慌てて霞を抱き留めた。

「霞殿!」
「はっはっは! いいぞ血桜! この私を殺すにまで至ったか!」
「いやいやいや! お主生きておろう!?」
「死んでる死んでる」

 ほぼ何時もで元気そうな霞を見て、縁はスフーリアに質問をした。

「スファーリアさん、何故霞さんは死んでないんだ?」
「死んでる、でも界牙流の技術を使って自己蘇生や治療……簡単に言えば究極のやせ我慢」
「技名とかあるのか?」
「界牙流の根幹、極意『五体満足』……夢を持ち、絶対に五体満足で死しない覚悟」
「覚悟……」
「そう、おばあちゃんの覚悟が衣通姫の心に勝った」

 青桜はスフーリアの言葉に耳を傾けていた。

「拙者を超える覚悟でござるか……」
「ああ、今スファーリアが言った通りだ、私はまだまだ死ねない」
「……聞いてもいいでござるか?」
「簡単な事だ、私は『孫の顔』を見るまでは死ねないと思っていたが、そこのスファーリアは未来の孫らしい」
「何と、異質な物を感じたが未来から来たのでござるか」
「そして私は比較的若くしておばあちゃんになるようだ」
「なるほど、拙者が負けた覚悟は『ひ孫の顔』を見たいと」
「ああ……そしてすまないが、旦那の所に連れて行ってくれ」
「承知した、完治するまで拙者が護衛いたそう」
「そこまでしなくてもいいんだが」
「問答無用でござる、死なれたら目覚めが悪い」
「頑固だねー」

 青桜は刀とお酒を回収した後に、霞を支えて立ち上がった。

「さて好き勝手はしゃいですまないな、フィーネ後は任せていいか?」
「ええ、承りましたわ霞」

 霞は青桜に支えられてシラルドの元へ。
 フィーネを先頭に縁達は城に捕らえられているホスタルの元へと向かうのだった。
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