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第四章 縁と結びで縁結び
第五話 演目 宮大工
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縁達は宮大工の元へと向かった。
事務所には巨大な倉庫とブルーシートに包まれた材料が置かれている。
「ここだ、お、居た居た、大工の棟梁」
ねじり鉢巻きを巻いて、法被を着た動物の兎が一人で作業をしていた。
「んん? この気配……縁の坊やか? うお!?」
棟梁は振り返り、縁を見た途端道具を落としてしまった。
縁は慌てて近寄って道具を拾い棟梁に渡す。
棟梁は縁の顔をジッと見ていて、信じられない様な顔をしていた。
「ど、どうしました棟梁?」
「お、お前……本当に縁の坊やか?」
「はい、お久しぶりです」
「噂は色々と聞いていたが、こいつは……縁様って呼ばねぇと罰当たりだな」
棟梁は今の縁の実力を見抜いたらしい、だが縁はすぐさま嫌な顔をした。
「やめてください、俺はそこまで位は高くないんですから」
「馬鹿野郎! 今のお前さんは実力と位が合ってねぇんだよ! さっさと位を上げろ!」
「だったら縁の坊やでいいですよ、神の位が高くなったら様で読んで下さい」
「……言うようになったじゃねーか」
「ねえねえ福さん、神の位ってどうやってあげるの?」
「ふむ、もっとも簡単なのは上位の神とのけっ――」
「ダメです、縁は私の夫になる人です」
「反応が早いの、後は……神々の会議とかで決めたりかの? とは言え人の世の認知もかかわってくるが」
「なるほど」
「まあ縁は偉くなる事は望まなじゃろう」
「正直、人には愛想が尽きたから拝まれたくはない、知らない他人より知ってる身内を助けたい……でも神だから仕方ないのかもな、知らない奴を助けるのも仕方ない、頼みしかしない奴は勘弁だが」
縁の言葉を聞いて、棟梁、福、兄貴は今まで見守ってきた親の様に微笑んでいた。
「……縁ちゃん、成長したの」
「ああ、昔の縁なら『人は敵だ、俺に信仰心を与えるだけの存在だ』とか言ってたのにな」
「懐かしいな、最初は縁の神社は怒りを鎮めるためだったな」
棟梁は自分の神社という言葉に気付いた。
「おうおう、懐かしくてついつい話しちまったが、おめぇさんの神社の話をしに来たのか? だとしたら絆の嬢ちゃんには言ったがちょっと時間をくれ、仕事が立て込んでてな」
「いえいえ、俺達は急がないからいいですよ、追加のお願いをしに来ました」
「追加のお願い?」
「兄貴の摂社を建てる話が出てね、追加で依頼したい」
「……ほう、摂社とは……本当に変わったな」
突然棟梁は男泣きをしてしまった。
ねじり鉢巻きを解いて涙を拭いている。
「棟梁……何で泣くんですか」
「縁の坊や、今だから言うが……神の怒りを鎮める神社ってのはな? 怖いんだよ、建てる方もな」
「あ~ちょっと的外れかもしれないけど、飲食店で例えるとブチギレているお客に、料理提供するようなもん? そりゃ怖いわ」
「はっはっは、風野音の例えにのるなら、ぶつくさ文句言いながらも食べて、クソみたいな感想を言って支払い済ませて帰る常連って所か」
「うわ~来ないで欲しい!」
「……それがな縁の坊や、絆の嬢ちゃんから『良き縁を守り、悪しき絆を断つ神社』に建て直しって聞いた時は耳を疑ったぜ」
「棟梁、今度は神社を大切にする、よろしくお願いいたします」
「てやんでぇ! ちくしょう、今日は店じまいだ、その摂社の詳しい話は兄貴とするから今日はけえんな!」
「え! とう――」
縁が言葉を続ける前に、棟梁はまさに脱兎の如く事務所へ逃げてしまった。
「ありゃりゃ、とりあえずここから――おや?」
風月は後ろからの視線に気付いた。
振り返ると兎の子供達が物陰からこちらを見ている。
無論動物の兎から人型まで様々だ。
「お客さんだ」
「お客さんだね」
「あれが縁様? 人の世ではあの服装がナウいの?」
「あ! 兄貴だ! 病気治ったのかな?」
「あのお姉さん速そう!」
「草原の力を感じる!」
「それ風じゃね?」
兎の子供達は外からの風月に興味津々な様だ。
「おやおや、子供達に見つかってしまったわい」
「福さん、見つかって別に悪い事してるわけじゃないでしょ」
「まあそうじゃがの」
「よしよし、見聞を広める為にゴー」
福を抱っこしながら風月は子供達の元へと歩いた。
少し緊張している子供達に、風月は笑顔で挨拶をする。
「こんにちは」
「こ、こんにちは!」
「あ! 海渡様を抱っこしてる!」
「ダメなんだよ! 海渡様は偉い神様なんだから、抱っこはダメ!」
「ふっふっふ、まあ待て子供達よ、ワシが頼んだのじゃ」
その一言で風月を見る子供達目が変わった。
この兎の園で一番偉い兎が、抱っこをお願いした客人になったのだから。
「いいなー!」
「お姉さんは特別なの?」
「ズルい」
「海渡様、あそぼー!」
「お姉さんも一緒にあそぼ!」
「おおう、熱烈な歓迎だね~」
「風野音殿、私の代わりにこの子達と、かけっこしてくれんかの?」
「お、いいね~」
「海渡様は?」
「様は~?」
「わかったわかった、ワシも後で走るから」
「わーい!」
「今度は負けないぞ!」
子供達とかけっこをする為に公園へ。
公園と言っても本格的に競技用のトラック。
その隣にはだだっ広い草原があった。
風月は子供達と草原でおいかけっこををする。
子供達とは言え兎の神様、もしくはそれに近い存在。
風月もそこそこ本気を出して子供達と遊んでいる。
縁達は離れた場所でそれを眺めていた。
「縁、本当にお前さんは変わったな」
「どうしたんだ兄貴?」
「今のお前からは、人に対しての怨み辛みよりも、彼女を大切にするという覚悟が伝わる」
「そりゃ他人恨む時間より、彼女と居る時間の方が大切だからですよ」
「ふぅむ、忠告じゃが近い将来困難が待ち受けている」
「ええ、何なくわかります」
「そうか……人と神のハーフは大変じゃの?」
「人としてある程度の運命は受け入れますよ」
「ふむ?」
「将来お前は俺達に危害を加えるから排除する、と、お前は俺達に危害を加えたから排除するは違うでしょ」
その昔、縁は絆の敵を問答無用で滅びゆく幸運を人に渡してきた。
神の力で将来絆に危害を加える者達もその時幸運にしたのだろう。
だが、それを繰り返した所で終わりは無く、人の世で生きるのは不可能。
様々な人の出会いが縁にいい影響を与えたのだろう。
「とは言え、結びさんと俺の幸せを邪魔するなら別だ」
「どうやら心配無用じゃな」
「だな海渡様、ただな縁? お前は見守ってるよ」
「ありがとう兄貴」
「お前はこの後どうすんだ?」
「グリオードの所に行こうかと、お礼とか色々ね」
「そうか」
子供達と思いっきり遊んだ風月と、今度はグリオードの国へと向かうのだった。
事務所には巨大な倉庫とブルーシートに包まれた材料が置かれている。
「ここだ、お、居た居た、大工の棟梁」
ねじり鉢巻きを巻いて、法被を着た動物の兎が一人で作業をしていた。
「んん? この気配……縁の坊やか? うお!?」
棟梁は振り返り、縁を見た途端道具を落としてしまった。
縁は慌てて近寄って道具を拾い棟梁に渡す。
棟梁は縁の顔をジッと見ていて、信じられない様な顔をしていた。
「ど、どうしました棟梁?」
「お、お前……本当に縁の坊やか?」
「はい、お久しぶりです」
「噂は色々と聞いていたが、こいつは……縁様って呼ばねぇと罰当たりだな」
棟梁は今の縁の実力を見抜いたらしい、だが縁はすぐさま嫌な顔をした。
「やめてください、俺はそこまで位は高くないんですから」
「馬鹿野郎! 今のお前さんは実力と位が合ってねぇんだよ! さっさと位を上げろ!」
「だったら縁の坊やでいいですよ、神の位が高くなったら様で読んで下さい」
「……言うようになったじゃねーか」
「ねえねえ福さん、神の位ってどうやってあげるの?」
「ふむ、もっとも簡単なのは上位の神とのけっ――」
「ダメです、縁は私の夫になる人です」
「反応が早いの、後は……神々の会議とかで決めたりかの? とは言え人の世の認知もかかわってくるが」
「なるほど」
「まあ縁は偉くなる事は望まなじゃろう」
「正直、人には愛想が尽きたから拝まれたくはない、知らない他人より知ってる身内を助けたい……でも神だから仕方ないのかもな、知らない奴を助けるのも仕方ない、頼みしかしない奴は勘弁だが」
縁の言葉を聞いて、棟梁、福、兄貴は今まで見守ってきた親の様に微笑んでいた。
「……縁ちゃん、成長したの」
「ああ、昔の縁なら『人は敵だ、俺に信仰心を与えるだけの存在だ』とか言ってたのにな」
「懐かしいな、最初は縁の神社は怒りを鎮めるためだったな」
棟梁は自分の神社という言葉に気付いた。
「おうおう、懐かしくてついつい話しちまったが、おめぇさんの神社の話をしに来たのか? だとしたら絆の嬢ちゃんには言ったがちょっと時間をくれ、仕事が立て込んでてな」
「いえいえ、俺達は急がないからいいですよ、追加のお願いをしに来ました」
「追加のお願い?」
「兄貴の摂社を建てる話が出てね、追加で依頼したい」
「……ほう、摂社とは……本当に変わったな」
突然棟梁は男泣きをしてしまった。
ねじり鉢巻きを解いて涙を拭いている。
「棟梁……何で泣くんですか」
「縁の坊や、今だから言うが……神の怒りを鎮める神社ってのはな? 怖いんだよ、建てる方もな」
「あ~ちょっと的外れかもしれないけど、飲食店で例えるとブチギレているお客に、料理提供するようなもん? そりゃ怖いわ」
「はっはっは、風野音の例えにのるなら、ぶつくさ文句言いながらも食べて、クソみたいな感想を言って支払い済ませて帰る常連って所か」
「うわ~来ないで欲しい!」
「……それがな縁の坊や、絆の嬢ちゃんから『良き縁を守り、悪しき絆を断つ神社』に建て直しって聞いた時は耳を疑ったぜ」
「棟梁、今度は神社を大切にする、よろしくお願いいたします」
「てやんでぇ! ちくしょう、今日は店じまいだ、その摂社の詳しい話は兄貴とするから今日はけえんな!」
「え! とう――」
縁が言葉を続ける前に、棟梁はまさに脱兎の如く事務所へ逃げてしまった。
「ありゃりゃ、とりあえずここから――おや?」
風月は後ろからの視線に気付いた。
振り返ると兎の子供達が物陰からこちらを見ている。
無論動物の兎から人型まで様々だ。
「お客さんだ」
「お客さんだね」
「あれが縁様? 人の世ではあの服装がナウいの?」
「あ! 兄貴だ! 病気治ったのかな?」
「あのお姉さん速そう!」
「草原の力を感じる!」
「それ風じゃね?」
兎の子供達は外からの風月に興味津々な様だ。
「おやおや、子供達に見つかってしまったわい」
「福さん、見つかって別に悪い事してるわけじゃないでしょ」
「まあそうじゃがの」
「よしよし、見聞を広める為にゴー」
福を抱っこしながら風月は子供達の元へと歩いた。
少し緊張している子供達に、風月は笑顔で挨拶をする。
「こんにちは」
「こ、こんにちは!」
「あ! 海渡様を抱っこしてる!」
「ダメなんだよ! 海渡様は偉い神様なんだから、抱っこはダメ!」
「ふっふっふ、まあ待て子供達よ、ワシが頼んだのじゃ」
その一言で風月を見る子供達目が変わった。
この兎の園で一番偉い兎が、抱っこをお願いした客人になったのだから。
「いいなー!」
「お姉さんは特別なの?」
「ズルい」
「海渡様、あそぼー!」
「お姉さんも一緒にあそぼ!」
「おおう、熱烈な歓迎だね~」
「風野音殿、私の代わりにこの子達と、かけっこしてくれんかの?」
「お、いいね~」
「海渡様は?」
「様は~?」
「わかったわかった、ワシも後で走るから」
「わーい!」
「今度は負けないぞ!」
子供達とかけっこをする為に公園へ。
公園と言っても本格的に競技用のトラック。
その隣にはだだっ広い草原があった。
風月は子供達と草原でおいかけっこををする。
子供達とは言え兎の神様、もしくはそれに近い存在。
風月もそこそこ本気を出して子供達と遊んでいる。
縁達は離れた場所でそれを眺めていた。
「縁、本当にお前さんは変わったな」
「どうしたんだ兄貴?」
「今のお前からは、人に対しての怨み辛みよりも、彼女を大切にするという覚悟が伝わる」
「そりゃ他人恨む時間より、彼女と居る時間の方が大切だからですよ」
「ふぅむ、忠告じゃが近い将来困難が待ち受けている」
「ええ、何なくわかります」
「そうか……人と神のハーフは大変じゃの?」
「人としてある程度の運命は受け入れますよ」
「ふむ?」
「将来お前は俺達に危害を加えるから排除する、と、お前は俺達に危害を加えたから排除するは違うでしょ」
その昔、縁は絆の敵を問答無用で滅びゆく幸運を人に渡してきた。
神の力で将来絆に危害を加える者達もその時幸運にしたのだろう。
だが、それを繰り返した所で終わりは無く、人の世で生きるのは不可能。
様々な人の出会いが縁にいい影響を与えたのだろう。
「とは言え、結びさんと俺の幸せを邪魔するなら別だ」
「どうやら心配無用じゃな」
「だな海渡様、ただな縁? お前は見守ってるよ」
「ありがとう兄貴」
「お前はこの後どうすんだ?」
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