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第四章 縁と結びで縁結び

第三話 演目 滅ぶ前に行ってきた

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 縁達は件の町に到着した、看板には『アゾール』と書いてある。
 早速縁達は町へと入っていく、一見何の変哲もないだだの町だ。

「ふむ、一見普通の町だが、腐った心が多いようじゃの」
「ムカツク音が多い、よく町として機能している」
「なるほど、旅人や外の人間を食い物にしているな」

 この3人には、手を取る様に町の実態がわかる。
 ボケっと立っていると、少年と青年が縁達の後ろから走ってきた。

「へへっ! もーらい!」
「ジャージにうさ耳とか馬鹿かよ!」
「バーカバーカ!」
「行こうぜー!」
「ぎゃははは!」

 なんと、少年達は縁の鞄を手際よくひったくりをした。
 スファーリアはビーダーで、トライアングルを叩こうとするが。

「待てスファーリア、俺が直接手を下す」

 縁が止める、そしていつの間にか、白いジャージが黒いジャージになっていてた。
 楽しそうにしている縁は、ニコニコしながら歩いてひったくり犯を追いかけていく。

「ああ……こりゃ大変じゃ」
「天女様どうしたの?」
「ふむ、スファーリアは知らぬのか、神にとって神器は大切な物なのじゃ、あれが縁の神器と知っとるか?」
「それは知ってる、でもどのくらい大切なの?」
「その神の象徴とも言っていいかもな、あの鞄は人の縁を表しておる」
「うーむ、想像付かない」
「例えば、贈り物は気持ちがこもっとるじゃろ?」
「そうね」
「いや……ああ、お主にはこういえばいいか」
「ん?」

 スファーリア首を傾げる。

「仮の話じゃが、あの鞄がお主の贈り物ならば、縁はブチギレるじゃろう」
「確かに」
「つまり、それくらい大事なもんという事じゃ」
「なるほど」
「……しかしお前さんも物好きじゃ」
「何で?」
「神を好きになるとはな」
「それは違う、神としての縁君は興味ない」
「ふむ、では何処が好きなのじゃ?」
「お覚悟、それを語るには時間がかかる」
「では、座る所でも探して聞こうかの」

 盛大な惚気話の一方で、縁は裏路地に入っていった。
 見るからにヤバい雰囲気が漂っている。
 先程のひったくり犯の子供達が居て、周りにも数人屯って居た。
 縁は恐れる事なく少年達に近寄っていく。

「へへへ」
「何だ何だ? おかしなかっこうな奴が来たぜ」
「馬鹿じゃねーの」
「鞄はどこだ?」
「はぁ? 知ら――」

 その中で一番年上の青年の首を掴み、壁に叩きつけた。
 言葉を発する事も無く青年は気絶して、そのまま地面へと倒れる。 

「人生を終わる覚悟があったんだよな?」
「てめぇ!」
「こんな事してただで――」
「お前達こそ、神に向かってその態度か?」
「ああ!? 神だぁ!? ばっかじゃ――」
「お前達もこうなりたいか?」

 縁は気絶している男を指差した、その場にいる全員が一呼吸置いて考える。
 目の前の変な姿の男はやべぇと、誰も言葉を発さなくなった。
 ゆっくりと歩き出した縁は、近くのボロい道具屋にドアを蹴り破って入る。
 
「おい、俺の鞄を返しな」

 ドアを破られた店主は、勢い良く縁に突っかかって来た。

「何だてめぇは! ドア破壊とは随分な挨拶じゃねーか!」
「鞄を返せ」
「ああ!? てめぇの鞄!? 知らねーよ!」

 縁は楽しそうに道具屋の奥を見た、自分の鞄が机に置いてあるのを確認した。

「そうかそうか、ご禁制の『竜人の心臓』がたんまりと……溢れてくるほど入っていたのだがな」
「ああ!? 馬鹿いうな! あるわけねーだろ!」
「じゃあその……竜人の心臓の山はなんだ?」
「ああ!? なっ!」

 竜人の心臓、珍しい竜と人の間に出来た子、その心臓を宝石に加工した物。
 一応所持は出来る、だがそれは親族や厳しい審査等をクリアした者達が持てる。
 その竜人の心臓が、鞄からこれでもかと溢れていた、というか今も溢れ続けていた。

「ななな! まさか!」

 店主は急いで駆け寄り、竜人の心臓を1つ手に取った。

「ほほほほほ! 本物だ……本物の竜人の心臓だ!」
「ほう? 本物かどうかわかるのか、流石道具屋だ」
「ああああ、あんた何者だ! すまなかった! 俺はこんなの見なかった! 見逃してくれ!」

 急いで鞄を取る手は震えていて、店主は神に供物を捧げる様に跪いている。
 顔を上げずに両手で鞄を差しだしていた。 

「落ち着け、俺は神なだけだ、つまり『人間の決めた法』に従う必要は無いだけさ」
「か! 神!? ハッ!? お、お前はまさか!? ウサミミカチューシャに……黒いジャージ! まさか! 縁! あの縁か!」

 店主は顔を上げずに更に震えを大きくした。
 ここは過去、昔の縁が黒いジャージを着て暴れ回っていた時間軸。
 いわばイキリチラシしていた全盛期、名前を聞いただけでも震え上がるだろう。
 縁は鞄を取り返した、そして何時ものように肩にかける。

「ふむ、有名なようで」
「おおおお! 終わりだ! 何もかも終わりだ!」
「いやいや落ち着けよ、鞄を返せばいいだけだ……いや、ここは道具屋なら、買ってやるよ」
「い、いらねぇ! 返す! 返す! この竜人の心臓も持ってってくれ!」
「それはお代として置いて行こう、身の丈に合わない生活を楽しむといい」
「ま、待て! 待て! 待ってくださーい!」

 悲痛な店主の声は縁に届かなかった。
 店を出で青年を気絶させた場所まで戻ってきた。

「衛兵さん! アイツだ!」

 ひったくり犯の少年は縁を指差した、軽装備に身を包んだ衛兵が縁を見る。
 その場にいる少年達と、気絶から回復した青年はニヤリと笑っていた。

「おいおい、何でこの町に縁が居るんだ? てかガキじゃなかったか?」
「神に常識は通用しないだろう」
「マジかよ、この町も終わったな」
「ああ、これで何回目だ? 俺とお前の家族で夜逃げするの」
「5回目だ」
「慣れたもんだな」
「ああ、直ぐに出て行くぞ」

 衛兵達はそそくさとその場を去ろうとする。

「はっ!? 何で助けてくれないんだよ!」
「おじさん達はね、流石に自分の命や家族を掛けてまで、君達を助けたくない」
「んじゃな、話し合いをすれば助かるかもよ」
「なっ! なっ!」
「ああ神様よ、誰にも言わないし俺達は見なかった、見逃してくれ」

 それだけ言うとあっけにとられる少年達、縁は感心した様に頷いた。

「あの者達はいい判断をした……好き勝手しているお前達を見ていると、昔の自分を見ているようだ」

 縁は鞄からアタッシュケースを3つ地面に投げた。

「これは治療費と口止め料だ」

 それだけ言うと縁はその場を去った。
 スファーリア達は公園のベンチに座っている。
 楽しそうに談笑している所に、白いジャージ姿の縁が戻ってきた。

「お帰りなさい」
「おやおや、意外と速かったの」
「ええ、ダラダラやってられませんよ」
「過度に暴れておらんじゃろうな?」
「さあ? 身の丈に合わない事をしなければいい」
「まったく、グリオード達の暴れる分が無くなるぞ?」
「天女様は?」
「からからこっこ、からこっこ……笑いが止まらんな、上質とは言えんが、心の醜さの森林浴は良かったぞ」
「心の醜さに浴……心醜浴しんしゅうよくとか」
「スファーリアよ、中々面白い名前を付けたの」
「天女様も満足そうだし、一度グリオード達の所に帰るか」
「ああ、見学は終わりにしようかの」

 これ以上居ると厄介事が増えそうなので、縁達はグリオードが居る宿屋へと向かった。
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