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二十四章
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「眠留、あんたが選択授業の責任者なのよね」
「私はあくまで眠留くんの手伝いをするだけよ」
「お兄ちゃん、ここはカッコイイとこ見せないと」
てな具合に超絶美少女三人に詰め寄られた僕は頬を引き攣らせつつも、黙って首を縦に振るしかなかったのである。
まあでもそのお陰でその日の夜は輝夜さんと電話で沢山話せたし、一夜明けた今日も一限から五限まで輝夜さんと連絡を取り続けたし、連絡する度に准士の初任務のプレッシャーを良い意味で逸らすことが出来たから、嬉しさしか僕は感じていなかった。そして何より、ステータスボードについて相談があるとの名目を掲げた輝夜さんが、
「眠留くん、准士の初任務お疲れ様でした」
「ありがとう輝夜さん」
湖校前駅にこうして足を運び僕を待っていてくれたのだから、ありとあらゆる疲労はたちどころに消え去るというもの。僕は天にも昇る気持ちで帰路についたのだった。
今日の初任務について輝夜さんと話しながら、夕暮れ時の春の路地を歩いてゆく。二人でこうしていると、二年前の五月に狭山湖畔公園で輝夜さんと初デートした時のセピア色の世界が思い出され、僕らは自然と手を繋いだ。輝夜さんの手のぬくもりと柔らかさと、そして二人でいられる幸せが胸に染み渡ってゆく。それはそれで無上に嬉しかったのだけど、そのひとときが幸せすぎたせいで、ステータスボードについてまったく何も話さぬまま僕と輝夜さんは神社に着いてしまった。
と言ってもまだ石段を登る前だったから、僕らは大急ぎで本来の話題に移った。するとこれが、危険なほど面白かった。実際危険な場面があって、石段を登り切ったことに気づかず僕は足をもう一歩踏み出し、その足が空を切ってすっ転びそうになったのである。平らな場所だったから良かったものの、石段を降りている最中の出来事だったらと思うと、僕らは肝を冷やさずにはいられなかった。
けどそれは、選択授業に役立つ教訓ももたらしてくれた。今僕が石段を登っていることを忘れたように、モンスターをバッサバッサと斬り倒していくことに熱中して周りが見えなくなる生徒が、現れるかもしれないと気づけたのである。こりゃマズイという事になり、夕食時の話題提供も兼ねてそれを説明し皆に助力を求めたところ、非常に有用な意見を多数聴くことができた。中でも秀逸だったのが、祖母の提案したコレだった。
「モンスター戦の最中に、戦闘以外の要素も3Dで映すのはどうかしら。気づかないと転んでしまう岩を足元に映したり、助けを求める声が背後から聞こえてきたりするの。なるべく初期の段階からそうして、周囲へ常に気を配る習慣を身に付けさせるのね」
その途端、
「「「「それだ!!」」」」
の声が台所に轟いた。分けても祖父は凄まじく、祖母の両手を取り上下にブンブン振り、それでも称賛の想いを満たせなかったのか祖母をハグし、背中を景気よく叩いていた。その状況に祖母は恥じらいつつも、ちょっぴり嬉しげに語り掛けた。
「あなた、周囲に気を配る大切さを、周囲が目に入っていない様子を実演することで子供達に教えなくても、いいんですよ」
ハッとした祖父が、祖母をハグしたまま首を巡らせる。その直後、祖父の顔が盛大に引き攣った。皆が皆ニマニマと、人の悪い笑みの見本の如き表情で祖父を見つめていたからである。まあでもそれは場を盛り上げるための演技に過ぎず、年頃娘たちが真に望んでいたのは祖父母の熱々ぶりにきゃいきゃい騒ぐことで、祖母も女学生のように頬を赤らめてそれに乗っかっていたから、この展開が最善だったのだろう。女性陣の声の大きさを危惧した美夜さんが、祖父と僕の周囲に相殺音壁をこっそり展開してくれたお陰で、鼓膜も痛まなかったしね。
それはさて置き、祖母の提案は幾重もの意味でまこと妙案だった。安全性の向上に繋がるのはもちろん、戦闘の幅が広がりゲームは一層面白くなるし、そして広がったその幅は、剣道との違いをより明確にしてくれたからだ。現代には量子AI制御の3D映像技術があるのだから、それを活かした新しい格闘技が、もしくは武道がきっとあるはず。柔道やレスリングのように相手と実際に組み合う競技はフルダイブ技術の登場を待たねばならなくとも、武器を手に戦う武道なら、設定次第でそれは新しい武道になり得る。人を凌駕するモンスターとの戦闘において敵の攻撃を受け止める状況は無く、必然的に「体捌き」が磨かれる。加えて新素材刀の能力を引き出すには、「精妙な太刀操作」が必須となる。道場の床のように真っ平らな場所で戦闘を行うことは滅多になく、岩などの凸凹に注意せねばならない戦闘環境はむしろ「実戦に則している」と言えるだろう。このような設定が、つまり剣道を始めとする従来の武道では不可能だった設定が、現代の技術をもってすれば可能なのだ。ならばそれを活かした新しい武道を、
―― 湖校で創設
してみようじゃないか!
という状況に僕らが今いる事を、祖母の提案は教えてくれたのである。女性陣のきゃいきゃいが一段落するのを待ち、戦闘中に映す戦闘外映像について、僕らは時間を忘れて議論を交わしたのだった。
その日の夜、就寝三十分前の午後八時半。
「咲耶さん、これが戦闘中に映す戦闘外映像の、草案です。草案に過ぎずまだ完成していませんから、明日の選択授業では、風スラの風切り音の再現だけお願いします」
「みっちゃんに今日の夕飯の光景を見せてもらったわ。戦闘中の戦闘外映像に、私も賛成します。それは良いのだけど・・・」
「私はあくまで眠留くんの手伝いをするだけよ」
「お兄ちゃん、ここはカッコイイとこ見せないと」
てな具合に超絶美少女三人に詰め寄られた僕は頬を引き攣らせつつも、黙って首を縦に振るしかなかったのである。
まあでもそのお陰でその日の夜は輝夜さんと電話で沢山話せたし、一夜明けた今日も一限から五限まで輝夜さんと連絡を取り続けたし、連絡する度に准士の初任務のプレッシャーを良い意味で逸らすことが出来たから、嬉しさしか僕は感じていなかった。そして何より、ステータスボードについて相談があるとの名目を掲げた輝夜さんが、
「眠留くん、准士の初任務お疲れ様でした」
「ありがとう輝夜さん」
湖校前駅にこうして足を運び僕を待っていてくれたのだから、ありとあらゆる疲労はたちどころに消え去るというもの。僕は天にも昇る気持ちで帰路についたのだった。
今日の初任務について輝夜さんと話しながら、夕暮れ時の春の路地を歩いてゆく。二人でこうしていると、二年前の五月に狭山湖畔公園で輝夜さんと初デートした時のセピア色の世界が思い出され、僕らは自然と手を繋いだ。輝夜さんの手のぬくもりと柔らかさと、そして二人でいられる幸せが胸に染み渡ってゆく。それはそれで無上に嬉しかったのだけど、そのひとときが幸せすぎたせいで、ステータスボードについてまったく何も話さぬまま僕と輝夜さんは神社に着いてしまった。
と言ってもまだ石段を登る前だったから、僕らは大急ぎで本来の話題に移った。するとこれが、危険なほど面白かった。実際危険な場面があって、石段を登り切ったことに気づかず僕は足をもう一歩踏み出し、その足が空を切ってすっ転びそうになったのである。平らな場所だったから良かったものの、石段を降りている最中の出来事だったらと思うと、僕らは肝を冷やさずにはいられなかった。
けどそれは、選択授業に役立つ教訓ももたらしてくれた。今僕が石段を登っていることを忘れたように、モンスターをバッサバッサと斬り倒していくことに熱中して周りが見えなくなる生徒が、現れるかもしれないと気づけたのである。こりゃマズイという事になり、夕食時の話題提供も兼ねてそれを説明し皆に助力を求めたところ、非常に有用な意見を多数聴くことができた。中でも秀逸だったのが、祖母の提案したコレだった。
「モンスター戦の最中に、戦闘以外の要素も3Dで映すのはどうかしら。気づかないと転んでしまう岩を足元に映したり、助けを求める声が背後から聞こえてきたりするの。なるべく初期の段階からそうして、周囲へ常に気を配る習慣を身に付けさせるのね」
その途端、
「「「「それだ!!」」」」
の声が台所に轟いた。分けても祖父は凄まじく、祖母の両手を取り上下にブンブン振り、それでも称賛の想いを満たせなかったのか祖母をハグし、背中を景気よく叩いていた。その状況に祖母は恥じらいつつも、ちょっぴり嬉しげに語り掛けた。
「あなた、周囲に気を配る大切さを、周囲が目に入っていない様子を実演することで子供達に教えなくても、いいんですよ」
ハッとした祖父が、祖母をハグしたまま首を巡らせる。その直後、祖父の顔が盛大に引き攣った。皆が皆ニマニマと、人の悪い笑みの見本の如き表情で祖父を見つめていたからである。まあでもそれは場を盛り上げるための演技に過ぎず、年頃娘たちが真に望んでいたのは祖父母の熱々ぶりにきゃいきゃい騒ぐことで、祖母も女学生のように頬を赤らめてそれに乗っかっていたから、この展開が最善だったのだろう。女性陣の声の大きさを危惧した美夜さんが、祖父と僕の周囲に相殺音壁をこっそり展開してくれたお陰で、鼓膜も痛まなかったしね。
それはさて置き、祖母の提案は幾重もの意味でまこと妙案だった。安全性の向上に繋がるのはもちろん、戦闘の幅が広がりゲームは一層面白くなるし、そして広がったその幅は、剣道との違いをより明確にしてくれたからだ。現代には量子AI制御の3D映像技術があるのだから、それを活かした新しい格闘技が、もしくは武道がきっとあるはず。柔道やレスリングのように相手と実際に組み合う競技はフルダイブ技術の登場を待たねばならなくとも、武器を手に戦う武道なら、設定次第でそれは新しい武道になり得る。人を凌駕するモンスターとの戦闘において敵の攻撃を受け止める状況は無く、必然的に「体捌き」が磨かれる。加えて新素材刀の能力を引き出すには、「精妙な太刀操作」が必須となる。道場の床のように真っ平らな場所で戦闘を行うことは滅多になく、岩などの凸凹に注意せねばならない戦闘環境はむしろ「実戦に則している」と言えるだろう。このような設定が、つまり剣道を始めとする従来の武道では不可能だった設定が、現代の技術をもってすれば可能なのだ。ならばそれを活かした新しい武道を、
―― 湖校で創設
してみようじゃないか!
という状況に僕らが今いる事を、祖母の提案は教えてくれたのである。女性陣のきゃいきゃいが一段落するのを待ち、戦闘中に映す戦闘外映像について、僕らは時間を忘れて議論を交わしたのだった。
その日の夜、就寝三十分前の午後八時半。
「咲耶さん、これが戦闘中に映す戦闘外映像の、草案です。草案に過ぎずまだ完成していませんから、明日の選択授業では、風スラの風切り音の再現だけお願いします」
「みっちゃんに今日の夕飯の光景を見せてもらったわ。戦闘中の戦闘外映像に、私も賛成します。それは良いのだけど・・・」
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