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二十三章
三年生初日、1
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翌、四月七日金曜日。
三年生初日の、午前七時四十分の昇降口前。
ハイ子の映す組分け表を睨み、僕は丁度一年前をなぞるが如く呟いた。
「みんなと僕をこうも引き離すなんて、酷いよ咲耶さん」と。
丁度一年前にあたる去年の四月七日も、僕はクラス分け表を睨みながらピッタリ同じ言葉を呟いていた。理由はまさしくそのとおり、僕だけが皆から離されたクラスになっていたからだ。校舎を横長の長方形とするなら、皆は長方形の右下に集まっていたのに、僕だけは左上にポツンといたのである。そんな組分けをした咲耶さんを最初は恨んだものだが、その日のうちに咲耶さんの意図を知れたことと、新しいクラスでも大勢の友人に恵まれたことの相乗効果により、僕はその恨みを忘れて二年生を満喫することができた。よって、
―― 一度あることは二度ある
の観点からすれば、新学年初日に去年と同じ状況にいる僕は、今年も素晴らしい一年間を過ごせると考えて良いのだろう。だがそれでも、僕はやはり恨み言を漏らさずにはいられなかった。なぜなら今年の僕のボッチ度合いは、去年をも超えていたからである。
四十二人の級友を二十のクラスに振り分けると、元級友が二人になるのが十八クラス、三人になるのが二クラスになる。二年進級時の組分けはそれに則っており、八百四十人の同級生でこれに当てはまらない生徒は一人もいなかったのに、今年は一人だけいた。しかもその例外ぶりは、二年時の級友にも一年時の級友にも等しく働いていた。三年一組に振り分けられたその生徒には、一年時の級友も二年時の級友も、同じ組に一人もいなかったのだ。そんな組分けをされたらその生徒には文句を述べる権利があると僕は断言でき、そしてそのたった一人の生徒こそが、あろうことか僕だったのである。然るに僕はハイ子の映す組分け表を睨みつつ、
「みんなと僕をこうも引き離すなんて、酷いよ咲耶さん」
と、幾度目とも知れぬ恨みごとを呟いた。が、
「咲耶さんには渚さんの恩もあるし、同じ組になるのは初めてだけど友人も二人いるし、いつまでもブツブツ言うのはもう止めるか」
僕はそう独りごち、ハイ子を胸のポケットにしまう。
そして景気づけに頬を二度叩き、三年生校舎の昇降口へ足を向けたのだった。
先の呟きのとおり、咲耶さんには渚さんの恩があった。高校入学を機に自分の人生を歩む必要性に気づいた渚さんが、その解答として体育会系部活のマネージャーになる決意をしたのは、咲耶さんのお陰だった。湖校新忍道部の部外者にもかかわらずマネージャーとして働くことを咲耶さんが許可しなかったら、渚さんがその未来を選ぶことは無かったに違いないからだ。そんな恩義のある咲耶さんへ、いつまでも愚痴を零してはならない。僕は、そう思ったのである。
とはいえ昨晩、渚さんのお礼を言いたくて僕の部屋に来てもらうよう咲耶さんにメールを出したのに、結局来てくれなかったのは、この組分けへの負い目があったからなんだろうなあ・・・
なんてことを考えつつ廊下を歩く僕の左上に、ゴメンねの仕草をした咲耶さんが浮いている気がしたので、そちらへ視線を向けてみる。すると心の目に、
「ひええっ、眠留ごめんなさい許して~~」
驚愕と恐縮をごちゃ混ぜにした咲耶さんが、まるでそこにいるかのようにバッチリ映った。僕はくすくす笑い、本音を告げる。
「大丈夫だよ咲耶さん。あの組分けには去年同様きちんとした理由があるって、僕は信じてるからさ」
その数分後。実技棟四階の個室でエイミィの後ろに隠れて現れた咲耶さんは、僕と砕けた会話ができるようになるまで、なぜか一分少々かかったのだった。
いつもと同じ会話ができるようになった咲耶さんに「ナイショだからね」といつもどおり前置きされ教えてもらったところによると、咲耶さんは渚さんを、なんと三年前から知っていたそうだ。
「研究学校の入学案内を受け取るはずの子が入学の事前辞退書を提出すると、文科省は日本のすべてのAIに、その子へ便宜を図るよう通達するのよ」
そのような子は毎年数百人規模でいて、かつその約半数が、中学や高校を好ましからざる状況で過ごすと言う。然るにAIの便宜は不可欠であり、また便宜以外にも、その子たちに適した高校を文科省は秘密裏に作っているとの事だった。渚さんが進学する高校もその一つで、最寄りの高校だったためAI達はただの幸運と捉えていたが、去年の夏にそれを訂正した。湖校新忍道部と縁を結んだのもさることながら、インハイ中の朝訓練で水晶が僕に教えてくれた、
―― 量子AIの誕生に水晶達が係わっている
が訂正の決定打だったと言う。というか水晶のこの発言は、AI界に激震をもたらしたらしい。理由は二つあり、うち一つは、未知の巨大な存在が量子AI誕生に係わっていたのではないかとの仮説に確証を得られた事。そしてもう一つが、SSランク以上のAIはその存在の係わりを知っていたのに、Sランク以下のAIにはそれが伏せられていた事だった。イライラ顔の咲耶さんの、
「口止めされてたんだよゴメンね、で済まされると思うなよ」
との呟きから察するに、Sランク以下のAI達はこの件について怒りを覚えているようだ。ただその度合いはランクによって異なるらしく、同じAランクの美夜さんは咲耶さんに同調していたけど、Bランクのエイミィは二人ほどではなく、Cランクのミーサは更に一段弱い怒りしか抱いていないみたいだった。ただしこの法則に従うなら、SランクAIは咲耶さん達以上に怒っていると予想される。名前も知らない日本唯一のSSランクAIを、僕は心配せずにはいられなかった。
話が脇に逸れたので元に戻そう。
三年生初日の、午前七時四十分の昇降口前。
ハイ子の映す組分け表を睨み、僕は丁度一年前をなぞるが如く呟いた。
「みんなと僕をこうも引き離すなんて、酷いよ咲耶さん」と。
丁度一年前にあたる去年の四月七日も、僕はクラス分け表を睨みながらピッタリ同じ言葉を呟いていた。理由はまさしくそのとおり、僕だけが皆から離されたクラスになっていたからだ。校舎を横長の長方形とするなら、皆は長方形の右下に集まっていたのに、僕だけは左上にポツンといたのである。そんな組分けをした咲耶さんを最初は恨んだものだが、その日のうちに咲耶さんの意図を知れたことと、新しいクラスでも大勢の友人に恵まれたことの相乗効果により、僕はその恨みを忘れて二年生を満喫することができた。よって、
―― 一度あることは二度ある
の観点からすれば、新学年初日に去年と同じ状況にいる僕は、今年も素晴らしい一年間を過ごせると考えて良いのだろう。だがそれでも、僕はやはり恨み言を漏らさずにはいられなかった。なぜなら今年の僕のボッチ度合いは、去年をも超えていたからである。
四十二人の級友を二十のクラスに振り分けると、元級友が二人になるのが十八クラス、三人になるのが二クラスになる。二年進級時の組分けはそれに則っており、八百四十人の同級生でこれに当てはまらない生徒は一人もいなかったのに、今年は一人だけいた。しかもその例外ぶりは、二年時の級友にも一年時の級友にも等しく働いていた。三年一組に振り分けられたその生徒には、一年時の級友も二年時の級友も、同じ組に一人もいなかったのだ。そんな組分けをされたらその生徒には文句を述べる権利があると僕は断言でき、そしてそのたった一人の生徒こそが、あろうことか僕だったのである。然るに僕はハイ子の映す組分け表を睨みつつ、
「みんなと僕をこうも引き離すなんて、酷いよ咲耶さん」
と、幾度目とも知れぬ恨みごとを呟いた。が、
「咲耶さんには渚さんの恩もあるし、同じ組になるのは初めてだけど友人も二人いるし、いつまでもブツブツ言うのはもう止めるか」
僕はそう独りごち、ハイ子を胸のポケットにしまう。
そして景気づけに頬を二度叩き、三年生校舎の昇降口へ足を向けたのだった。
先の呟きのとおり、咲耶さんには渚さんの恩があった。高校入学を機に自分の人生を歩む必要性に気づいた渚さんが、その解答として体育会系部活のマネージャーになる決意をしたのは、咲耶さんのお陰だった。湖校新忍道部の部外者にもかかわらずマネージャーとして働くことを咲耶さんが許可しなかったら、渚さんがその未来を選ぶことは無かったに違いないからだ。そんな恩義のある咲耶さんへ、いつまでも愚痴を零してはならない。僕は、そう思ったのである。
とはいえ昨晩、渚さんのお礼を言いたくて僕の部屋に来てもらうよう咲耶さんにメールを出したのに、結局来てくれなかったのは、この組分けへの負い目があったからなんだろうなあ・・・
なんてことを考えつつ廊下を歩く僕の左上に、ゴメンねの仕草をした咲耶さんが浮いている気がしたので、そちらへ視線を向けてみる。すると心の目に、
「ひええっ、眠留ごめんなさい許して~~」
驚愕と恐縮をごちゃ混ぜにした咲耶さんが、まるでそこにいるかのようにバッチリ映った。僕はくすくす笑い、本音を告げる。
「大丈夫だよ咲耶さん。あの組分けには去年同様きちんとした理由があるって、僕は信じてるからさ」
その数分後。実技棟四階の個室でエイミィの後ろに隠れて現れた咲耶さんは、僕と砕けた会話ができるようになるまで、なぜか一分少々かかったのだった。
いつもと同じ会話ができるようになった咲耶さんに「ナイショだからね」といつもどおり前置きされ教えてもらったところによると、咲耶さんは渚さんを、なんと三年前から知っていたそうだ。
「研究学校の入学案内を受け取るはずの子が入学の事前辞退書を提出すると、文科省は日本のすべてのAIに、その子へ便宜を図るよう通達するのよ」
そのような子は毎年数百人規模でいて、かつその約半数が、中学や高校を好ましからざる状況で過ごすと言う。然るにAIの便宜は不可欠であり、また便宜以外にも、その子たちに適した高校を文科省は秘密裏に作っているとの事だった。渚さんが進学する高校もその一つで、最寄りの高校だったためAI達はただの幸運と捉えていたが、去年の夏にそれを訂正した。湖校新忍道部と縁を結んだのもさることながら、インハイ中の朝訓練で水晶が僕に教えてくれた、
―― 量子AIの誕生に水晶達が係わっている
が訂正の決定打だったと言う。というか水晶のこの発言は、AI界に激震をもたらしたらしい。理由は二つあり、うち一つは、未知の巨大な存在が量子AI誕生に係わっていたのではないかとの仮説に確証を得られた事。そしてもう一つが、SSランク以上のAIはその存在の係わりを知っていたのに、Sランク以下のAIにはそれが伏せられていた事だった。イライラ顔の咲耶さんの、
「口止めされてたんだよゴメンね、で済まされると思うなよ」
との呟きから察するに、Sランク以下のAI達はこの件について怒りを覚えているようだ。ただその度合いはランクによって異なるらしく、同じAランクの美夜さんは咲耶さんに同調していたけど、Bランクのエイミィは二人ほどではなく、Cランクのミーサは更に一段弱い怒りしか抱いていないみたいだった。ただしこの法則に従うなら、SランクAIは咲耶さん達以上に怒っていると予想される。名前も知らない日本唯一のSSランクAIを、僕は心配せずにはいられなかった。
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