僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

文字の大きさ
上 下
791 / 934
二十一章

業務遅参の罰、1

しおりを挟む
 美鈴の誕生日は、二十組と旧十組で行う会合の、二回目の日でもあった。午後八時、幹事の小池が開会宣言をした。
「ただいまより、第二回目の会合を始めます」
 二回目の会合も終始順調に推移し、クリスマス会の基本方針が速やかに決まった。それは、
 
 一、序列意識の排除は自然に進める
 二、この会合への新規参加は組単位で行う

 の二つだった。この二つには、二十組での経験が活かされていた。僕と香取さんは、序列意識の排除を強引に進めなかった。上下意識を持たず級友達と接し、それが皆の日常になるよう自然に振舞ってきたのだ。そんな僕と香取さんに、級友達は真情を明かしてくれた。
 ――強引に進めていたら、反発の気持ちが生まれていたかもしれない。自然にするのが一番いいと思う――
 級友達は会合で、そう明かしてくれたのである。僕は感激のあまり指が震え、キーボードを弾けず沈黙していた。その沈黙を誰かが取り上げるなり、他の誰かが「感動屋の猫将軍は感動して指を動かせないんだろ」と正確極まる書き込みをしたため、指の震えが全身に広がり僕はいささか困った。という状況を、級友達は心の目でしっかり見ていたのだと思う。矢継ぎ早に「猫将軍君に感化されて私も感動屋になっちゃった」「そして俺はそんな自分を気に入っている」「私も!」「俺も!」「「「だよね~~」」」系の書き込みがされてゆき、僕は冗談抜きで真剣に困ってしまった。まあ嬉しくもあったから、全然いいんだけどさ。
 二十組の経験が生きたのは、基本方針の二つ目も同じだった。級友達によると、序列意識のない学校生活の素晴らしさを皆は夏休み前から朧気に感じていたらしく、それが文化祭の準備を経て一気に表面化したとの事だっだ。それがクラスに一体感を生み、育て、そしてそんな学校生活が楽しくて面白くて堪らなかったからこそ、こうして一人も漏れずこの会合に参加できているのだと皆は言ってくれたのである。僕は正直に、「もう一杯一杯なので勘弁して下さい」と書き込んだ。すると僕のせいで感動屋が増えたのはネタではなかったのかニ十組の書き込みが一時的に激減するも、任せろとばかりに旧十組の皆が多数の発言をしてくれたお陰で考察に支障は出なかった。それが功を奏し、個人ではなくクラス単位でこの会合に招待することを、速やかに決定できたのである。元級友と現級友の区別なく、みんなホントありがとう!
 この二つの決定をもって今回の会合は終了し、残りは自由時間となった。僕は八時五十五分まで皆とワイワイやり、そして八十三人の仲間達と盛大に別れの挨拶をして通信を切った。トイレに行き布団に潜り込み、さあ寝ようという段階になってやっと、
「九時に寝る僕に合わせて、自由時間を作ってくれたのかな?」
 との可能性が心に芽生えた。僕は布団を跳ね除け枕もとのハイ子へ手を伸ばし、2D画面を立ち上げようとしたが、睡眠時間を削ってそれをしたら皆の気遣いを無視する事になってしまう。かといって「気にしなくていいや」なんて思えるほど神経が太くなかった僕は、熟睡技術を駆使してもナカナカ寝られず少々困ってしまった。でも最後は皆の気遣いへの感謝が勝ち、就寝時間を十分超えただけで眠ることができたのだった。

 翌二十八日。
 月曜日の四限目に、クリスマス仮装会の初HRが始まった。
 二十組は九月一日にクリスマス実行委員の「仮決め」をしていた事もあり、実行委員と委員代表がサクサク決まって非常に心地よかった。皆と過ごしてきた七か月半はもちろん、昨夜の会合や獅子会もこのサクサク進行に一役買っていると来れば、頬がほころばない訳がない。僕はにこにこしながら、クリスマス仮装会の初HRに参加していた。
 が、にこにこ時間はある出来事を境にあっけなく終了した。実行委員長の「余興に案のある人はいませんか?」との呼びかけに応じ、香取さんが元気よく挙手し発言した途端、終わってしまったのだ。その発言は、
「猫将軍君が牛若丸を演じる台本を持ってきました。皆さんのお手元に映しますから目を通して下さい」
 という、顔面蒼白になること必至の発言だったのである。
 香取さんは、僕を牛若丸にするクリスマス会の台本を書くことを、二年に進級して間もない四月上旬の時点で既に公表していた。それを断固阻止したかった僕はあの手この手を使い、香取さんが心変わりするよう努めてきた。それが実り、夏休みが近づくにつれ香取さんは牛若丸云々を口にしなくなり、夏休み明け以降は一度も耳にしなかったから安心していたのだけど、ひょっとするとそれは、七カ月半もの時間を費やした陽動だったのかもしれない。その可能性に気づくや、香取さんを北斗に比肩する知恵者として意識した二年初日の出来事が蘇り、僕は頭を抱えて机に激突するというお約束を不覚にも披露してしまった。そうそれはまさしく不覚であり、牛若丸台本にテンパった僕がお約束を披露することを期待していた皆は、僕をこぞって称賛した。いやそんなに褒めても、これだけは引き下がらないからね!
 と胸の中で不退転の決意をした僕を、きっと気遣ってくれたのだと思う。
「二年連続で牛若丸をするの、そんなに嫌?」
 那須さんが優しい声を掛けてくれた。文化祭一日目の朝、那須さんは僕に「もう終わりにするね」と言った。その翌日の夜になってやっと僕は、那須さんに好意を抱かれていることを心の中で認めることが出来た。それが影響を及ぼしたのかは定かでないが、那須さんは文化祭終了以降も、それまでと全く変わらない付き合いをしてくれている。真山に相談したところ、那須さんが友達づき合いを望んでいるのだから友達のままでいい、とのアドバイスをもらった。確かに僕は那須さんの気持ちに応えられないし、また友人として那須さんを好きなのも事実だから、今は真山のアドバイスに従おうと思っている。
 と横道に逸れたけど、僕は問いかけに首肯した。
「うん、去年と今年の二年連続は、負担が大きいよ」
「そうなんだ。気休めかもしれないけど、猫将軍君が余興で牛若丸をするのは、今年が最後。それについては、安心していいからね」 
「えっ、そうなの? 来年は無いの??」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お姉様(♂)最強の姫になる~最高のスペックでの転生を望んだら美少女になりました~

深水えいな
ファンタジー
高貴な家柄、圧倒的なパワー、女の子にモテモテの美しい容姿、俺の転生は完璧だ!女の子であるという、一点を除けば。お姫様に転生してしまった最強お姉様が、溺愛する妹と共に無双する!爽快コメディーファンタジーです!! ※なろう、カクヨムで公開したものを加筆修正しています

となりの天狗様

真鳥カノ
キャラ文芸
私の家には天狗がいる。その人は訳あって、ひ弱で根暗でちょっと泣き虫で……私の許嫁(非公認)。 ちょっとだけ普通じゃない少女と、すごく普通じゃない天狗様が織り成す、笑えて泣けて、ちょっとキュンとする恋のお話。 表紙は若月しょうさんに描いていただきました! https://illust.daysneo.com/illustrator/t0mar0n15/ ※エブリスタで類似作品を公開中(こちらは大改稿版となります)

継母ですが、娘を立派な公主に育てます~後宮の事件はご内密に~

絹乃
キャラ文芸
母である皇后を喪った4歳の蒼海(ツァンハイ)皇女。未来視のできる皇女の養育者は見つからない。妃嬪の一人である玲華(リンホア)は皇女の継母となることを誓う。しかし玲華の兄が不穏な動きをする。そして玲華の元にやって来たのは、侍女に扮した麗しの青年、凌星(リンシー)だった。凌星は皇子であり、未来を語る蒼海の監視と玲華の兄の様子を探るために派遣された。玲華が得意の側寫術(プロファイリング)を駆使し、娘や凌星と共に兄の陰謀を阻止する継母後宮ミステリー。※表紙は、てんぱる様のフリー素材をお借りしています。

魔導兇犬録:哀 believe

蓮實長治
ファンタジー
そこは「この現実世界」に似ているが様々な「異能力者」が存在し、科学技術と超常の力が併存する平行世界の近未来の日本。 福岡県久留米市で活動する「御当地魔法少女」である「プリティ・トリニティ」は、日頃の活躍が認められ地元自治体の広報活動にも協力するなど順風満帆な日々をおくっていたのだが……。 ある日、突然、いつもと勝手が全く違う血飛沫が舞い散り銃弾が飛び交うスプラッタで命懸けの戦闘をやらされた挙句、サポートしてくれていた運営会社から、とんでもない事を告げられる。 「ごめん……親会社が潰れて、今までみたいに『怪人』役の手配が出来なくなった……」 「えっ?」 なんと、運営の「親会社」の正体は……彼女達の商売敵である「正義の味方」達が、つい最近、偶然にも壊滅させた暴力団だったのだ。 果たして彼女達が選ぶのは……廃業して収入を失しなう奈落への道か? それとも「台本無し・命懸け・今までのイメージぶち壊し」の地獄の三位一体か? 「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「Novel Days」「GALLERIA」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。(GALLERIAは掲載が後になります) この小説の執筆にあたり、下記を参考にしました。 体はゆく できるを科学する〈テクノロジー×身体〉: 伊藤亜紗(著)/文藝春秋社 武術に学ぶ力の発揮:https://ameblo.jp/hokoushien/entry-12013667042.html 剣術の基本。:https://hiratomi.exblog.jp/20897762/ 映画「フィールズ・グッド・マン」アーサー・ジョーンズ監督

ニャル様のいうとおり

時雨オオカミ
キャラ文芸
 ――優しさだけでは救えないものもある。  からかい癖のある怪異少女、紅子と邪神に呪われたヘタレな青年令一。両片想いながらに成長していく二人が絶望に立ち向かう、バトルありな純愛伝奇活劇!  邪神の本性を見て正気を失わず一矢報いてしまった青年、令一は隷属させられ呪われてしまった! 世間から忘れ去られ、邪神の小間使いとしてこき使われる毎日。  諦めかけていた彼はある日夢の中で一人の怪異少女と出会う。  赤いちゃんちゃんこの怪異、そして「トイレの紅子さん」と呼んでくれという少女と夢からの脱出ゲームを行い、その日から令一の世界は変わった。  *挿絵は友人の雛鳥さんからのファンアートです。許可取得済み。  ※ 最初の方は後味悪くバッドエンド気味。のちのち主人公が成長するにつれてストーリーを重ねていくごとにハッピーエンドの確率が上がっていきます。ドラマ性、成長性重視。  ※ ハーメルン(2016/9/12 初出現在非公開)、小説家になろう(2018/6/17 転載)、カクヨム、ノベルアップ+にてマルチ投稿。  ※神話の認知度で生まれたニャル(もどき)しか出てきません。  ※実際のところクトゥルフ要素よりあやかし・和風要素のほうが濃いお話となります。  元は一話一万くらいあったのを分割してます。  現行で80万字超え。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

香しきファンタジー、汝の名はなろうなり

たくみ
エッセイ・ノンフィクション
なろう系にユルく時に鋭く突っ込むエッセイです。 後、思った事を気ままにに書いていますが、異論、反論あれば感想にてお願いします。

処理中です...