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二十一章
業務遅参の罰、1
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美鈴の誕生日は、二十組と旧十組で行う会合の、二回目の日でもあった。午後八時、幹事の小池が開会宣言をした。
「ただいまより、第二回目の会合を始めます」
二回目の会合も終始順調に推移し、クリスマス会の基本方針が速やかに決まった。それは、
一、序列意識の排除は自然に進める
二、この会合への新規参加は組単位で行う
の二つだった。この二つには、二十組での経験が活かされていた。僕と香取さんは、序列意識の排除を強引に進めなかった。上下意識を持たず級友達と接し、それが皆の日常になるよう自然に振舞ってきたのだ。そんな僕と香取さんに、級友達は真情を明かしてくれた。
――強引に進めていたら、反発の気持ちが生まれていたかもしれない。自然にするのが一番いいと思う――
級友達は会合で、そう明かしてくれたのである。僕は感激のあまり指が震え、キーボードを弾けず沈黙していた。その沈黙を誰かが取り上げるなり、他の誰かが「感動屋の猫将軍は感動して指を動かせないんだろ」と正確極まる書き込みをしたため、指の震えが全身に広がり僕はいささか困った。という状況を、級友達は心の目でしっかり見ていたのだと思う。矢継ぎ早に「猫将軍君に感化されて私も感動屋になっちゃった」「そして俺はそんな自分を気に入っている」「私も!」「俺も!」「「「だよね~~」」」系の書き込みがされてゆき、僕は冗談抜きで真剣に困ってしまった。まあ嬉しくもあったから、全然いいんだけどさ。
二十組の経験が生きたのは、基本方針の二つ目も同じだった。級友達によると、序列意識のない学校生活の素晴らしさを皆は夏休み前から朧気に感じていたらしく、それが文化祭の準備を経て一気に表面化したとの事だっだ。それがクラスに一体感を生み、育て、そしてそんな学校生活が楽しくて面白くて堪らなかったからこそ、こうして一人も漏れずこの会合に参加できているのだと皆は言ってくれたのである。僕は正直に、「もう一杯一杯なので勘弁して下さい」と書き込んだ。すると僕のせいで感動屋が増えたのはネタではなかったのかニ十組の書き込みが一時的に激減するも、任せろとばかりに旧十組の皆が多数の発言をしてくれたお陰で考察に支障は出なかった。それが功を奏し、個人ではなくクラス単位でこの会合に招待することを、速やかに決定できたのである。元級友と現級友の区別なく、みんなホントありがとう!
この二つの決定をもって今回の会合は終了し、残りは自由時間となった。僕は八時五十五分まで皆とワイワイやり、そして八十三人の仲間達と盛大に別れの挨拶をして通信を切った。トイレに行き布団に潜り込み、さあ寝ようという段階になってやっと、
「九時に寝る僕に合わせて、自由時間を作ってくれたのかな?」
との可能性が心に芽生えた。僕は布団を跳ね除け枕もとのハイ子へ手を伸ばし、2D画面を立ち上げようとしたが、睡眠時間を削ってそれをしたら皆の気遣いを無視する事になってしまう。かといって「気にしなくていいや」なんて思えるほど神経が太くなかった僕は、熟睡技術を駆使してもナカナカ寝られず少々困ってしまった。でも最後は皆の気遣いへの感謝が勝ち、就寝時間を十分超えただけで眠ることができたのだった。
翌二十八日。
月曜日の四限目に、クリスマス仮装会の初HRが始まった。
二十組は九月一日にクリスマス実行委員の「仮決め」をしていた事もあり、実行委員と委員代表がサクサク決まって非常に心地よかった。皆と過ごしてきた七か月半はもちろん、昨夜の会合や獅子会もこのサクサク進行に一役買っていると来れば、頬がほころばない訳がない。僕はにこにこしながら、クリスマス仮装会の初HRに参加していた。
が、にこにこ時間はある出来事を境にあっけなく終了した。実行委員長の「余興に案のある人はいませんか?」との呼びかけに応じ、香取さんが元気よく挙手し発言した途端、終わってしまったのだ。その発言は、
「猫将軍君が牛若丸を演じる台本を持ってきました。皆さんのお手元に映しますから目を通して下さい」
という、顔面蒼白になること必至の発言だったのである。
香取さんは、僕を牛若丸にするクリスマス会の台本を書くことを、二年に進級して間もない四月上旬の時点で既に公表していた。それを断固阻止したかった僕はあの手この手を使い、香取さんが心変わりするよう努めてきた。それが実り、夏休みが近づくにつれ香取さんは牛若丸云々を口にしなくなり、夏休み明け以降は一度も耳にしなかったから安心していたのだけど、ひょっとするとそれは、七カ月半もの時間を費やした陽動だったのかもしれない。その可能性に気づくや、香取さんを北斗に比肩する知恵者として意識した二年初日の出来事が蘇り、僕は頭を抱えて机に激突するというお約束を不覚にも披露してしまった。そうそれはまさしく不覚であり、牛若丸台本にテンパった僕がお約束を披露することを期待していた皆は、僕をこぞって称賛した。いやそんなに褒めても、これだけは引き下がらないからね!
と胸の中で不退転の決意をした僕を、きっと気遣ってくれたのだと思う。
「二年連続で牛若丸をするの、そんなに嫌?」
那須さんが優しい声を掛けてくれた。文化祭一日目の朝、那須さんは僕に「もう終わりにするね」と言った。その翌日の夜になってやっと僕は、那須さんに好意を抱かれていることを心の中で認めることが出来た。それが影響を及ぼしたのかは定かでないが、那須さんは文化祭終了以降も、それまでと全く変わらない付き合いをしてくれている。真山に相談したところ、那須さんが友達づき合いを望んでいるのだから友達のままでいい、とのアドバイスをもらった。確かに僕は那須さんの気持ちに応えられないし、また友人として那須さんを好きなのも事実だから、今は真山のアドバイスに従おうと思っている。
と横道に逸れたけど、僕は問いかけに首肯した。
「うん、去年と今年の二年連続は、負担が大きいよ」
「そうなんだ。気休めかもしれないけど、猫将軍君が余興で牛若丸をするのは、今年が最後。それについては、安心していいからね」
「えっ、そうなの? 来年は無いの??」
「ただいまより、第二回目の会合を始めます」
二回目の会合も終始順調に推移し、クリスマス会の基本方針が速やかに決まった。それは、
一、序列意識の排除は自然に進める
二、この会合への新規参加は組単位で行う
の二つだった。この二つには、二十組での経験が活かされていた。僕と香取さんは、序列意識の排除を強引に進めなかった。上下意識を持たず級友達と接し、それが皆の日常になるよう自然に振舞ってきたのだ。そんな僕と香取さんに、級友達は真情を明かしてくれた。
――強引に進めていたら、反発の気持ちが生まれていたかもしれない。自然にするのが一番いいと思う――
級友達は会合で、そう明かしてくれたのである。僕は感激のあまり指が震え、キーボードを弾けず沈黙していた。その沈黙を誰かが取り上げるなり、他の誰かが「感動屋の猫将軍は感動して指を動かせないんだろ」と正確極まる書き込みをしたため、指の震えが全身に広がり僕はいささか困った。という状況を、級友達は心の目でしっかり見ていたのだと思う。矢継ぎ早に「猫将軍君に感化されて私も感動屋になっちゃった」「そして俺はそんな自分を気に入っている」「私も!」「俺も!」「「「だよね~~」」」系の書き込みがされてゆき、僕は冗談抜きで真剣に困ってしまった。まあ嬉しくもあったから、全然いいんだけどさ。
二十組の経験が生きたのは、基本方針の二つ目も同じだった。級友達によると、序列意識のない学校生活の素晴らしさを皆は夏休み前から朧気に感じていたらしく、それが文化祭の準備を経て一気に表面化したとの事だっだ。それがクラスに一体感を生み、育て、そしてそんな学校生活が楽しくて面白くて堪らなかったからこそ、こうして一人も漏れずこの会合に参加できているのだと皆は言ってくれたのである。僕は正直に、「もう一杯一杯なので勘弁して下さい」と書き込んだ。すると僕のせいで感動屋が増えたのはネタではなかったのかニ十組の書き込みが一時的に激減するも、任せろとばかりに旧十組の皆が多数の発言をしてくれたお陰で考察に支障は出なかった。それが功を奏し、個人ではなくクラス単位でこの会合に招待することを、速やかに決定できたのである。元級友と現級友の区別なく、みんなホントありがとう!
この二つの決定をもって今回の会合は終了し、残りは自由時間となった。僕は八時五十五分まで皆とワイワイやり、そして八十三人の仲間達と盛大に別れの挨拶をして通信を切った。トイレに行き布団に潜り込み、さあ寝ようという段階になってやっと、
「九時に寝る僕に合わせて、自由時間を作ってくれたのかな?」
との可能性が心に芽生えた。僕は布団を跳ね除け枕もとのハイ子へ手を伸ばし、2D画面を立ち上げようとしたが、睡眠時間を削ってそれをしたら皆の気遣いを無視する事になってしまう。かといって「気にしなくていいや」なんて思えるほど神経が太くなかった僕は、熟睡技術を駆使してもナカナカ寝られず少々困ってしまった。でも最後は皆の気遣いへの感謝が勝ち、就寝時間を十分超えただけで眠ることができたのだった。
翌二十八日。
月曜日の四限目に、クリスマス仮装会の初HRが始まった。
二十組は九月一日にクリスマス実行委員の「仮決め」をしていた事もあり、実行委員と委員代表がサクサク決まって非常に心地よかった。皆と過ごしてきた七か月半はもちろん、昨夜の会合や獅子会もこのサクサク進行に一役買っていると来れば、頬がほころばない訳がない。僕はにこにこしながら、クリスマス仮装会の初HRに参加していた。
が、にこにこ時間はある出来事を境にあっけなく終了した。実行委員長の「余興に案のある人はいませんか?」との呼びかけに応じ、香取さんが元気よく挙手し発言した途端、終わってしまったのだ。その発言は、
「猫将軍君が牛若丸を演じる台本を持ってきました。皆さんのお手元に映しますから目を通して下さい」
という、顔面蒼白になること必至の発言だったのである。
香取さんは、僕を牛若丸にするクリスマス会の台本を書くことを、二年に進級して間もない四月上旬の時点で既に公表していた。それを断固阻止したかった僕はあの手この手を使い、香取さんが心変わりするよう努めてきた。それが実り、夏休みが近づくにつれ香取さんは牛若丸云々を口にしなくなり、夏休み明け以降は一度も耳にしなかったから安心していたのだけど、ひょっとするとそれは、七カ月半もの時間を費やした陽動だったのかもしれない。その可能性に気づくや、香取さんを北斗に比肩する知恵者として意識した二年初日の出来事が蘇り、僕は頭を抱えて机に激突するというお約束を不覚にも披露してしまった。そうそれはまさしく不覚であり、牛若丸台本にテンパった僕がお約束を披露することを期待していた皆は、僕をこぞって称賛した。いやそんなに褒めても、これだけは引き下がらないからね!
と胸の中で不退転の決意をした僕を、きっと気遣ってくれたのだと思う。
「二年連続で牛若丸をするの、そんなに嫌?」
那須さんが優しい声を掛けてくれた。文化祭一日目の朝、那須さんは僕に「もう終わりにするね」と言った。その翌日の夜になってやっと僕は、那須さんに好意を抱かれていることを心の中で認めることが出来た。それが影響を及ぼしたのかは定かでないが、那須さんは文化祭終了以降も、それまでと全く変わらない付き合いをしてくれている。真山に相談したところ、那須さんが友達づき合いを望んでいるのだから友達のままでいい、とのアドバイスをもらった。確かに僕は那須さんの気持ちに応えられないし、また友人として那須さんを好きなのも事実だから、今は真山のアドバイスに従おうと思っている。
と横道に逸れたけど、僕は問いかけに首肯した。
「うん、去年と今年の二年連続は、負担が大きいよ」
「そうなんだ。気休めかもしれないけど、猫将軍君が余興で牛若丸をするのは、今年が最後。それについては、安心していいからね」
「えっ、そうなの? 来年は無いの??」
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